ダイハツが1年前倒しで投入する新設計思想“DNGA”とは?
2019年に第1弾
ダイハツ工業は21日、独自の設計思想「DNGA」に基づいて開発中の軽自動車を、2019年内に市場投入する方針を明らかにした。第1弾の車両は既存車種のフルモデルチェンジとなる。従来は20年までに投入する方針を示しており計画を1年前倒しした。
同日、滋賀工場(滋賀県竜王町)で会見した奥平総一郎社長(写真)は「DNGAに基づく車両の作り方や戦略はトヨタ自動車の車にも入る」とし、トヨタ向けのOEM(相手先ブランド生産)車にもDNGA設計を採り入れる意向を示した。
同時に、「CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)」といった車業界の新潮流への対応も急ぐ。特に電動化は「まず、ハイブリッド車(HV)の投入に向けて開発速度を上げる」としたが、投入時期は明言しなかった。東南アジアなどの新興国でも環境規制が強まると見ており、HV車で対応する考え。将来は電気自動車(EV)の投入も視野に入れる。
(日刊工業新聞2019年2月22日掲載)
“DNGA”のはじまりは、2016年1月、トヨタ自動車によるダイハツの完全子会社化の会見の席だった。ダイハツの三井正則社長(当時)は小型車開発の役割分担について問われ、「(トヨタの設計改革)TNGAとは軸が違う、ダイハツならではのクルマづくりをしていきたい。“DNGA”をやっていきたい」と語っていた。あれから3年、DNGAの断片はダイハツ幹部の口で少しずつ語られてきた。
(日刊工業新聞2017年3月17日掲載、内容・肩書きは当時のもの)
ダイハツ工業は16日、2025年度までの中長期経営計画「D―チャレンジ2025」を発表した。親会社のトヨタ自動車との連携を深め、25年度にダイハツ開発車はグローバル生産台数を15年度比約100万台増の250万台に設定。「DNGA」と呼ぶ新設計思想に基づいた車は軽自動車から投入し、小型車の「Aセグメント」「Bセグメント」まで広げる。新興国の攻略や先進技術の取り込みなども進め、ブランド力を高める。
ダイハツは16年8月にトヨタの完全子会社になり、3月には創立110周年を迎えた。新興国では生産拠点を構えるインドネシアやマレーシアといった東南アジア諸国連合(ASEAN)を最優先に、トヨタの事業基盤も活用して担う地域を広げていく。三井正則社長(写真)は「生産は両社の持つ既存の事業体を有効活用しながら、狙うは良品廉価なクルマづくりだ」と説明した。
電動化や自動運転、コネクティッド(つながる車)などの先進技術は軽自動車やコンパクト車ならではの仕様を想定しており「トヨタにダイハツが入って勉強する」(三井社長)。すでに手がけている安全機能については「既販車に後付けできないか研究している」(同)という。
(日刊工業新聞2017年8月23日掲載、内容肩書きは当時のもの)
ダイハツ工業執行役員調達本部本部長・枝元俊典氏 インタビュー
―トヨタ自動車による完全子会社化で新興国小型車事業を任されました。
「トヨタグループ内で各社の役割が明確化され、ダイハツは軽自動車と新興国小型車領域を担うことになった。その中で調達は、DNGA(開発中の新設計思想)実現を通じてダイハツらしい良品廉価なモノづくりを実現しなければならない」
―具体的には。
「ダイハツは先端技術の低コスト化、コンパクト化を考えなければならない会社。調達としても、先端技術を社会のみんなが使えるようにしないといけない。技術開発の進度を見つつ、段階に応じた発注シナリオを策定・実行する。DNGAに対して調達部門は部品別発注戦略を具体的に描き始めている。新興国は未成熟なサプライヤーが多い。支援しつつ、現地現物で良品廉価な部品を一緒につくり上げていくことが重要だ」
―先端技術をいち早く“みんなの技術にする”ための仕掛けは。
「今、盛んに行っているのが、週一回の割合でサプライヤー5、6社に本社へ来てもらって、新製品を説明してもらう展示会。調達部門だけで無く、技術部門や経営陣なども見に行って、DNGAに織り込めるような技術、その先の技術までを見極めようとしている」
―従来との違いは。
「昨年までは年5―6回で、ダイハツに合ったものを提案してもらう姿勢だった。これを改めて、皆さんの技術を知りたいというスタンスで、取引の有無にとらわれず、自動運転などの新技術だけでなく、軽量化や低コスト化など多様な提案を頂いている。面白いものも多い。各社の技術進化への取り組みは、大小の規模を問わず、目を見張るものがある。オープン&フェアの思想で、そういったものを上手に採用していくのが調達の役割だ」
―完全子会社となり、トヨタグループのサプライヤーとの関係強化も期待できます。
「従来から取引はある。高い技術を持つ企業が多く、当社が十分に見られなかった部分をオールトヨタグループの位置付けで見ることができればと思っている。ただ、先端技術は簡単ではない。腹を割った話をしながら、グループの絆を強め、新しい関係を築きたい」
「完全子会社化の狙いは両社のそれぞれの強みで、それぞれの弱みを補完し、グループの力の最大化を図ること。ダイハツは軽で事業を成立させてきた自負がある。この経験をグループ全体に生かしたい」
(聞き手=大阪・松中康雄)
(日刊工業新聞2018年6月14日掲載、内容・肩書きは当時のもの)
自動車メーカーは電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)の開発に力を注ぐ。世界で進む環境規制を背景に、電動化は避けて通れない。低価格・低燃費のエンジン車が強みのダイハツ工業は電動化とどう向き合うのか。エンジン開発責任者の茨木幹上級執行役員は、「電動化に取り組まなければ車メーカーと認められなくなる」と時代の要請を認める。茨木上級執行役員に開発方針を聞いた。
―2020年までに新設計思想「DNGA」に基づく軽自動車を投入する計画です。
「低燃費・低価格の路線は変わらない。可変圧縮や高圧縮燃焼といった目新しい技術ではなく、既存技術を最大限使う。機械の動きなどの無駄をなくし熱効率を上げる。DNGA第1弾の燃費性能は、従来測定方法のJC08モードより厳しいWLTCモードで評価しても、現行品と同じ数値を出したい」
―既存技術をどのように活用しますか。
「(圧縮比よりも膨張比を大きくして熱効率を改善する)アトキンソンサイクルに、ターボチャージャー(過給器)や排ガス再循環装置(EGR)を組み合わせる方法がある。燃焼しにくくなり、点火系の課題克服が必要だ。他社は筒内に燃料を直接噴射する直噴エンジンの採用が多いが、当社はコストと効果を考え、燃焼室直前の吸気系へ燃料を供給するポート噴射にこだわる。主力小型車を直噴化する考えはない」
―HVなど電動化技術の取り組みは。
「地域や規制により、方式が変わる可能性がある。エンジンブロックやヘッドなどは技術を磨いて共通部分とするが、後から付けるEGRや可変バルブタイミング機構などをHV向けにしたり発電用に機能を絞ったりする方法もあるだろう」
―エンジンの可能性をどう見ていますか。
「エンジン需要はまだ続く。インドネシアやマレーシアなど当社主力の東南アジア、トヨタ自動車グループ内で任されている新興国は、内燃機関を活用する余地がまだある。新興国は電力インフラなどを考えるといきなりEVが普及するのは難しく、エンジンを使うHVから入るだろう」
(聞き手=大阪・錦織承平)
同日、滋賀工場(滋賀県竜王町)で会見した奥平総一郎社長(写真)は「DNGAに基づく車両の作り方や戦略はトヨタ自動車の車にも入る」とし、トヨタ向けのOEM(相手先ブランド生産)車にもDNGA設計を採り入れる意向を示した。
同時に、「CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)」といった車業界の新潮流への対応も急ぐ。特に電動化は「まず、ハイブリッド車(HV)の投入に向けて開発速度を上げる」としたが、投入時期は明言しなかった。東南アジアなどの新興国でも環境規制が強まると見ており、HV車で対応する考え。将来は電気自動車(EV)の投入も視野に入れる。
(日刊工業新聞2019年2月22日掲載)
“DNGA”のはじまりは、2016年1月、トヨタ自動車によるダイハツの完全子会社化の会見の席だった。ダイハツの三井正則社長(当時)は小型車開発の役割分担について問われ、「(トヨタの設計改革)TNGAとは軸が違う、ダイハツならではのクルマづくりをしていきたい。“DNGA”をやっていきたい」と語っていた。あれから3年、DNGAの断片はダイハツ幹部の口で少しずつ語られてきた。
軽からBセグメントまで
(日刊工業新聞2017年3月17日掲載、内容・肩書きは当時のもの)
ダイハツ工業は16日、2025年度までの中長期経営計画「D―チャレンジ2025」を発表した。親会社のトヨタ自動車との連携を深め、25年度にダイハツ開発車はグローバル生産台数を15年度比約100万台増の250万台に設定。「DNGA」と呼ぶ新設計思想に基づいた車は軽自動車から投入し、小型車の「Aセグメント」「Bセグメント」まで広げる。新興国の攻略や先進技術の取り込みなども進め、ブランド力を高める。
ダイハツは16年8月にトヨタの完全子会社になり、3月には創立110周年を迎えた。新興国では生産拠点を構えるインドネシアやマレーシアといった東南アジア諸国連合(ASEAN)を最優先に、トヨタの事業基盤も活用して担う地域を広げていく。三井正則社長(写真)は「生産は両社の持つ既存の事業体を有効活用しながら、狙うは良品廉価なクルマづくりだ」と説明した。
電動化や自動運転、コネクティッド(つながる車)などの先進技術は軽自動車やコンパクト車ならではの仕様を想定しており「トヨタにダイハツが入って勉強する」(三井社長)。すでに手がけている安全機能については「既販車に後付けできないか研究している」(同)という。
調達部門が描くDNGA戦略
(日刊工業新聞2017年8月23日掲載、内容肩書きは当時のもの)
ダイハツ工業執行役員調達本部本部長・枝元俊典氏 インタビュー
―トヨタ自動車による完全子会社化で新興国小型車事業を任されました。
「トヨタグループ内で各社の役割が明確化され、ダイハツは軽自動車と新興国小型車領域を担うことになった。その中で調達は、DNGA(開発中の新設計思想)実現を通じてダイハツらしい良品廉価なモノづくりを実現しなければならない」
―具体的には。
「ダイハツは先端技術の低コスト化、コンパクト化を考えなければならない会社。調達としても、先端技術を社会のみんなが使えるようにしないといけない。技術開発の進度を見つつ、段階に応じた発注シナリオを策定・実行する。DNGAに対して調達部門は部品別発注戦略を具体的に描き始めている。新興国は未成熟なサプライヤーが多い。支援しつつ、現地現物で良品廉価な部品を一緒につくり上げていくことが重要だ」
―先端技術をいち早く“みんなの技術にする”ための仕掛けは。
「今、盛んに行っているのが、週一回の割合でサプライヤー5、6社に本社へ来てもらって、新製品を説明してもらう展示会。調達部門だけで無く、技術部門や経営陣なども見に行って、DNGAに織り込めるような技術、その先の技術までを見極めようとしている」
―従来との違いは。
「昨年までは年5―6回で、ダイハツに合ったものを提案してもらう姿勢だった。これを改めて、皆さんの技術を知りたいというスタンスで、取引の有無にとらわれず、自動運転などの新技術だけでなく、軽量化や低コスト化など多様な提案を頂いている。面白いものも多い。各社の技術進化への取り組みは、大小の規模を問わず、目を見張るものがある。オープン&フェアの思想で、そういったものを上手に採用していくのが調達の役割だ」
―完全子会社となり、トヨタグループのサプライヤーとの関係強化も期待できます。
「従来から取引はある。高い技術を持つ企業が多く、当社が十分に見られなかった部分をオールトヨタグループの位置付けで見ることができればと思っている。ただ、先端技術は簡単ではない。腹を割った話をしながら、グループの絆を強め、新しい関係を築きたい」
「完全子会社化の狙いは両社のそれぞれの強みで、それぞれの弱みを補完し、グループの力の最大化を図ること。ダイハツは軽で事業を成立させてきた自負がある。この経験をグループ全体に生かしたい」
(聞き手=大阪・松中康雄)
主力小型車、直噴化せず
(日刊工業新聞2018年6月14日掲載、内容・肩書きは当時のもの)
自動車メーカーは電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)の開発に力を注ぐ。世界で進む環境規制を背景に、電動化は避けて通れない。低価格・低燃費のエンジン車が強みのダイハツ工業は電動化とどう向き合うのか。エンジン開発責任者の茨木幹上級執行役員は、「電動化に取り組まなければ車メーカーと認められなくなる」と時代の要請を認める。茨木上級執行役員に開発方針を聞いた。
―2020年までに新設計思想「DNGA」に基づく軽自動車を投入する計画です。
「低燃費・低価格の路線は変わらない。可変圧縮や高圧縮燃焼といった目新しい技術ではなく、既存技術を最大限使う。機械の動きなどの無駄をなくし熱効率を上げる。DNGA第1弾の燃費性能は、従来測定方法のJC08モードより厳しいWLTCモードで評価しても、現行品と同じ数値を出したい」
―既存技術をどのように活用しますか。
「(圧縮比よりも膨張比を大きくして熱効率を改善する)アトキンソンサイクルに、ターボチャージャー(過給器)や排ガス再循環装置(EGR)を組み合わせる方法がある。燃焼しにくくなり、点火系の課題克服が必要だ。他社は筒内に燃料を直接噴射する直噴エンジンの採用が多いが、当社はコストと効果を考え、燃焼室直前の吸気系へ燃料を供給するポート噴射にこだわる。主力小型車を直噴化する考えはない」
―HVなど電動化技術の取り組みは。
「地域や規制により、方式が変わる可能性がある。エンジンブロックやヘッドなどは技術を磨いて共通部分とするが、後から付けるEGRや可変バルブタイミング機構などをHV向けにしたり発電用に機能を絞ったりする方法もあるだろう」
―エンジンの可能性をどう見ていますか。
「エンジン需要はまだ続く。インドネシアやマレーシアなど当社主力の東南アジア、トヨタ自動車グループ内で任されている新興国は、内燃機関を活用する余地がまだある。新興国は電力インフラなどを考えるといきなりEVが普及するのは難しく、エンジンを使うHVから入るだろう」
(聞き手=大阪・錦織承平)