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家電業界の動向左右する、パナソニックが始めたIoT実験の中身

洗濯機やエアコンなどの家電をインターネットに常時接続
家電業界の動向左右する、パナソニックが始めたIoT実験の中身

パナソニック公式動画より(写真はイメージ)

 IoT(モノのインターネット)家電を支える通信技術として、省電力広域の無線通信技術「LPWA」が注目されている。パナソニックは同技術を使い、洗濯機やエアコンなどの家電をインターネットに常時接続する実証実験を業界に先駆けて2018年秋に始めた。顧客の環境に応じてサービスを改善するという、同社の「くらしアップデート」を象徴する展開だ。ただ実用化には技術や制度上の課題も多い。

幅広い用途


 IoT家電は利用者にとっては家電の遠隔操作や機能の向上が、メーカーにとっては製品出荷後のアフターメンテナンス、顧客ニーズの把握など幅広い用途が期待される。現在、家電のネット接続方法はWi―Fi(ワイファイ)などの無線LANが一般的。ただ利用するには家庭内にブロードバンド回線を敷設する必要があり、利用者の導入ハードルを上げている。

 一方、LPWAの場合、屋外の基地局を使うため家庭内への回線敷設を不要にできる。パナソニックは今回「LoRa」「LTE―M」「NB―IoT」という3種類のLPWAを検証している。特にLTE―MとNB―IoTは携帯電話網を活用した方式で、通信キャリアの携帯電話基地局を使う。

 検証項目の一つは無線の到達性能。Wi―Fiの場合、アクセスポイントを屋内に置くため、接続対象と距離は近い。だが屋外の基地局を使う場合、壁や床で電波が減衰しやすい。家庭ごとに異なる電波環境をどこまで考慮するかが課題だ。

 コストも重要だ。一般的にLPWAは端末を含め低コストなのが特徴。だが携帯電話網を使う場合、通常の携帯電話と同様、電波利用料を国に納める必要がある。そのため通信キャリアもLPWAの利用料金を下げにくい。パナソニックの小塚雅之デジタルトランスフォーメーション戦略室長は「データ量が少ないLPWAが(携帯電話と)同じ料金体系では難しい」と制度自体の課題を指摘する。

 また、家電業界の動向に詳しい早稲田大学の長内厚教授は「技術の変化と商品の買い替え周期がかみ合っていない」と指摘する。家電は通常10年近く使うが、搭載した通信技術は数年で技術が更新され、時代遅れとなってしまう。

家電と通信融合


 とはいえ家電と通信の融合は、もはや避けて通れない。パナソニックの今回のNB―IoTの実証はソフトバンクと共同で進め、新技術「NIDD」の実証も兼ねる。同技術は家電へのIPアドレス割り当てを不要にすることで、外部からサイバー攻撃を受けるリスクを低減できる。ソフトバンクの丹波広寅IoT事業推進本部長は「ここ十数年の携帯電話のセキュリティー技術が全て入っている」と自信を見せる。

 これらの実証実験は、いずれも検証項目が多く、実用化のスケジュールは遅れ気味。パナソニックはこれらの技術を検証・比較し、実用化に向け最適な方式を選ぶ考えだ。実証の行方は、家電業界全体の動向を左右しそうだ。

      

(文=大阪・園尾雅之)
日刊工業新聞2019年2月22日

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