車もテレビも家具・衣服も…“サブスク”サービスの拡大が止まらない
継続的な顧客接点を作る
モノがなかなか売れない時代に、一定の料金を支払えば商品を使える定額制(サブスクリプション)サービスを導入する企業が増えている。モノを売るだけでなく、継続的に顧客と接点を持ち、その反応をマーケティングに反映する狙いもある。定額制を採用する企業はこれからますます拡大しそうだ。
トヨタ自動車は自動車の月利用の定額サービスを手がける新会社「KINTO(キント)」(名古屋市西区)を設立し、東京都内の販売店で試験導入を始めた。自動車をつくる会社からモビリティー・カンパニーに変革する目標を掲げるトヨタは、今回の取り組みをその施策の一環とする。東京での結果を踏まえ、今夏以降に全国展開を一斉に始める。
キントの小寺信也社長は、「クルマを買うのは普通の人にとっては一大事。もっと簡単にクルマとつきあえる方法はないか」と発想の原点を紹介する。6日に始めた高級車ブランド「レクサス」が対象の「キントセレクト」では、3年間で6車種を乗り継ぐことができる。
月額料金の19万4400円(消費税込み)には車両代金や登録時の諸費用・税金、任意保険、自動車税を含む。
ガソリン代と駐車場、突然の出費以外は不要のシンプルなプランに仕上げた。3月1日にはトヨタ車が対象の「キントワン」も試験導入する。
オフィスに欠かせないプリンターにも定額サービスが広がる。エプソン販売(東京都新宿区)は、定額制サービス「エプソンのスマートチャージ」を2014年8月に開始。A4プリンターは月5000円から、A3プリンターは月8000円から利用できる。機器本体を購入せずに、規定枚数までプリント・コピーし放題となる。インク代や保守サービスを全て含んだ新しいサービスモデルという。
キヤノンマーケティングジャパンは、ビジネスインクジェット複合機の定額利用サービス(月額1万3000円、消費税抜き)を18年12月に始めた。顧客からは「初期導入コストが抑えられる」「月々の費用を固定化できる」と好評だという。
一方のリコーは、クラウド上の各種アプリケーション(応用ソフト)を月額課金で提供する定額制サービスを1月に始めた。クラウドと連携しやすい複合機は94万3000円(消費税抜き)から販売している。
パナソニックは18年2月から一部のテレビを対象に月額制サービスを始めた。系列店「パナソニックショップ」が無料で修理し、数年に1度、新製品に交換できるサービスを提供する。期間が3年と5年の二つのプランがあり、3年か5年で最新のテレビを自宅で視聴できる。
55インチの有機ELテレビでの利用金額は1日当たり、3年プランで355円、5年プランで243円にそれぞれ設定。プランを継続せず、残価を支払って同じテレビを使い続ける選択もある。
系列店はこうして利用者の自宅に訪問することで、顧客との接点を持てる。いずれ家族構成や生活ステージに合わせ、冷蔵庫の買い替え提案するなど「囲い込み」型の商売のきっかけになることを期待する。
さらに利用者にはインターネット会員「クラブパナソニック」に加入してもらう。同サイトでは家電製品の便利な使い方などを紹介する一方、家電の使用動向などのデータベースとしても生かせる。
実店舗とネットの双方から顧客とつながることで、製品を売りつつも顧客に適切なサービスを提供し続けるのが狙いの一つだ。
アイスタイルは、月に1度サンプルサイズの基礎化粧品やメーキャップ製品の詰め合わせを届けるサービス「ブルームボックス」を提供している。月額1620円(消費税抜き)で、自分の肌に合いそうなコスメが届く仕組みだ。試用の機会を増やし、製品の販売につなげる。
初回申込時に専用のカルテに肌の特徴を登録してもらう。「デパートコスメ」や「オーガニック」といった自分の使いたい化粧品も選べる。これを元に「乾燥肌」や「敏感肌」など、各特徴に合った化粧品を詰め合わせたボックスを送る。
ボックスは毎月テーマを決め、数十種類用意しているという。中にどのような化粧品が入っているかは届いてからのお楽しみだ。
購入しても自身の肌には合わないこともある化粧品。定額制で多種多様なモノが少量ずつ届くようにすれば、「自分に合った化粧品を見つけたい」という消費者のニーズに応えられる。
メーカー側からみても、試供品配布コストを削減でき、ターゲットユーザーを絞って配布する手間も省ける。今後も化粧品業界で同様のサービスは広がりをみせそうだ。
定額制サービスの導入は家具や衣服にも広がる。
カマルクジャパン(東京都渋谷区)はテーブルやイス、ソファ、ベッドなどの家具を最大2年間利用できる定額制サービスを18年9月に本格的に始めた。月額500円から、1台単位で借りられる。期間終了後は借りた家具の購入も選べる。デザイン性の高い家具を気軽に借りられるとして人気だ。
また、レナウンは18年7月から月額4800円(消費税抜き)からビジネススーツを借りられるサービス「着ルダケ」の本格展開を開始した。クリーニングの手間を省き、衣替え後の保管場所の確保に悩まなくても済む。春夏シーズン向けにクールビズ対応プランも導入している。
商品・サービスに対して初期コストのかかる「所有」ではなく、「利用」を選択するよう意識が変化したことがサブスクリプション普及のベースにある。
足元では製造業などにもサブスクリプションが広がる。日本のような成熟市場では新規顧客を開拓し続けるのは難しい。このような環境では既存顧客と長期間取引することが有効だ。取引を継続するには、顧客一人ひとりにマッチしたサービスを提供して体験価値を高めることが不可欠。サブスクリプションにより、製造業は顧客サービスに一層注力することになるだろう。
サービス提供で得た膨大なデータを分析すれば、生の顧客の声を反映した商品・サービス開発につながる。サブスクリプションの大きなメリットだ。
(文=特別取材班)
トヨタ-3年で6車種乗れる
トヨタ自動車は自動車の月利用の定額サービスを手がける新会社「KINTO(キント)」(名古屋市西区)を設立し、東京都内の販売店で試験導入を始めた。自動車をつくる会社からモビリティー・カンパニーに変革する目標を掲げるトヨタは、今回の取り組みをその施策の一環とする。東京での結果を踏まえ、今夏以降に全国展開を一斉に始める。
キントの小寺信也社長は、「クルマを買うのは普通の人にとっては一大事。もっと簡単にクルマとつきあえる方法はないか」と発想の原点を紹介する。6日に始めた高級車ブランド「レクサス」が対象の「キントセレクト」では、3年間で6車種を乗り継ぐことができる。
月額料金の19万4400円(消費税込み)には車両代金や登録時の諸費用・税金、任意保険、自動車税を含む。
ガソリン代と駐車場、突然の出費以外は不要のシンプルなプランに仕上げた。3月1日にはトヨタ車が対象の「キントワン」も試験導入する。
プリンター各社-消耗品・保守費用込み
オフィスに欠かせないプリンターにも定額サービスが広がる。エプソン販売(東京都新宿区)は、定額制サービス「エプソンのスマートチャージ」を2014年8月に開始。A4プリンターは月5000円から、A3プリンターは月8000円から利用できる。機器本体を購入せずに、規定枚数までプリント・コピーし放題となる。インク代や保守サービスを全て含んだ新しいサービスモデルという。
キヤノンマーケティングジャパンは、ビジネスインクジェット複合機の定額利用サービス(月額1万3000円、消費税抜き)を18年12月に始めた。顧客からは「初期導入コストが抑えられる」「月々の費用を固定化できる」と好評だという。
一方のリコーは、クラウド上の各種アプリケーション(応用ソフト)を月額課金で提供する定額制サービスを1月に始めた。クラウドと連携しやすい複合機は94万3000円(消費税抜き)から販売している。
パナソニック-常に最新テレビ楽しめる
パナソニックは18年2月から一部のテレビを対象に月額制サービスを始めた。系列店「パナソニックショップ」が無料で修理し、数年に1度、新製品に交換できるサービスを提供する。期間が3年と5年の二つのプランがあり、3年か5年で最新のテレビを自宅で視聴できる。
55インチの有機ELテレビでの利用金額は1日当たり、3年プランで355円、5年プランで243円にそれぞれ設定。プランを継続せず、残価を支払って同じテレビを使い続ける選択もある。
系列店はこうして利用者の自宅に訪問することで、顧客との接点を持てる。いずれ家族構成や生活ステージに合わせ、冷蔵庫の買い替え提案するなど「囲い込み」型の商売のきっかけになることを期待する。
さらに利用者にはインターネット会員「クラブパナソニック」に加入してもらう。同サイトでは家電製品の便利な使い方などを紹介する一方、家電の使用動向などのデータベースとしても生かせる。
実店舗とネットの双方から顧客とつながることで、製品を売りつつも顧客に適切なサービスを提供し続けるのが狙いの一つだ。
アイスタイル-自分に合う化粧品探せる
アイスタイルは、月に1度サンプルサイズの基礎化粧品やメーキャップ製品の詰め合わせを届けるサービス「ブルームボックス」を提供している。月額1620円(消費税抜き)で、自分の肌に合いそうなコスメが届く仕組みだ。試用の機会を増やし、製品の販売につなげる。
初回申込時に専用のカルテに肌の特徴を登録してもらう。「デパートコスメ」や「オーガニック」といった自分の使いたい化粧品も選べる。これを元に「乾燥肌」や「敏感肌」など、各特徴に合った化粧品を詰め合わせたボックスを送る。
ボックスは毎月テーマを決め、数十種類用意しているという。中にどのような化粧品が入っているかは届いてからのお楽しみだ。
購入しても自身の肌には合わないこともある化粧品。定額制で多種多様なモノが少量ずつ届くようにすれば、「自分に合った化粧品を見つけたい」という消費者のニーズに応えられる。
メーカー側からみても、試供品配布コストを削減でき、ターゲットユーザーを絞って配布する手間も省ける。今後も化粧品業界で同様のサービスは広がりをみせそうだ。
家具・衣服-期間終了後に購入可能
定額制サービスの導入は家具や衣服にも広がる。
カマルクジャパン(東京都渋谷区)はテーブルやイス、ソファ、ベッドなどの家具を最大2年間利用できる定額制サービスを18年9月に本格的に始めた。月額500円から、1台単位で借りられる。期間終了後は借りた家具の購入も選べる。デザイン性の高い家具を気軽に借りられるとして人気だ。
また、レナウンは18年7月から月額4800円(消費税抜き)からビジネススーツを借りられるサービス「着ルダケ」の本格展開を開始した。クリーニングの手間を省き、衣替え後の保管場所の確保に悩まなくても済む。春夏シーズン向けにクールビズ対応プランも導入している。
私はこう見る・富士通総研経済研究所担当部長・田中秀樹氏
商品・サービスに対して初期コストのかかる「所有」ではなく、「利用」を選択するよう意識が変化したことがサブスクリプション普及のベースにある。
足元では製造業などにもサブスクリプションが広がる。日本のような成熟市場では新規顧客を開拓し続けるのは難しい。このような環境では既存顧客と長期間取引することが有効だ。取引を継続するには、顧客一人ひとりにマッチしたサービスを提供して体験価値を高めることが不可欠。サブスクリプションにより、製造業は顧客サービスに一層注力することになるだろう。
サービス提供で得た膨大なデータを分析すれば、生の顧客の声を反映した商品・サービス開発につながる。サブスクリプションの大きなメリットだ。
(文=特別取材班)
日刊工業新聞2019年2月15日