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半導体投資が減速、装置メーカー経営者たちが読む再浮上の時期

半導体投資が減速、装置メーカー経営者たちが読む再浮上の時期

シリコンウエハー(写真はイメージ)

 半導体製造装置業界にとって2019年は見通しが難しい年になりそうだ。米中貿易摩擦などの影響で半導体関連の投資意欲の低下や様子見が広がりつつある。中長期的にはデータエコノミーの進展で、半導体の世界的な需要増が追い風になるものの、市況の回復がいつになるか読みづらく、各社は警戒している。

潮目変わる年、進まぬ投資


 「並外れて異常に動きが激しく、期待外れの四半期だった」―。半導体大手の米エヌビディアのジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO)は28日の声明で、下方修正についてこう説明した。

 同社は同日、18年11月―19年1月の売上高を22億ドル(約2400億円)程度に下方修正した。これは従来予想より約19%低い。中国を中心とする経済の減速により、ゲーム用GPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)の販売が予想を下回ったほか、データセンター向けも不振だった。

 ファンCEOは先行きについて、「私たちの戦略と成長ドライバーに自信を持っている」とコメントしたものの、同社の株式は前営業日比で約14%下落した。

 三菱UFJモルガン・スタンレー証券の宮本武郎シニアアナリストは「米中貿易摩擦が長期的なものにならなければ(影響は)一時的なのではないか」との見方を示すものの、29日の東京株式市場では半導体関連銘柄の値下げが相次いだ。

 18年秋の段階では、設備投資の先送りは一部の特定半導体メーカーとされていた。だが、足元では「どこで生産するのが良いのかということも含め、顧客全体に様子見が広がっている」(半導体製造装置の中堅メーカー)状態だという。

 半導体製造装置大手の垣内永次SCREENホールディングス社長は、「(世界情勢で)いろんなことが起き、投資意欲は抑制気味。今年は警戒が必要な年」と指摘する。半導体製造装置向け機器などを手がける堀場厚堀場製作所会長は「潮目の変わる年。従来の延長線上ではなく、新しいことにチャレンジしないといけない」と気を引き締める。

 また、東京エレクトロンの河合利樹社長兼CEOも、中国拠点について「中国は薄型ディスプレー(FPD)製造装置の大きな市場でもある。米中貿易摩擦を注視しながら、粛々と動向に合わせて対応していく」と慎重な構えを見せる。

 半導体製造装置業界では「19年夏には回復する」との見立てがあり、2月上旬の春節(旧正月)明けの中国や台湾企業の動きがまずは目安だ。ただ、「中長期的に市場が成長するという見通しに変わりはない。だが、旧正月後に動きがない場合は、19年いっぱいは厳しいかも」(中堅半導体製造装置メーカー)との声も漏れ聞こえ始めた。

中国に陰りも、20年度から成長軌道へ


 半導体製造装置メーカーにとって、国策として半導体産業の育成に力を注ぐ中国は最大の注目市場だ。中国の半導体市場は、政府の産業政策「中国製造2025」により活発化している。

 半導体製造装置・材料の国際団体である米SEMIによると、18年7―9月期のグローバルの半導体製造装置出荷額のうち、地域別で最も金額が大きかったのは中国で、前年同期比約2倍となる39億8000万ドル(約4400億円)と初の首位にたった。

 ただ、そうした中で米中の貿易摩擦が過熱。半導体製造装置市場は、19年に前年比4・0%減の595億8000万ドルとなる見通しだ。IoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)の普及で半導体需要は高水準で推移すると見られるものの、両国の関税のあおりを受けて一時的に減速しそうだ。

 一方、ディスコの関家一馬社長兼CEOは、「中国は半導体の国産化を進める上で設備投資は継続するだろう。米中貿易摩擦が終わった時に、最終的には世界で過剰設備になる可能性もあるが、それまでは設備の重複が起きるため、ポジティブな要素が考えられる」とみる。

 また、日本半導体製造装置協会による日本製半導体装置の需要予測では、メモリー投資に慎重な見方をとった結果、19年度予測は前年度比0・5%増の2兆2810億円としている。20年度からは引き続き成長軌道に乗り、同7・0%増の2兆4407億円まで伸びると見通す。

 半導体装置メーカーにとって19年度は米中貿易摩擦の影響で一時的な減速は避けられない見通しだが、AIやIoTの全世界的な普及により、中長期的な半導体需要は底堅いといえそうだ。
                

アナリストの見方


<三菱UFJモルガン・スタンレー証券 シニアアナリスト・宮本武郎氏>
 中国に米国の半導体製造装置が輸出できないため、生産ラインが作れず、日系の半導体製造装置メーカーの製品にもキャンセルが出ているはずだ。中国で電気製品の需要が減ると、半導体需要も減少するため、半導体メーカーは設備投資を遅らせることになる。

 例えば華為技術(ファーウェイ)の製品が米国に輸出できなければ、同社のトータルの生産台数は減る。ファーウェイの子会社が手がけるスマートフォン向け半導体の製造は、(半導体受託生産大手の)台湾積体電路製造(TSMC)がになっている。(ファーウェイの失速で)TSMCが設備投資のペースを落とし、半導体製造装置各社に影響が及ぶといった動きは、他社でも起こりそうだ。

<ニッセイアセットマネジメント チーフアナリスト・醒井周太氏>
 19年の世界の半導体装置市場は前年比で、2ケタの落ち込みになるのではないか。1番の要因は半導体メモリーの世界最大手である韓国・サムスン電子が設備投資を先送りしていることだ。18年の需要の山を作ったのはサムスンだ。19年は「山高ければ谷深し」とならざるを得ない。

 米インテルや台湾TSMCも19年の市況は横ばいを予想しており、これら3社で設備装置市場の6割から7割を決めてしまうので、必然的にマイナスになる。19年後半に設備投資が回復するといった見方もあるが、これも慎重に見ないといけない。19年に落ち込んだ分が、20年以降にV字回復するか。今後の焦点になるだろう。
(文=福沢尚季、京都・松中康雄、長塚崇寛)

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