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日本版「GAFA」出でよ!特許庁が矢継ぎ早に知財支援

日本版「GAFA」出でよ!特許庁が矢継ぎ早に知財支援

特許庁が2018年7月に設置したスタートアップ支援チーム

 特許をはじめとする知的財産は日本の未来を切り拓く原動力だ。独創的な技術やアイディアを創出し、ビジネスとして成功するには戦略的な知財活用がカギを握る。知財を武器に飛躍を図るスタートアップや中小企業、さらには地域の魅力発信や東日本大震災からの復興につなげる動きなど、知財戦略の最前線を追う。初回はスタートアップの挑戦を後押しする取り組みに迫る。

無形資産が競争力の源泉になる時代


 米国が中国に制裁関税を課したことに象徴されるように、国の競争力を左右するのはいまや、特許やノウハウといった知的財産である。

 GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)と呼ばれる巨大企業も、大量のデータが蓄積されるプラットフォームという無形資産を武器に競争優位性を発揮。短期間に急成長を遂げるスタートアップも事業拡大の原動力は画期的なビジネスアイデアや技術といった知的財産だ。こうした経済を「資本主義」ならぬ「知本主義」と呼ぶ声もある。

 デジタル技術の進展を背景に、急成長を遂げるユニコーン(評価額が10億ドル以上の未公開企業)が業界勢力図を塗り替え、産業構造そのものさえ変える時代。

 日本はこれら熾烈(しれつ)なイノベーション創出競争をいかに勝ち抜き、経済成長につなげるか。スタートアップの存在なくして語れない。特許庁は、そんな企業の挑戦を知的財産面から後押しすべく、2018年7月に「スタートアップ支援チーム」を設置し、スタートアップ支援施策を矢継ぎ早に打ち出している。

知財戦略、チームで支える


 2018年8月末。東京・霞が関にスタートアップ経営者の姿があった。特許庁が開始した「知財アクセラレーションプログラム(IPAS)」の支援先として選定された10社。超小型人工衛星の設計開発で知られるアクセルスペースや再生医療分野で用いられる細胞選別技術を開発したaceRNATechnologiesをはじめ、いずれも独創的な技術やビジネスモデルで注目を集める企業ばかりである。

 IPASは、スタートアップのビジネスに応じた最適な知財戦略構築を後押しし事業加速を目指す取り組みとしてスタート。複数分野の専門家がチームを編成し、企業へ一定期間派遣する。

 技術やビジネスモデルを事業展開し、競争優位性を発揮するには、特許を出願し権利化したり、逆に自社に情報を留めノウハウ化することで模倣を防ぐといったさまざまな「知財戦略」が必要となる。加えて、知的財産の適切な管理は、大手企業との協業や資金調達の際での評価につながる効果もある。

 ところが知財意識の高い米国や中国のスタートアップに対し、日本では、創業時点で知的財産を意識していた企業はわずか2割にとどまるなど、その必要性を認識しながらも、経営資源が限られていることから具体的なアクションに踏み出せないでいるのが実情だ。そこで今回のプログラムでは、企業と専門家が一体となって「経営×知財」戦略をともに創り上げることで、ビジネスの成長を目指す。

 「ベンチャー企業に焦点を当てた支援策を充実し、イノベーションが連続的に創出される環境整備が必要」。2018年6月に決定した政府の知的財産推進計画では、今後の方向性について「既存の中小企業向け支援策は、ベンチャー企業独自の課題に対応しきれていない」として、スタートアップに特化した新たな支援策の必要性を指摘した。

スピード審査を実現


 スタートアップ独自の課題とは何か。技術進展のスピードに応じた権利をいかに確保するかは、迅速かつ機動的な経営を支えるファクターのそのひとつであろう。「誰よりも早く権利化したい」とのニーズに応える方策のひとつとして、2018年7月からスタートしたのが、通常の早期審査よりさらに迅速に審査を行う「スーパー早期審査制度」の利用要件緩和である。

 この制度は、申請する特許にかかる発明が外国特許庁にも出願済みであることが条件だが、スタートアップであれば外国出願なしでも発明を実施、あるいは事業化していれば利用できる形に見直された。同制度を使うと通常は平均約9カ月かかる一次審査までの期間が約0.8カ月(2017年度実績平均)まで短縮される。

 同時に、特許取得経験の少ないスタートアップの早期権利化も支援する。審査官と面接し、きめ細かいアドバイスを受けながら通常の早期審査のスピードで審査する制度も新たに導入。これを使うことにより、一次審査を約2.3カ月(2017年度実績平均)で終えることができる。

その先に描くもの


 IPASやスーパー早期審査、知財戦略事例集の策定など、支援策に新機軸を打ち出してきた特許庁。その先に描くのは、「スタートアップ知財コミュニティ」の形成である。

 先月には、スタートアップやベンチャーキャピタル(VC)、事業会社などのアクセラレーター、弁理士や弁護士など知財の専門家などの相互交流を促し、さまざまな活動の「基地」となる会員制の交流サイト「IP KNOWLEDGEBASE for Startup」がオープンした。

 参加したスタートアップを含む関係者や専門家に対しては人工知能(AI)やバイオなどテーマ別の勉強会も開催予定だ。2019年は知財を核とした新たなスタートアップエコシステムが回り始める「元年」となるかもしれない。
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
今月のMETIジャーナルの政策特集は「知財で未来を切り拓こう」です。ご期待下さい。

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