シリコンバレーの悪しき習慣とはまったく違う道筋をたどったSiri

革新的技術で市場を切り拓いてきたSRIの事業化ノウハウとは?

 1990 年代初頭、日本の総合電機メーカーは、世界一にあった半導体事業を主力事業の一つとして日本経済を牽引していた。それが、2000 年以降になると、迫りくる韓国や台湾などの東アジア勢にその座を追われて、世界での存在感を失ってしまった。

 歴史的に見ると、アメリカではRCA 社やコダック社、ポラロイド社などの名門企業が消滅してしまっている。日本の大手企業もまた、同じ過程の途中にあると言っても過言ではない。

 一方、アメリカでは、アップルやグーグル、フェイスブックなどに見られる“Change the World”を標榜する企業がシリコンバレーを中心に起き、世界を席巻している。ところが日本では、そのレベルの革新や新ビジネスの創出への息吹すら感じられない状況である。

 なぜこのような事態に陥ったのか?どうすれば“真に世界を変える”事業を起こすことができるのか?その問いに対する答えのエッセンスが『“Hey Siri! 世界を変える仕事をするにはどうすればいいの?”』に詰まっている。
 

 著者は、ヘンリークレッセルとノーマン・ウィナスキーの二人。彼らは科学者としてiPhoneに搭載されているSiriをはじめとする画期的な技術を開発し、また幹部経営者として企業を成功に導いてきた。またベンチャーキャピタリストでもあり、多くの企業の成長をその目で見てきた。

 本書はよくあるシリコンバレーの華やかな成功物語でも、スター経営者の成功ストーリーでもない。彼らの経験の集大成として、トップを狙うベンチャー企業にとっての原則を、体系的にまとめたいわば一冊のガイドである。

 ベンチャーの最初のコンセプトから、トップ投資家との資金調達のための最初の会合、IPOを実行するかどうかの決定、さらに企業上場後のイノベーションの文化をどう維持するか。これらに対して、偉大な起業家やベンチャー・キャピタリストは、おそらくある共通のパターンを認識している。それを抽出、明確化し共有できるようにした。

Siriの成功


 世界初のバーチャル・パーソナル・アシスタントであるSiriを世に問うてから、わずか2週間後。彼らの元に、スティーブ・ジョブズから電話があった。予想よりもはるかに早い成果だった。

 その電話からさらに1年半。Siriはアップル社のiPhoneに搭載され、その中核をなすアプリケーションとなっていた。今やiPhoneは何千万人のユーザーに利用され、映画やテレビと同じように親しまれている。それを実現したのがSiriであり、iPhone4s の大ヒットを後押しすることで、莫大な利益を生み出した。

 この成功は異質と見られた。それまでのシリコンバレーでの一般的な成功とは、まったく違う道筋をたどったからだ。つまり、さまざまな失敗や度重なる方向転換を経験することなく、着実に、確信を持って頂点に立ったのだ。

 彼らは、起業しようとする人々の間に蔓延しがちな「度重なる失敗の後に軌道修正を頻繫に行うこと」、いわゆる失敗の文化を悪しき慣習と断言している。彼らの観点では、シリコンバレーで台頭して広がったこの風潮は、もっと有効に活用されたであろう人材に間違った方向を与え、莫大な社会的損失を生み出したという。

 もちろんこの手法は規模の小さい事業を進めていくときには有効な手段である。しかし、画期的な事業を起こすためには全く別のアプローチが必要なのだ。

それは「場当たり的」ではなく「より構成的」な手法である。試行錯誤的なアプローチは既存の事業計画通り奮闘しても上手くいかない時にだけ意味がある。しかし、最初から失敗を“戦略”として組み込んではいけない。彼らは企業を成功に導く4つの要素を挙げている。

<市場>早く成長する可能性のある大きな市場機会

<人材> 実行ができる卓越したチーム

<ソリューション> 競業を凌駕しうる差別化技術、もしくはビジネスソリューション

<価値提案と事業計画> 会社の価値、戦略および計画を明確に表し、そして必要な投資を得るための価値提案書と事業計画書


 偉大なるベンチャー企業を創るのはこの4つの要素であり、これが一つでも欠ければ成功の確率はゼロになると彼らは言う。4つの要素を踏まえて、彼らはどのようにSiriのビジネスを創り、育てていったのか。Siri以外の事例の成功過程にも言及しながら事業を育てる秘訣を探る。

 彼らが言う“偉大なるベンチャー企業”を目指す方のみならず、企業の新規事業を担う方々にもぜひ読んでいただきたい一冊だ。

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著者 ヘンリー・クレッセル 、ノーマン・ウィナースキー
訳者 長澤英二 
発行 日刊工業新聞社
定価 2,808円

ニュースイッチオリジナル

明 豊

明 豊
12月16日
この記事のファシリテーター

「失敗」ということをどう定義するかにもよる。個人やチームの中での試行錯誤は当然ある。逆方向ではなくゴールに向かって前進しているかどうか。自分はまだ読んでないが、手にとってみようと思う。

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