2019年業界ごとの天気予報!晴れでも“雲”の接近には要注意
食品 伸び見込めずコスト増響く
国内市場は人口減少や少子高齢化などで、大きな伸びが見込めないまま。原材料の高騰、人手不足による物流費や製造コスト負担も引き続きのしかかる。10月に消費増税を控えるが、食品関連は軽減税率が適用されるため増税自体の影響は軽微。ただ消費増税によって全般的に消費意欲は減退するため、食品にも少なからず影響を及ぼすだろう。
繊維 高機能品は堅調
高機能繊維を中心に総じて堅調な需要を維持する見通しだが、原料価格の動向が読みづらい状況。炭素繊維は航空機向けの在庫調整が一巡し、風力発電翼や圧縮天然ガス(CNG)タンクなど一般産業向けの需要も底堅く推移する見込みだ。ただ、一般産業向けの炭素繊維の中でも汎用品の領域は新興メーカーとの競争が激化しており、利益確保に向けた差別化策が問われる。
化学 先安観で世界需要に陰り
2019年は景気の局面が変わる年になりそうだ。米中貿易摩擦と原料の先安観で顧客の買い控えを招き、16年から好調だった世界需要に陰りが出る。米国のシェール由来の安価な汎用樹脂がアジア市場へ流入する“黒船問題”で、年後半から市況は悪化する。脱汎用品ができている国内メーカーへの影響は限定的だが、安穏な1年とはいえない。
製薬 優勝劣敗が鮮明に
国内では特許が切れた先発品である長期収載品が、後発薬の普及で打撃を受ける傾向が続く。消費増税に伴い、市場実勢価格に基づいて薬価を引き下げた上で増税分を上乗せする措置も行われる見込み。日本市場、とりわけ長期収載品に依存している新薬メーカーは経営の厳しさが増す。一方で米国をはじめとする海外事業が堅調なメーカーもあり、優勝劣敗が鮮明になる。
非鉄金属 車向け銅・アルミ好調
ベースメタルの銅や亜鉛の需要は堅調。銅は車の電動化やIoT(モノのインターネット)の進展による需要増が期待される。アルミニウムは車向けは軽量化需要で好調だが、飲料缶向けはペットボトルコーヒーの人気に押され苦戦が続きそう。回復基調にあった金属価格が下落に転じ、2019年度の各社の業績には前年度ほどの勢いはない。
鉄鋼 中国経済減速に懸念
鉄鋼需要は東京五輪・パラリンピックや首都圏再開発中心に堅調に推移する。ただ原燃料・資材価格や物流費が高止まりし、利幅が削られる状況が続く。対米貿易摩擦の影響などで中国経済がさらに減速すれば、中国内でだぶついた鋼材が他のアジア市場へ大量に流出して市況を悪化させたり、同国内の設備投資関連需要が細ったりして、天気が急激に崩れる恐れもある。
重電 脱炭素化、問われる1年
脱炭素化の流れにどう向き合うかが問われる1年だ。金融機関が石炭火力への融資停止に動き、大口需要家の再生可能エネルギーへのシフトも鮮明になるなど事業環境に雲がかかる。米ゼネラル・エレクトリック(GE)や独シーメンスは人員削減や工場閉鎖を打ち出し、事業構造の転換を急ぐ。日系各社は受注残を抱えているが、中長期を見据えた脱炭素化時代への対応が必要だ。
事務機器 商業印刷機が成長
消費増税を受けて企業業績が悪化すれば、事務機器市場も縮小すると懸念される。もともと市場成熟化でハード単体の伸びは期待できない。ただ、セキュリティー対策やクラウドサービスなどのITサービスと連携した複合機はニーズが高まっており、この分野の差別化がカギになる。成長分野である商業印刷機市場などの開拓も各社の優勝劣敗を左右する。
医療機器 消費増税で値下げ圧力
10月の消費増税を受けて値下げ圧力が強まりそう。国が医療機関に支払う特定保険医療材料の償還価格の改定が焦点。通常なら2020年の改定だが、増税を踏まえ、19年に同時改定する見通し。増税分と実勢価格に応じた機器の下落分を織り込むとみられ、実質的な値下げになる恐れがある。前倒しでマイナス影響を受ける格好となり、経営環境は厳しくなりそうだ。
電力・ガス 電力大手、ガス巻き返し
電力業界では域外展開する電力大手と新電力が入り乱れる消耗戦が続く。新電力はスポット市場で高コストの電源を調達する場合もあり、今年も撤退する事業者がありそうだ。ガス業界は電力大手による巻き返しが強くなりそう。電力大手は液化天然ガス(LNG)の調達力で強みがある。都市ガス大手が電力会社と手を組み、新エリアを開拓する動きも進む。
銀行・証券 収益力強化の正念場
マイナス金利の継続などで、メガバンク、地方銀行ともに業績の大きな回復は見込めない。2019年は現金自動預払機(ATM)統合などによる業務効率化やフィンテック(金融とITの融合)による収益力強化の正念場だ。株価は戦後最長レベルの好景気がどこまで続くかがカギ。米中貿易摩擦の長期化や、消費増税による景気の腰折れの懸念があり楽観視できない。
コンビニ 店舗飽和に逆風加わる
国内のコンビニ店舗数は5万5000店を超え、飽和状態に近くなっている。店員不足や人件費高騰、レジ袋有料化問題など逆風も吹く。店舗売上高はプライベートブランド(PB)商品や総菜が下支えする構図が続く。消費増税対策の軽減税率は、店内のイートインコーナーで飲食する場合は適用外だが、支払時の混乱は避けられそうにない。
印刷 新たな事業、育成に期待
書籍や雑誌など紙媒体の減少に伴い、純粋な印刷事業だけをみると暗雲が漂う。凸版印刷と大日本印刷の大手2社は印刷技術を応用した新事業の種まきや育成に力を注ぐ。IoT(モノのインターネット)技術を使った建材、RPA(ソフトウエアロボットによる業務自動化)ツールの提供、医療関連や情報銀行など、新事業が花開けば晴れ間ものぞきそう。
紙・パルプ 雑誌・チラシの需要底冷え
電子媒体への移行が進むチラシや雑誌、書籍向けの需要が底冷えし、2019年も雨が降り止まない。18年10月に、国内の洋紙販売が17カ月ぶりに前年同月の実績を上回ったが、下げ止まりと言えるほどの力強さはない。日本製紙連合会がまとめている出荷量も厚い雨雲の中。19年も新聞の発行部数の落ち込みが足を引っ張る。一方、景気低迷がなければ段ボール原紙は快晴。
通信 楽天参入で競争激化
秋に楽天が携帯電話市場に参入し、競争が激化する。既存3社は通信料と端末料を分離して通信料を最大4割安くする新料金プランを打ち出し、迎え撃つ構えだ。ただ、NTTドコモは新プラン導入によって一時的な減益を見込む。2019年に始まる第5世代通信(5G)関連需要が料金引き下げの影響をどの程度カバーできるかが、将来を左右する。
スーパー 提携やM&A進む
原材料価格や物流コストの上昇に伴う商品の値上げに加えて、消費増税もあり、全般的に消費者の購買意欲は弱まる。惣菜や弁当などの「中食」市場の伸長が売上高増に寄与するが、中食分野を強化しているコンビニエンスストアやドラッグストアなどとの競争は激化する。各社が独自色を出すのも難しく、生き残りをかけた提携やM&A(合併・買収)が進む。
造船 需給ギャップ解消せず
造船業界は2008年のリーマン・ショック後から新造船発注が落ち込み、海上荷動きも低迷が続く。需給ギャップは解消されず、韓国や中国との熾烈(しれつ)な受注競争が続く。市場船価の回復は難しいだろう。為替が円安に振れれば利益にプラスになるが、19年も我慢の年になる。期待できるのは、20年に強化される硫黄分濃度規制を見据えた環境対応船の需要だ。
日刊工業新聞2019年1月4日