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【ゴーン事件】「一番の被害者は株主と投資家だ」

中島経営法律事務所弁護士・中島茂氏に聞く
 ―カルロス・ゴーン容疑者の不正疑惑。一番の被害者は。
 「株主と投資家だ。株主は会社経営を経営者に委託し、経営者は株主から会社経営を受託している。そのため、株主の最大の関心事は経営者の報酬と退職慰労金。株主総会では、報酬に見合うだけの仕事をしたかが、株主が経営者を選任する判断の主な根拠となる。(報道を見た限りでは)そこにうそをつくのは非常に罪が重い」

 「もう一つ重要なこと。会社にはモノやサービスのほかに、株式という商品がある。有価証券報告書は投資家が株式の価値を見極める商品説明書。投資家はそれを頼りに株式を買い増ししたり購入したりする。それを虚偽記載する行為も非常に罪が重い。日産が株主や投資家を軽視したことが明らかだ」

 ―株主や投資家をないがしろにする行為の背景にあったものは。
 「有価証券報告書を見ると、報酬の決定は取締役会議長がさまざまなベンチマークを参考に代表取締役と協議の上で決定するとある。主語と述語だけ読むと、取締役会議長だったゴーン氏自身が報酬を決めることになる。さらに日産は指名委員会、報酬委員会がない。これではトップの暴走を防げるはずがない」

 「不正疑惑の浮上は複数の執行役員が司法取引に応じ、情報提供したことがきっかけになったところにも驚きがある。執行部隊が動いていることについて、株主の代理人としてコーポレートガバナンス(企業統治)に当たる取締役会、監査役会、会計監査人が知らないというのには大きなショックを受けた」

 ―今回の不正疑惑の浮上は今後、経済界にどのような影響をもたらしますか。
 「トップが暴走した場合、内部通報や司法取引で、根底からガバナンス体制などの改善を迫られることがありうるという前例になった。日本の経営者はそのことを重く受け止める必要がある。そして、それは中堅・中小企業も決して例外ではない」

 ―日産のみならず、こうした不正行為を未然に防ぐ手だてはありますか。
 「長年、企業法務に携わり感じるのは、どんな素晴らしい人でも魔が差す時があるし、どんな完璧な人でもミスをする時がある。だからこそ、リスク管理が欠かせない。経営に勢いが増すにつれ、『誰も何も指摘してくれなくなった』とこぼす経営者もいた。(有識者などが属する)諮問委員会などを置き、常に独断専行にならないようにするなどの対策が必須だ」
「これではトップの暴走を防げるはずがない」と中島氏

(聞き手=碩靖俊)
日刊工業新聞2018年11月30日

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