高額報酬「日本の社会はもっと寛容になるべきだ」

名取法律事務所弁護士・名取勝也氏に聞く「ガバナンスにも限界がある」

 ―今回のカルロス・ゴーン容疑者の疑惑をどう見ていますか。
 「有価証券報告書の虚偽記載の額は、日産自動車の売上高に比べると1%未満だろう。巨大企業の決算からすると微々たるものであり、逮捕することはありえない。(司法当局は特別背任罪など)他に何かをつかんでいるとしか思えない」

 ―考え得る動機は。
 「(日産や当局から)脱税に関する発言はなく、動機はよく分からないが、仮に高額報酬を気にして虚偽記載を行ったのなら気の毒だ。倒産寸前の日産を立て直し、数万人もの従業員や取引先を守ったのだから40億―50億円もらってもおかしくない。米国では100億円以上の報酬をもらうトップもいる。多くの責任を負う経営者の報酬に対し、日本の社会はもっと寛容になるべきだ」

 ―日産のコーポレートガバナンス(企業統治)の問題点は。
 「委員会設置会社ではないからガバナンスが有効でないという理論は全く違う。日本企業の多くは監査役設置会社だが、全てガバナンスが弱いわけではない。日産でも監査役が内部通報を受けて問題を提起し、発覚しており、機能している」

 ―長期にわたる権限の集中については、どう見ていますか。
 「権限が集中する体制も否定しない。欧米では強力なリーダーシップで国際競争を勝ち抜いているし、在任が長くても優れた経営者はたくさんいる。一方(リーダーシップに乏しい)日本企業は変革を好まず、現状維持に陥りがちだ。今の段階でゴーン容疑者を悪者にするのは早すぎる」

 ―私的な目的で経費や資金を支出したとの指摘もあります。
 「仮定の話だが、ゴーン容疑者は海外のガバナンスに目を付けたのだろう。海外が弱点だと見抜き、外国人の側近を雇って実行したという仮説はできる。日本企業全体に言えるが、海外子会社を掌握する力が弱い。外国人への遠慮があり、口出しできないようだ」

 ―対応策は。
 「欧米企業では主要な海外子会社に財務・業務系の人材を派遣し、資金の流れなどの情報を集め、問題があれば調査する。一方、日本企業は言葉の問題などがあり、対応できる人が少ない。人を確保して派遣し、海外でのモニタリングを強化する必要がある。ただガバナンスにも限界がある。不正を見抜くのは簡単ではない」

 ―委員会設置会社など先進的なガバナンスを採用しても難しいですか。
 「そもそも社内取締役が分からないのに、月に1、2回しか取締役会に出席しない社外取締役が把握するのは困難だ。経営者の暴走を防ぐには行動を四六時中監視するしかない。監視し合い、密告し合う形が果たして最適なのか。ガバナンスの強化は重要だが、現実的には限界がある」
                        

(聞き手=敷田寛明)

日刊工業新聞2018年11月29日

  

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