役員報酬の適正額は?日本のCEOは過去最高も、欧米と大きな開き

 報酬の約50億円を過少申告した疑いで日産自動車会長のカルロス・ゴーン容疑者が逮捕されたことを受け、企業の役員報酬のあり方があらためて注目されている。業績回復や海外の優れた人材の確保などを背景に、報酬の高額化が進む。一方で欧米に比べればまだ低水準にあるとの指摘もある。高額報酬が日本型企業統治(コーポレート・ガバナンス)のテーマの一つとして問われる。

 東京証券取引所は企業価値向上を狙いに、「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」改訂版を6月に施行した。客観性や透明性のある手続きによって報酬制度を設計し、具体的な報酬額を決定すべきだとした。

 日本では2010年3月期以降、上場企業に1億円以上の役員報酬を個別開示することを義務付けた。背景には、リーマン・ショックに象徴される米国発の金融危機がある。世界的な景気後退の中、欧米企業の役員が高額報酬を得ていたことに批判が集中したためだ。日本では株主に対する説明責任などの観点から導入が決まった。

 三井住友信託銀行とデロイトトーマツコンサルティングが20日発表した日本企業の役員報酬水準の18年調査によると、売上高1兆円以上の企業における社長の報酬総額は9855万円(中央値)で、前年比5%増と着実に増えている。

 また、ウイリス・タワーズワトソンがまとめた日米英独仏5カ国の売上高1兆円以上の企業の最高経営責任者(CEO)報酬額も、17年度の日本企業の報酬総額は前年度比7・9%増の1億5000万円と過去最高を更新した。

 同社の森田純夫ディレクターは、「長期インセンティブを含む業績連動報酬の拡大がある」と上昇の理由を説明する。ただ、報酬総額は米14億円、独7億2000万円と、欧米と日本企業との間ではまだ開きが大きい。

 東京商工リサーチの調査によれば、18年3月期に国内の上場企業で10億円以上の報酬を受け取った役員は8人で、上位10人のうち5人を外国人が占めた。

 企業のグローバル化が進み、外部から人材を登用するケースも増えた。企業は株主などに高額報酬の経緯を丁寧に説明することが必要と同時に、業績達成をよりシビアに求められる時代になったといえそうだ。

ソニーと三菱電機の違い


 ソニー前社長の平井一夫会長の役員報酬は、18年3月期決算の有価証券報告書によると、27億1300万円(前年は9億1400万円)。日本では歴代5位の報酬額に相当するものの、電機業界内から「もらいすぎ」との指摘は少ない。

 基本報酬は2億4400万円。ストックオプションもあるが、最も大きいのは4月の社長退任に伴う株式退職金だ。11億8200万円を受け取った。

 注目すべきは業績連動報酬。前年の2億8600万円から6億4700万円と、約2・3倍増えた。この間、ソニーの営業利益は2887億円から2・5倍の7348億円に伸び最高益となり、株主資本利益率(ROE)も2・95%から6・1倍の17・96%にまで高まった。

 ソニーでは役員の業績に関する達成度を評価する指標に営業利益とROEが4割ずつを占める。平井会長の報酬は実績を反映させた形だ。

 「額」がソニーならば「数」は三菱電機。報酬1億円以上の役員は22人で、上場企業の中で最多。安定した収益基盤を背景に4年連続最多。09年3月期―18年3月期の10年の平均営業利益率は5・7%と大手電機で最も高い。

 一部の幹部にインセンティブを厚くして巨額報酬を用意するか、役員全体の報酬を底上げし、「働けば報われるかも」と社員を動機付けするか。ソニーがV字回復で最高益を出す中、各社の報酬への姿勢も今後転換点を迎えるかもしれない。

武田やソフトバンク、“国際水準”で人材確保


 武田薬品工業は18年3月期のクリストフ・ウェバー社長への報酬総額が12億1700万円となり、国内製薬企業では圧倒的に高い。

 「業界内での最高水準のグローバル製薬会社への変革を遂げるため」(武田薬品)、競合他社の多くが存在する米・英・スイスの報酬水準を参考にしたという。武田薬品は研究開発担当のアンドリュー・プランプ取締役も5億3600万円を得ており、優秀な人材への対価は多く必要なことがうかがえる。

 国内製薬各社は海外事業の強化や人材の多様性向上を進めており、今後、幹部の報酬はさらに高額化してもおかしくない。だがこうした傾向は批判の的になりやすい。

 例えば診療報酬を議論する中央社会保険医療協議会(厚生労働相の諮問機関)では、「医薬品業界は他産業と比べて突出した営業利益率を確保している」(支払い側委員)など、“もうけすぎ”への指摘が度々出る。薬価を下げる論拠の一つに、製薬企業の報酬体系が挙げられる懸念もある。

 ソフトバンクグループは、運用額10兆円規模の「ビジョンファンド」を通じて各国の人工知能(AI)関連サービスでトップの企業に出資する投資会社としての色合いを強める。米携帯電話4位のスプリント、英半導体設計大手のアームも傘下に持ち、事業基盤はグローバルに広がった。それだけに役員報酬も“国際水準”にしなければ、孫正義会長兼社長が求めるような極めて優れた人材を獲得できないと考えているようだ。

 18年3月期で報酬総額が20億1500万円のロナルド・フィッシャー副会長は米国で豊富な投資経験を持ち、米国事業に欠かせない人材。同じく同期で13億8200万円だったマルセロ・クラウレ副社長もCEOとして「スプリント119年の歴史で最高の営業利益を出した」(孫氏)。

 孫氏はかつて後継者候補としたニケシュ・アローラ元副社長に100億円超の役員報酬を支払った。6月の株主総会では取締役の金額による報酬額を年額50億円以内に引き上げた。後継者候補と目されるクラウレ氏らの成果に応えるための高額報酬と言えそうだ。
                 

(文=浅海宏規、斎藤弘和、栗下直也、水嶋真人)

日刊工業新聞2018年11月22日

  

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