不正融資問題に揺れた商工中金、信頼をどう回復するか?
4カ年の中期経営計画を策定
商工組合中央金庫(商工中金)が事業性評価融資に注力するビジネスモデルへの転換に踏み出した。10月に発表した2021年度を最終年度とする4カ年の中期経営計画では、経営改善や事業再生、事業承継、リスクの高い事業に乗り出そうとしている企業に対する重点支援をビジネスモデルの柱に掲げた。目指す姿は“中小企業に寄り添う金融機関”。国の危機対応業務を利用した不正融資の過去を乗り越え、躍進につなげるための土台が整った。
「不退転の決意で改革に取り組む」―。関根正裕社長は10月18日の会見でこう述べ、事業性評価を軸に改めて中小企業の成長分野への融資に注力していくことを強調した。これに伴い今中計は「商工中金経営改革プログラム〜持続可能なビジネスモデルの確立に向けて〜」を掲げ、21年度末に重点分野の貸出金残高で3兆1100億円の達成の目標を示した。17年度末の9800億円から、4年間で貸出先の事業再生や経営改善支援などの融資を大きく増やしていく方針だ。
商工中金は、不正融資問題で2度の行政処分を受け、3月に新社長にプリンスホテル取締役常務執行役員の関根氏を迎え、5月に業務改善計画を提出した。6月に過半の社外取締役を登用して経営体制を刷新。今回の中計で関根社長ら経営陣は経営改善からもう一段階踏み込み、成長回帰に向けた経営改革を進める重責を担う。
商工中金が今回の中期経営計画で重点分野に取り上げたのは(1)財務構造改革支援(2)事業再生・経営改善支援(3)産業構造の変革への挑戦支援(4)新産業への挑戦や創業支援―の4点。とりわけ「資金繰りに追われて本業に専念できない企業をしっかり安定させる」(関根社長)として中小企業の財務構造改善支援に力点を置く。
このほか地域金融機関と競合しにくく、難易度が高い領域にも積極的に取り組む。貸出先が債務超過にあり財務収支が悪化していても、再生の可能性があれば経営改善支援を実行。海外展開や新事業進出などリスクが高い事業といったリスク判断が難しい融資にも注力する。
これに伴い人員を再配置して経営資源を集中投下するほか、外部人材の積極的な活用を進める。地域金融機関との連携も深化する方針だ。
21年度末の総貸出残高見通しは8兆8000億円と17年度末比で1000億円しか増えないが、目標達成への道筋はがらりと変えた。不正融資の温床となった「危機対応業務」は1兆8000億円から4000億円に大幅に減らす。「肝はこれまでの上意下達的な運営を変えて店舗運営を尊重していく」(同)。経営陣が現場に厳しい業績目標を割り当てた過剰なノルマも廃止した。
いま一度、商工中金が成長軌道の礎を築くには、関根社長は「役職員一体で危機感を共有のうえ、未来志向の構造改革を進める」ことが重要と説く。「まだ道半ばではあるが」と前置きした上で「コンプライアンスの一層の強化を図っていきたい」と信頼回復を語る。大きくかじを切った商工中金の着実な実績が問われる4年間となりそうだ。
商工中金の関根正裕社長は日刊工業新聞のインタビューで、「真に中小企業のお役に立てるよう“原点回帰”する」と強調した。中小企業の成長が見込める企業再生支援や事業承継などを重点分野に据えて業務の再構築を進める。同時に、経営者と信頼を深め中小に寄り添える金融機関として再起を図る考えだ。
―4カ年の中期経営計画を発表しました。
「(中期経営計画は)1936年(昭11)設立の商工中金の原点に戻るということ。中小企業をサポートする金融機関として全力で使命を果たしていく。企業のさまざまな経営課題に対して、資金面だけでなく、ビジネスマッチングで取引先を紹介したり、事業承継支援や人材不足の合理化など多様な形で手伝えたらいいと考えている」
―今後の重点分野に貸出先の経営改善、中小企業の資金繰り改善や海外展開、創業支援など四つの領域を取り上げました。
「1番のボリュームゾーンは、借入返済額が営業キャッシュフローを超えているために資金調達の不安を抱える中小企業の資金繰りを最適化する『財務構造改革支援』だ。ほかにも事業承継や生産性向上、人手不足の問題といった経営課題の解決も後押しする。資金繰りをしっかり安定させることで、経営者が商品開発や生産、営業といった分野にしっかり注力できるようなサービスを提供する」
―民間金融機関が手を出しにくいリスク分野でもあります。
「経営者と会って信頼関係を築き、その中でニーズや課題を把握して適切なソリューションを提供していく。今回、本部から現場に業績目標を割り当てるノルマを廃止した。金融の新商品を売っていくのではなく、これからは個々の会社の状況に合った“オーダーメード型”のサービスできめ細かく対応していくイメージだ」
「また、融資のほかにも商工中金の全国拠点の営業職員や情報ネットワークを生かして、ビジネスマッチングやM&A(合併・買収)、事業承継の税制スキーム作りなども支援していく。これらは、もともと商工中金が伝統的に強い分野。新しいことをやるのではなく原点に戻していく」
―外部人材の活用は。
「内部人材を育成する一方、4カ年という短期間で中小企業の専用金融機関として結果を出していくために、専門性や志が高い人材を外部から積極的に登用する。最近はわが社に対する応募も増えていて、18年度はすでに19人の外部人材を採用した。監査部門やコンプライアンスのほか、M&Aや企業再生、ITや営業部門などから幅広く採用している」
―一方、労働力人口が減少する中で金融機関の現場でも人手不足が懸念されています。
「19日に社内に『店舗・業務改革推進プロジェクトチーム』を社内に新設した。社長直轄の組織として、RPA(ソフトウエアロボットによる業務自動化)などを活用した業務効率化を進めるとともに、店舗を見直し機能の仕組みを再編する。紙ベースの処理が多かった営業現場でのタブレットの活用やバックオフィス業務のペーパーレス化などを導入して、560人分の業務量を減らし人員の再配置を行う。経営資源を集中投下して、中小企業向けサービスを今以上に強化する」
(文=山下絵梨)
経営改革を推進
「不退転の決意で改革に取り組む」―。関根正裕社長は10月18日の会見でこう述べ、事業性評価を軸に改めて中小企業の成長分野への融資に注力していくことを強調した。これに伴い今中計は「商工中金経営改革プログラム〜持続可能なビジネスモデルの確立に向けて〜」を掲げ、21年度末に重点分野の貸出金残高で3兆1100億円の達成の目標を示した。17年度末の9800億円から、4年間で貸出先の事業再生や経営改善支援などの融資を大きく増やしていく方針だ。
商工中金は、不正融資問題で2度の行政処分を受け、3月に新社長にプリンスホテル取締役常務執行役員の関根氏を迎え、5月に業務改善計画を提出した。6月に過半の社外取締役を登用して経営体制を刷新。今回の中計で関根社長ら経営陣は経営改善からもう一段階踏み込み、成長回帰に向けた経営改革を進める重責を担う。
商工中金が今回の中期経営計画で重点分野に取り上げたのは(1)財務構造改革支援(2)事業再生・経営改善支援(3)産業構造の変革への挑戦支援(4)新産業への挑戦や創業支援―の4点。とりわけ「資金繰りに追われて本業に専念できない企業をしっかり安定させる」(関根社長)として中小企業の財務構造改善支援に力点を置く。
このほか地域金融機関と競合しにくく、難易度が高い領域にも積極的に取り組む。貸出先が債務超過にあり財務収支が悪化していても、再生の可能性があれば経営改善支援を実行。海外展開や新事業進出などリスクが高い事業といったリスク判断が難しい融資にも注力する。
これに伴い人員を再配置して経営資源を集中投下するほか、外部人材の積極的な活用を進める。地域金融機関との連携も深化する方針だ。
21年度末の総貸出残高見通しは8兆8000億円と17年度末比で1000億円しか増えないが、目標達成への道筋はがらりと変えた。不正融資の温床となった「危機対応業務」は1兆8000億円から4000億円に大幅に減らす。「肝はこれまでの上意下達的な運営を変えて店舗運営を尊重していく」(同)。経営陣が現場に厳しい業績目標を割り当てた過剰なノルマも廃止した。
いま一度、商工中金が成長軌道の礎を築くには、関根社長は「役職員一体で危機感を共有のうえ、未来志向の構造改革を進める」ことが重要と説く。「まだ道半ばではあるが」と前置きした上で「コンプライアンスの一層の強化を図っていきたい」と信頼回復を語る。大きくかじを切った商工中金の着実な実績が問われる4年間となりそうだ。
商工中金社長・関根正裕氏 “原点回帰”中小のお役に
商工中金の関根正裕社長は日刊工業新聞のインタビューで、「真に中小企業のお役に立てるよう“原点回帰”する」と強調した。中小企業の成長が見込める企業再生支援や事業承継などを重点分野に据えて業務の再構築を進める。同時に、経営者と信頼を深め中小に寄り添える金融機関として再起を図る考えだ。
―4カ年の中期経営計画を発表しました。
「(中期経営計画は)1936年(昭11)設立の商工中金の原点に戻るということ。中小企業をサポートする金融機関として全力で使命を果たしていく。企業のさまざまな経営課題に対して、資金面だけでなく、ビジネスマッチングで取引先を紹介したり、事業承継支援や人材不足の合理化など多様な形で手伝えたらいいと考えている」
―今後の重点分野に貸出先の経営改善、中小企業の資金繰り改善や海外展開、創業支援など四つの領域を取り上げました。
「1番のボリュームゾーンは、借入返済額が営業キャッシュフローを超えているために資金調達の不安を抱える中小企業の資金繰りを最適化する『財務構造改革支援』だ。ほかにも事業承継や生産性向上、人手不足の問題といった経営課題の解決も後押しする。資金繰りをしっかり安定させることで、経営者が商品開発や生産、営業といった分野にしっかり注力できるようなサービスを提供する」
―民間金融機関が手を出しにくいリスク分野でもあります。
「経営者と会って信頼関係を築き、その中でニーズや課題を把握して適切なソリューションを提供していく。今回、本部から現場に業績目標を割り当てるノルマを廃止した。金融の新商品を売っていくのではなく、これからは個々の会社の状況に合った“オーダーメード型”のサービスできめ細かく対応していくイメージだ」
「また、融資のほかにも商工中金の全国拠点の営業職員や情報ネットワークを生かして、ビジネスマッチングやM&A(合併・買収)、事業承継の税制スキーム作りなども支援していく。これらは、もともと商工中金が伝統的に強い分野。新しいことをやるのではなく原点に戻していく」
―外部人材の活用は。
「内部人材を育成する一方、4カ年という短期間で中小企業の専用金融機関として結果を出していくために、専門性や志が高い人材を外部から積極的に登用する。最近はわが社に対する応募も増えていて、18年度はすでに19人の外部人材を採用した。監査部門やコンプライアンスのほか、M&Aや企業再生、ITや営業部門などから幅広く採用している」
―一方、労働力人口が減少する中で金融機関の現場でも人手不足が懸念されています。
「19日に社内に『店舗・業務改革推進プロジェクトチーム』を社内に新設した。社長直轄の組織として、RPA(ソフトウエアロボットによる業務自動化)などを活用した業務効率化を進めるとともに、店舗を見直し機能の仕組みを再編する。紙ベースの処理が多かった営業現場でのタブレットの活用やバックオフィス業務のペーパーレス化などを導入して、560人分の業務量を減らし人員の再配置を行う。経営資源を集中投下して、中小企業向けサービスを今以上に強化する」
(文=山下絵梨)
日刊工業新聞2018年11月19日