世界初の国際海底探査レース、開催の背景に石油業界の思惑
11月にギリシャ・カラマタ沖でスタート、日本チームも参加
賞金総額700万ドル(約8億円)をかけた世界初の海底探査の国際レース決勝が11月からギリシャ・カラマタ沖で始まった。自律型海中ロボット(AUV)などの潜水機を利用し、水深4000メートルの広範囲な海底地図を作る。日本からも海洋研究開発機構が中核の探査チーム「Team KUROSHIO(チームクロシオ)」が参加、12月からの現場海域投入を待つ。
「アジアで唯一決勝に勝ち残った。結果を残し、期待に応えたい」。チームクロシオ共同代表の一人、海洋機構の中谷武志技術研究員はそう意気込む。
国際海底探査競技「シェル・オーシャン・ディスカバリー・Xプライズ」は、月探査レースを手がけた米Xプライズ財団が主催。チームクロシオは、2017年11月―18年1月にかけて行われた19チーム参加の予選を突破した。決勝戦は11、12月にかけて実施する。
日本に加え、米欧などの8チームが参加。各チームは、水中グライダーや水中飛行ロボット(ドローン)などさまざまな手法で海底探査に挑む。
チームクロシオは、全長約6メートルのAUV2機と無人の洋上中継器(ASV)1機を連携・同時運用するという世界でも前例のない調査システムを採用。12月9日から19日の間の24時間で海底を探査する。
AUVは設定したルートに従い、自律的に海中を調査。水中では光が短い距離でしか届かないため、ソナー(音波)で海底の測位や通信を行う。ASVは、海中のAUVの位置や速度を計測し、得た計測データを衛星回線で陸上に送る。
海洋機構のほか、東京大学生産技術研究所、九州工業大学、海上・港湾・航空技術研究所、三井E&S造船(東京都中央区)、日本海洋事業(神奈川県横須賀市)、KDDI総合研究所(埼玉県ふじみ野市)、ヤマハ発動機の計8機関で構成する。
現場海域では有人の支援母船は使えず、海域に人は立ち入れない。現場での探査は衛星回線を通じ、すべてロボットが行う。水深4000メートル下の深海域で24時間以内に、250平方キロメートル以上という東京ドーム約5000個分の海底域を調査し、海底標的を10枚撮影する必要がある。
さらに調査終了後48時間以内に水平方向5メートル、垂直方向50センチメートルの空間解像度で3次元海底地形図を作成し、8チームがその正確さを競う。結果は19年3月に発表される。
実はレースのメーンスポンサーは米石油大手のシェルで、開催には石油業界の思惑が強く働く。石油業界では海底油田開発のため、広範囲の海底地形を調査しなければならない。そこでレースを通じて各機関の技術開発を後押し、培った探査技術を海底調査の高速化と低コスト化につなげたい考えだ。
一般的に海洋をAUVで調査する場合、調査したい機関が自分たちでAUVを開発し、運用やデータ処理をする必要がある。さらにAUVの運用には専門の有人支援母船が必要なため、普及には高い運用コストが課題だ。
日本チームはレース終了後のビジョンとして、10―20年後に産業移転できるような目標を掲げる。研究者や企業などの顧客が海洋調査企業にデータを注文し、海洋調査企業は受注した仕事に応じてAUVやASV、調査機材などを準備する。顧客が指定する海域を調査し、海水成分や生物写真など、データを顧客に届ける仕組みだ。
中谷技術研究員は、「取得したデータを顧客に即日納品できる仕組み『ワンクリック・オーシャン』を構築したい」とレースが海洋調査ビジネスにつながることを期待する。
―いよいよ決勝が始まりました。
「15年12月に米国の学会でXプライズ財団がレース開催を発表し、すぐに出場しようという話になった。若手を出すことに理解してもらった研究機関や企業、短納期で低コストの開発に協力してくれた町工場などに恩返しするため、結果で報いたい」
―決勝ではAUVの数や機体を変更しています。
「決勝では、機体が圧力に耐えられる最大水深が予選に比べ2倍の4000メートルとなり、予選の機体をベースに作り直すのは現実的ではないと判断した。水圧に耐えるには機体の肉厚を分厚くし、大量の浮力材が必要だ。AUVが24時間探査するにはリチウムイオン電池の容量も大きくする必要があり、機体が重くなる。そのため予選で使った3機のAUVを規定の40フィート(約12・2メートル)コンテナ以内に収めることが難しく、2機のAUVで戦うことに決めた」
―レースの先には将来の海洋ビジネスを見据えています。
「今までは油田を探すのに海面からのぞける程度のもので十分だった。だがブラジルでは水深3000メートルでの開発が進むなど、石油を探し、海底を深く掘り進める需要が出てきた。コストを減らすため、陸上から操作するロボットだけで調査するニーズもある。海底地図の作成は海洋資源探査の基盤だ。コストを減らせれば事業化も十分可能だ」
「それ以外に、海底写真を撮影し、魚の生態を調査することで、漁獲量の調整に使える可能性もある。さらに海面からは大まかにしか分からない海底のケーブルやパイプラインなどインフラの整備にも役立つ」
(文=冨井哲雄)
水深4000m―国内8機関が技術結集
「アジアで唯一決勝に勝ち残った。結果を残し、期待に応えたい」。チームクロシオ共同代表の一人、海洋機構の中谷武志技術研究員はそう意気込む。
国際海底探査競技「シェル・オーシャン・ディスカバリー・Xプライズ」は、月探査レースを手がけた米Xプライズ財団が主催。チームクロシオは、2017年11月―18年1月にかけて行われた19チーム参加の予選を突破した。決勝戦は11、12月にかけて実施する。
日本に加え、米欧などの8チームが参加。各チームは、水中グライダーや水中飛行ロボット(ドローン)などさまざまな手法で海底探査に挑む。
チームクロシオは、全長約6メートルのAUV2機と無人の洋上中継器(ASV)1機を連携・同時運用するという世界でも前例のない調査システムを採用。12月9日から19日の間の24時間で海底を探査する。
AUVは設定したルートに従い、自律的に海中を調査。水中では光が短い距離でしか届かないため、ソナー(音波)で海底の測位や通信を行う。ASVは、海中のAUVの位置や速度を計測し、得た計測データを衛星回線で陸上に送る。
海洋機構のほか、東京大学生産技術研究所、九州工業大学、海上・港湾・航空技術研究所、三井E&S造船(東京都中央区)、日本海洋事業(神奈川県横須賀市)、KDDI総合研究所(埼玉県ふじみ野市)、ヤマハ発動機の計8機関で構成する。
現場海域では有人の支援母船は使えず、海域に人は立ち入れない。現場での探査は衛星回線を通じ、すべてロボットが行う。水深4000メートル下の深海域で24時間以内に、250平方キロメートル以上という東京ドーム約5000個分の海底域を調査し、海底標的を10枚撮影する必要がある。
さらに調査終了後48時間以内に水平方向5メートル、垂直方向50センチメートルの空間解像度で3次元海底地形図を作成し、8チームがその正確さを競う。結果は19年3月に発表される。
海底調査の高速化と低コスト化狙う
実はレースのメーンスポンサーは米石油大手のシェルで、開催には石油業界の思惑が強く働く。石油業界では海底油田開発のため、広範囲の海底地形を調査しなければならない。そこでレースを通じて各機関の技術開発を後押し、培った探査技術を海底調査の高速化と低コスト化につなげたい考えだ。
一般的に海洋をAUVで調査する場合、調査したい機関が自分たちでAUVを開発し、運用やデータ処理をする必要がある。さらにAUVの運用には専門の有人支援母船が必要なため、普及には高い運用コストが課題だ。
日本チームはレース終了後のビジョンとして、10―20年後に産業移転できるような目標を掲げる。研究者や企業などの顧客が海洋調査企業にデータを注文し、海洋調査企業は受注した仕事に応じてAUVやASV、調査機材などを準備する。顧客が指定する海域を調査し、海水成分や生物写真など、データを顧客に届ける仕組みだ。
中谷技術研究員は、「取得したデータを顧客に即日納品できる仕組み『ワンクリック・オーシャン』を構築したい」とレースが海洋調査ビジネスにつながることを期待する。
インタビュー/チームクロシオ共同代表・中谷武志氏
―いよいよ決勝が始まりました。
「15年12月に米国の学会でXプライズ財団がレース開催を発表し、すぐに出場しようという話になった。若手を出すことに理解してもらった研究機関や企業、短納期で低コストの開発に協力してくれた町工場などに恩返しするため、結果で報いたい」
―決勝ではAUVの数や機体を変更しています。
「決勝では、機体が圧力に耐えられる最大水深が予選に比べ2倍の4000メートルとなり、予選の機体をベースに作り直すのは現実的ではないと判断した。水圧に耐えるには機体の肉厚を分厚くし、大量の浮力材が必要だ。AUVが24時間探査するにはリチウムイオン電池の容量も大きくする必要があり、機体が重くなる。そのため予選で使った3機のAUVを規定の40フィート(約12・2メートル)コンテナ以内に収めることが難しく、2機のAUVで戦うことに決めた」
―レースの先には将来の海洋ビジネスを見据えています。
「今までは油田を探すのに海面からのぞける程度のもので十分だった。だがブラジルでは水深3000メートルでの開発が進むなど、石油を探し、海底を深く掘り進める需要が出てきた。コストを減らすため、陸上から操作するロボットだけで調査するニーズもある。海底地図の作成は海洋資源探査の基盤だ。コストを減らせれば事業化も十分可能だ」
「それ以外に、海底写真を撮影し、魚の生態を調査することで、漁獲量の調整に使える可能性もある。さらに海面からは大まかにしか分からない海底のケーブルやパイプラインなどインフラの整備にも役立つ」
(文=冨井哲雄)
日刊工業新聞2018年11月16日