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ブレグジットあと半年・・・産業各界、「合意なき離脱」に警戒感

ブレグジットあと半年・・・産業各界、「合意なき離脱」に警戒感

ロンドンの金融街

 2019年3月に予定する英国の欧州連合(EU)からの離脱(ブレグジット)まで半年を切った。ここに来ても英EU間の離脱協議の進展が見えず、妥結できなければ無秩序な「合意なき離脱」の可能性も取り沙汰される。経済が混乱し、関税コストなどが英国に進出する企業などに上乗せされる恐れもある。産業界は合意なきブレグジットを警戒しており、協議の行方を注視する。(特別取材班)

自動車/コスト増、生産移管検討


 英国のEUからの合意なき離脱の可能性が高まる中、自動車業界ではコスト負担増などの影響を懸念する声が広がる。生産移管など具体的な対策を練る自動車メーカーも出てきた。

 「英国の産業に重大な影響が及ぶ。秩序あるバランスの取れた離脱に向け、英国とEUの交渉官が協力して作業を進めることを望む」―。英国最大級の自動車工場を操業するなど多額の投資をしてきた日産自動車は4日、こう意見表明し、英国とEUに合意なき離脱を回避するよう求めた。

 英国は欧州の自動車生産・輸出の一大拠点だ。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると17年の英国生産台数は約175万台。うち輸出は8割でその半数がEU向けだ。通商協定変更が自動車産業に与える影響は大きい。

 合意なき離脱となった場合、ホンダは関税(世界貿易機関〈WTO〉ルールの約10%)と事務コストなどで数千万ポンド(数十億円)の負担増につながるとみる。英国で組み立ててEUで乗用車を販売する場合、こうしたコストが加われば、価格競争力が大幅に落ちる懸念がある。

 トヨタ自動車は一時的に英国工場が操業停止に陥ると見通す。在庫を極力持たないため、物流が機能せずに部品供給が滞ることを懸念する。トヨタ幹部は「状況を注視する」と身構える。

 また独BMWは小型車「ミニ」の生産をオランダに一部移管する検討を始めた。

電機/鉄道好調の日立、競争力高める


 電機業界でEU離脱の影響が特に懸念されるのは日立製作所だ。主要事業と位置付ける鉄道の車両製造拠点を英国北部に持つからだ。現在は都市間高速鉄道車両の受注など、英国内向けにフル稼働が続くが、いずれ欧州市場開拓の拠点としての役割も担う。合意なき離脱の場合、輸出に関税がかかる恐れもあり、もくろみが外れる。

 EU離脱が騒がれ始めて以降、東原敏昭社長兼最高経営責任者(CEO)は欧州鉄道事業はイタリアとの2拠点体制であることを強調し、状況に応じて柔軟な生産体制を敷く姿勢を示してきた。さらに「現時点では英国の工場は国内向け受注で稼働は高水準。今後の需要も大きい」(日立)。

 実際、英国では高速鉄道や老朽車両の更新など需要は拡大している。日立は継続的な受注ができれば、工場も内需向けだけで安定稼働すると見通す。さらに受注後のメンテナンス需要も大きい。

 ただ、入札競争が激化する現実も横たわる。独シーメンスは英国の欧州離脱も睨み、3月に英国内で車両製造拠点の建設を発表。これまでは大陸から輸送していたが、現地生産する。6月には日立などに競り勝ち、ロンドン市交通局の地下鉄の大型受注を獲得した。

 日立ではIoT(モノのインターネット)やデジタル化の推進などによる生産性向上とコスト削減などに力を入れ、競争力を高める方針だ。

 複合機メーカーではリコーが英国にトナーなど消耗品の生産拠点を持つ。大半が国内向けのため影響は現時点では軽微だという。

金融/「単一パスポート」利用


 日本の大手金融機関はEUに加盟する1カ国で認可をとれば他の加盟国でも金融サービスを提供できる「単一パスポート」を利用する。金融機関はロンドンへの集積が高く、「英国でパスポートを取得した金融機関はEU離脱で域内業務が制限される懸念」(都銀関係者)が生じた。各社とも離脱までの猶予期間で欧州拠点再編を進めており、合意なき離脱でも影響は緩和される見通しだ。

 英国でパスポートを取得した三井住友銀行は、19年に独フランクフルトで全額出資の子会社を設立する。同国でパスポートを取得し、離脱後も欧州での業務体制を万全にする。三菱UFJ銀行とみずほ銀行はオランダでパスポートを得ており、EU域内のアクセスは継続できる。

 三菱UFJ銀は4月に独などの拠点を日本本店からオランダの現地子会社へ移管し、以前から進めていた再編を本格化。ロンドン拠点はオランダの運営を引き続き支援する。みずほ銀は17年1月にオランダ現地法人を「欧州みずほ銀行」に改称。ベルギーなどの拠点を傘下に置く。

 証券業界ではフランクフルトが拠点で、野村ホールディングス(HD)などが現地法人を設立済み。SMBC日興証券も拠点整備を検討中だ。

■ブレグジットとは■
 英国のEUからの離脱のこと。16年6月の英国民投票で「離脱」が「残留」を僅差で上回り、協議が始まった。EU拡大で薄れゆく国家主権への懸念やEUへの財政負担、難民・移民問題などが離脱を後押ししたとされる。
 離脱日時は19年3月29日23時(現地時間)と定まったが、離脱に向けた合意はまだ締結されていない。離脱条件や通商関係をめぐる合意なしで離脱すれば、双方の経済・社会で混乱がもたらされる。
 事務的な作業を考えれば10、11月中が「秩序ある離脱」の最終期限とされる。混乱をさけるため、離脱期限の延長ものぼりはじめた。しかし、EUに協調的な英メイ政権の離脱案は「離脱強硬派」からも批判を浴びており、議会承認が得られない恐れもある。
日刊工業新聞2018年10月10日

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