火力再稼働で需給一息も、北海道「冬の電力」は大丈夫か
老朽設備に故障の不安、ブラックアウトのリスク残る
6日に起きた北海道胆振(いぶり)地方を震源とする地震で、北海道電力は主力の苫東厚真(とまとうあつま)火力発電所(厚真町、総出力165万キロワット)が緊急停止。全体の需給バランスが崩れ、全電源が停止する大規模停電(ブラックアウト)に陥った。損傷した発電所も徐々に再稼働を果たし、当面の安定供給に支障はないが、冬の電力ピークに向け予断を許さない。一方、ブラックアウトは大規模集中型電源のリスクが露呈した格好で、電力供給システムのあり方に一石を投じた。
北海道電は、北海道地震で損傷した苫東厚真の1号機(出力35万キロワット)に続き、4号機(同70万キロワット)も25日に再稼働にこぎ着けたことで、電力需給の逼迫(ひっぱく)から一息つける状況となった。
しかし、道内の電力ピークはこれからだ。老朽火力のフル稼働による故障リスクの恐れもあり、決して油断はできない。
道内最大の火力発電所である苫東厚真は、地震前は道内の電力供給の半分程度を担っていた。北海道電の真弓明彦社長は、「長期の電源計画を立て、さまざまな観点から取り組んできた。泊原発が停止する中、苫東厚真を主力電源として運転せざるを得ない状況だった」と弁明する。
道内の電力供給力は苫東厚真1、4号機のほか、知内発電所(知内町)2号機(同35万キロワット)の稼働などにより25日現在で461万キロワットを確保した。地震前のピーク需要だった383万キロワットを上回る。
この結果、企業の自家発電からの電力調達をとりやめ、北海道と本州と結ぶ送電線「北海道・本州間連系設備(北本連系線)」を20万キロワットから10万キロワットに減らし、残り50万キロワットを緊急用の予備力とした。
ただ電力需要が高まる冬季に備えるには、供給力をさらに積み増す必要がある。17年度冬季のピーク需要は1月の525万キロワットであり、現時点では60万キロワットほど足りない。
今後は苫東厚真2号機(同60万キロワット)が10月中旬に再稼働する見込みのほか、定期点検中の苫小牧発電所1号機(苫小牧市、同25万キロワット)の10月末稼働を前倒しする方向で調整している。グループ会社の苫小牧共同発電所(同、25万キロワット)の11月下旬からの稼働前倒しも視野に入れる。
とはいえ、老朽火力発電所をフル稼働させている状態に変わりはなく、必然的に故障リスクを抱える。奈井江発電所(奈井江町)の1号機(同17万5000キロワット)は運転開始から50年を超え、2号機(同17万5000キロワット)も48年が経過する。
停止中の泊原子力発電所(泊村、総出力207万キロワット)も原子力規制委員会の安全審査が終わらず、再稼働の見通しは立たない。
こうした中、北海道電初の最新鋭液化天然ガス(LNG)発電所である石狩湾新港発電所(小樽市)1号機(同56万9400キロワット)が18年10月に試運転、19年2月に稼働する予定だ。
ただ電力の安定供給に寄与できるかは未知数。「すぐに100%の出力にはならない。試運転のため、(供給力の)確固としたものに位置付けるには早い」(北海道電の阪井一郎副社長)と説明する。
また北本連系線を現在の60万キロワットから19年3月に90万キロワットに増強する予定だが、冬場の電力需要のピークには間に合わない。ブラックアウトの再現を防ぐにも、節電など電力の安定供給に万全の対策を取ることが必要だ。
世耕弘成経済産業相の指示を受け、経産省所管の認可法人である電力広域的運営推進機関は、原因究明と再発防止策を検討する検証委員会(横山明彦委員長=東京大学教授)を設置、21日に初会合を開いた。
6日3時7分の地震発生から同25分のブラックアウトに至るまでの18分間の過程とともに復旧プロセスも検証し、再発防止策を提言する。10月中に中間報告、早ければ年内にも最終報告をまとめる。
北海道電によると、地震発生の直前、道内(離島を除く)の電力需要は308万キロワット。苫東厚真に3基(1、2、4号機)ある火力発電設備はフル稼働に近い状態で約150万キロワット、実に総需要の半分弱にあたる電力を供給していた。
同発電所は震源に近く、地震直後に定格出力60万キロワットの2号機(地震時の運転出力約56万キロワット)、同70万キロワットの4号機(同約60万キロワット)が緊急停止した。
北海道電は需給バランスをとるため、本州側と結ぶ容量60万キロワットの北本連系線を利用して電力融通を受ける一方、総需要のうち、124万キロワット分の供給を遮断する1回目の強制停電を作動した。
地震による被害は苫東厚真に限らず、道内の送配電設備にも及んだ。道東・北見方面へ結ぶ3ルートの基幹送電線が揺れでショートし、両地域は地震直後に停電。人口が少ない道東・北見地域の電力需要は約13万キロワットだが、域内は北海道電の水力発電設備が集中しており、その合計出力は約43万キロワット。両地域は送電網から切り離され、皮肉にも供給過剰が原因で停電した。
一方、他地域では強制停電で需要量が供給力を上回って低下していた周波数(基準50ヘルツ)が徐々に回復したものの、想定外だったのは通常の深夜時間帯ではありえない需要の増加。「地震の情報収集のために照明やテレビが一斉につけられた」(検証委)ことが要因とみられる。強制停電で電力系統の規模が縮小すると、需給バランスが崩れやすい。この影響は他の火力発電所の供給力を高めてカバーした。
苫東厚真で1基だけ残った1号機。同機には自動停止装置がなく地震時、出力約34万キロワットで運転していた。だが、損傷を受けて徐々に出力が低下し、北海道電は3時20分すぎ、2回目の強制停電16万キロワット分を作動。1号機が停止し、3回目の強制停電6万キロワット分を作動したが、需給バランスを維持できなかった。
北海道電がブラックアウトを防ぐため、設定した強制停電はこの3回で合計146万キロワット分、総需要の47%に相当する。すべて作動したにもかかわらず、回避できなかった。
強制停電の設定割合は総需要の40%程度が一般的とされる。横山委員長も「地震発生後、ブラックアウトに陥るまでの北海道電の系統運用に問題は見当たらない」とする。
(文=青柳一弘、札幌支局長・村山茂樹)
運転せざるを得ない状況
北海道電は、北海道地震で損傷した苫東厚真の1号機(出力35万キロワット)に続き、4号機(同70万キロワット)も25日に再稼働にこぎ着けたことで、電力需給の逼迫(ひっぱく)から一息つける状況となった。
しかし、道内の電力ピークはこれからだ。老朽火力のフル稼働による故障リスクの恐れもあり、決して油断はできない。
道内最大の火力発電所である苫東厚真は、地震前は道内の電力供給の半分程度を担っていた。北海道電の真弓明彦社長は、「長期の電源計画を立て、さまざまな観点から取り組んできた。泊原発が停止する中、苫東厚真を主力電源として運転せざるを得ない状況だった」と弁明する。
道内の電力供給力は苫東厚真1、4号機のほか、知内発電所(知内町)2号機(同35万キロワット)の稼働などにより25日現在で461万キロワットを確保した。地震前のピーク需要だった383万キロワットを上回る。
この結果、企業の自家発電からの電力調達をとりやめ、北海道と本州と結ぶ送電線「北海道・本州間連系設備(北本連系線)」を20万キロワットから10万キロワットに減らし、残り50万キロワットを緊急用の予備力とした。
ただ電力需要が高まる冬季に備えるには、供給力をさらに積み増す必要がある。17年度冬季のピーク需要は1月の525万キロワットであり、現時点では60万キロワットほど足りない。
原発再稼働、見通立たず
今後は苫東厚真2号機(同60万キロワット)が10月中旬に再稼働する見込みのほか、定期点検中の苫小牧発電所1号機(苫小牧市、同25万キロワット)の10月末稼働を前倒しする方向で調整している。グループ会社の苫小牧共同発電所(同、25万キロワット)の11月下旬からの稼働前倒しも視野に入れる。
とはいえ、老朽火力発電所をフル稼働させている状態に変わりはなく、必然的に故障リスクを抱える。奈井江発電所(奈井江町)の1号機(同17万5000キロワット)は運転開始から50年を超え、2号機(同17万5000キロワット)も48年が経過する。
停止中の泊原子力発電所(泊村、総出力207万キロワット)も原子力規制委員会の安全審査が終わらず、再稼働の見通しは立たない。
こうした中、北海道電初の最新鋭液化天然ガス(LNG)発電所である石狩湾新港発電所(小樽市)1号機(同56万9400キロワット)が18年10月に試運転、19年2月に稼働する予定だ。
ただ電力の安定供給に寄与できるかは未知数。「すぐに100%の出力にはならない。試運転のため、(供給力の)確固としたものに位置付けるには早い」(北海道電の阪井一郎副社長)と説明する。
また北本連系線を現在の60万キロワットから19年3月に90万キロワットに増強する予定だが、冬場の電力需要のピークには間に合わない。ブラックアウトの再現を防ぐにも、節電など電力の安定供給に万全の対策を取ることが必要だ。
検証委が始動
世耕弘成経済産業相の指示を受け、経産省所管の認可法人である電力広域的運営推進機関は、原因究明と再発防止策を検討する検証委員会(横山明彦委員長=東京大学教授)を設置、21日に初会合を開いた。
6日3時7分の地震発生から同25分のブラックアウトに至るまでの18分間の過程とともに復旧プロセスも検証し、再発防止策を提言する。10月中に中間報告、早ければ年内にも最終報告をまとめる。
北海道電によると、地震発生の直前、道内(離島を除く)の電力需要は308万キロワット。苫東厚真に3基(1、2、4号機)ある火力発電設備はフル稼働に近い状態で約150万キロワット、実に総需要の半分弱にあたる電力を供給していた。
同発電所は震源に近く、地震直後に定格出力60万キロワットの2号機(地震時の運転出力約56万キロワット)、同70万キロワットの4号機(同約60万キロワット)が緊急停止した。
北海道電は需給バランスをとるため、本州側と結ぶ容量60万キロワットの北本連系線を利用して電力融通を受ける一方、総需要のうち、124万キロワット分の供給を遮断する1回目の強制停電を作動した。
地震による被害は苫東厚真に限らず、道内の送配電設備にも及んだ。道東・北見方面へ結ぶ3ルートの基幹送電線が揺れでショートし、両地域は地震直後に停電。人口が少ない道東・北見地域の電力需要は約13万キロワットだが、域内は北海道電の水力発電設備が集中しており、その合計出力は約43万キロワット。両地域は送電網から切り離され、皮肉にも供給過剰が原因で停電した。
3回の強制停電使い果たす。北海道の特殊性も原因?
一方、他地域では強制停電で需要量が供給力を上回って低下していた周波数(基準50ヘルツ)が徐々に回復したものの、想定外だったのは通常の深夜時間帯ではありえない需要の増加。「地震の情報収集のために照明やテレビが一斉につけられた」(検証委)ことが要因とみられる。強制停電で電力系統の規模が縮小すると、需給バランスが崩れやすい。この影響は他の火力発電所の供給力を高めてカバーした。
苫東厚真で1基だけ残った1号機。同機には自動停止装置がなく地震時、出力約34万キロワットで運転していた。だが、損傷を受けて徐々に出力が低下し、北海道電は3時20分すぎ、2回目の強制停電16万キロワット分を作動。1号機が停止し、3回目の強制停電6万キロワット分を作動したが、需給バランスを維持できなかった。
北海道電がブラックアウトを防ぐため、設定した強制停電はこの3回で合計146万キロワット分、総需要の47%に相当する。すべて作動したにもかかわらず、回避できなかった。
強制停電の設定割合は総需要の40%程度が一般的とされる。横山委員長も「地震発生後、ブラックアウトに陥るまでの北海道電の系統運用に問題は見当たらない」とする。
(文=青柳一弘、札幌支局長・村山茂樹)
日刊工業新聞2018年9月27日