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自動運転車のブレーキは“摩擦に頼らない”

曙ブレーキ工業が2020年実用化へ
自動運転車のブレーキは“摩擦に頼らない”

MR流体を活用した新ブレーキ

 自動運転や電動化といった技術的な自動車業界の変革は、部品業界にも新発想や転換を迫る。曙ブレーキ工業が開発した次世代向けの“摩擦に頼らないブレーキ”は、環境に優しく、より心地よい走行の実現など新たな付加価値を自動車に与えそうだ。アンチロックブレーキシステム(ABS)への活用も見据え、2020年の実用化へ着々と開発が進む。

 「20年の東京五輪・パラリンピックに出されるであろう自動運転車に搭載したい」。曙ブレーキ中央技術研究所(埼玉県羽生市)の道辻善治主任研究員は新たなブレーキへの期待を語る。新ブレーキは東北大学の中野政身教授と共同で開発した。最大の特徴は機能性材料のMR流体を利用する点。MR流体は油などの液体の中に分散した鉄粉といった強磁性体粒子が、磁気に反応して鎖状になり液体が半固体へと変化する流体をいう。

 新ブレーキは、車両に固定した円盤と回転する円盤を交互に配置した間にMR流体を充填した構造。ブレーキ内の電磁石コイルに電流を流し、磁界を発生させると流体内の粒子が鎖のような形に連なる。回転円盤と固定円盤の中で鎖が壊れたりつながったりする現象を繰り返しブレーキの抵抗力を生み出す。

 MR流体ブレーキはパッドの摩耗などによる摩耗粉が発生しない。粉じんによる環境負荷が減らせる。電動ブレーキと違いモーターやギアも不要になる。

 曙ブレーキ工業が着目するのがMR流体ブレーキの反応の早さだ。油圧ブレーキの場合、「機械的な応答遅れなどがあり、20ミリ秒ほどかかってトルクが上がる」(道辻主任研究員)。だが、新ブレーキはモーターやギアがないことで「2ミリ秒くらいで反応する」(同)という。

 反応までの時間が早ければブレーキの効き目を細かく制御ができる。この特徴はABSに生かせるという。急ブレーキなどに伴う「ガタガタ」といった不快な振動が起こらないABSが実現すると見る。

 同社がアイスバーン相当の路面で時速20キロメートルで実施した走行試験では「運転者から『普通にブレーキが止まった』との声があった」(同)と違和感のなさに手応えを得た。

 また、細かくブレーキをかけられるため、自動運転車でも安全面などで重要な役割を果たしそうだ。電動化に対しても摩擦音によるノイズも減らせ、静粛性にも寄与する。
(文=山岸渉)
日刊工業新聞2018年9月6日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
同社は19年開催の東京モーターショーで自動運転との親和性などを高めた改良型の出展を見据える。20年に迫った世界へのお披露目に向け、改良を急ぐ。 (日刊工業新聞社・山岸渉)

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