【実物掲載】図表は使わない。企画書は、気持ち伝わる○○形式
シリーズインタビュー「企画」#2
きかく【企画】…新しい事業・イベントなどを計画すること。(新明解国語辞典第七版より)
新しいことを考えることは刺激的で魅惑的。
ただ、「仕事」として何かを企画する場合、内容に説得力や結果が求められる。そのためには、世の中に存在する課題を示し、解決できる根拠や手法を示さなくてはならない。上司や顧客を説得できる企画書やコミュ力も重要。企画を任されたけれど、そういうことがそもそも苦手だという方もいるかと思う。このようなことから、色々な理由で「企画」を前にして頭を抱える人が多いのではないだろうか。
そこで、色々な業界の方に、企画にまつわるあれこれを伺う「企画」という企画を立ててみた。新しいことを生み出すためのヒントを提供していきたい。
今回は2回目で、クリエイティブディレクター小霜和也さんのインタビュー後編。
前編で小霜さんは、成果を出せる企画に大事なことは「急所」を捉えることだと語った。急所を捉えるには、自分の思い込みやうわべの理解で仕事を進めないで、ターゲットや広告主と直に接し「本当」の部分を探ることが重要であるとした。本当の課題は何か? 本当の商品の強みは何か? 本当は誰にウケるのか? そういったことがわからないまま企画には進まない。また、一人で考えるだけでなく、自分にないものを持っているスタッフとの打ち合わせで生まれる「気づき」も大切にしている。(シリーズインタビュー「企画」#1「急所」を捉えた企画が、数字を作る)
さて、企画の方向性が見えてくると、それを企画書にまとめる必要がある。そこで、今回のテーマは「企画書」。小霜さんの企画書には、一般的に考えられている企画書にはない、ある際立った特徴がある。 実物の企画書も掲載している。
記事の最後には「良いアイデアはどうすれば生まれる?」というインタビューコラムを掲載した。(文・平川 透)
—企画書にはいつもどのようなことを書かれるのですか。
「ケースバイケースで決まった形がないけど、特徴と言えば、僕の企画書は表やグラフが全然ない。図って、一般的にはよく使われると思う。僕は全然使わない。そういうものを使った企画書って書けない。文章だけなんですよ。マネージャーは僕の企画書を「お手紙」って呼んでいます」
—具体的には何を書いているのですか。
「『僕はこう思いました』『なぜこう思ったかというと、こういうことがあるから』『こういう風にやれば、うまくいくはずです』ということを書く。自分の気持ちを伝えようと思って企画書を書く」
「僕自身、図表を読むのが苦手で。なぜなら、企画書を書いた人の体温が伝わらないから。『何を大事にしているんだろう?』『どういう気持ちで書いたのだろう?』というところがわからない。『本当に気にしているのはどこ?』とか『本当に心配しているのはどこ?』というように、『本当は』という部分を伝えないと、企画が上滑りになってしまう気がする。本当の部分を腹を割って話したいとなると文章の形式になる」
—図表などを用いた数字的な根拠などは問われないのですか?
「軸足がクリエイティブだから、気持ちを伝えることがまず大事。もちろん数字のようなものはつけるけれども、資料としての意味合いが強い。『こういう数字が出ているので、こうすべきです』という方程式的なことはあまり語らない。むしろ、『この数字を見るとこうすべきだけど、僕はこう考える』という提案をする」
—理論の流れに乗らないのですね。
「理屈は理屈だけど、小霜理屈。小霜理屈を作るのは、データだけではなくて、調査。グループインタビューなどで得られた感覚などが入っている。数字にならない部分も大事だと思っていて、そのあたりから小霜理屈を展開するという感じ」
—気持ちや感覚を重視されているのですね。まさにお手紙という感じです。
「企画書は『提案』というよりもオリエンシートに対しての『回答』という感じ。『課題に対する僕の回答はこうです』『こういう風にしたらどうでしょう』『なぜなら、今の現状ってこうなっていますよね、おかしいですよね』『具体的にはこのようにしてみませんか?』という流れから、キャッチコピーやCMコンテなどの具体的なクリエイティブ案を提示していく」
—提案の通過が企画の完成にあたりますか。
「広告のクリエイティブって、段階を踏んで良くなっていく。テレビCMの企画でいうと、企画コンテができるとそれをCM監督に預ける。監督から、(もちろん狙いはそのままで、)こういう風に演出を変えるともっと『強く』なるよという演出コンテの提案が出て来る。そこで企画は一段階レベルが上がる。CM撮影に入ると、また気づきがある。『こんな風に撮った方が良いのではないか?』という現場の発見がある。次に映像の編集に入る。編集でもまた気づきがある。『こういうつなぎ方をした方がいいんじゃないの?』というような」
「このように、最初に作った企画が良ければそれで良しということではなくて、できた企画を段階的にどんどん良くしていくことも大事。だから僕は撮影から編集まで全部立ち会って、その場その場でアイデアを出してくことを必ずやっている。最終的なアウトプットの出来が良くなければ、元の企画がなんぼ良くても意味がないので」
コラム「良いアイデアはどうすれば生まれる?」
—アイデアの生み出し方について教えてください。
「アイデアって、『2回考える』のがセオリー。最初は360度あらゆる切り口で考える。すると、『何か足らないな』とか『なんかこれが気になるけど、まだうまくいってないような気がするなあ』とモヤモヤする。モヤモヤを残したまま、例えば1週間くらい経って再び考えると、『あれ、これってこういうことじゃないの?』という風に、うまく整理できたり、新しいアイデアが出てきたりする。それを僕らは『降りて来る』と表現する。自分が考えたというよりかは、天から降ってきたという感覚がある」
—ある程度の時間がかかるのですね。
「アイデアって、1日考えれば出ると思っている人が多いけど、それは違っていて、時間があればあるほど良い。単に時間があればいいということではなく、『気にしている期間が長い』方が良いということ。降りて来るまでには時間が必要。現実的には、我々には締め切りがあるから、降りて来るまで待っているわけにはいかない。降りやすい環境を作ることが大事。環境は『360度色々考えて、モヤモヤし続ける時間を確保する』ことで整う」
—良いアイデアとはどのようなものですか。
「『自分で考えた気がしないもの』が良いアイデア。それは意識的に作るというよりかは、潜在意識から生まれて来るものだと思う」>
プロフィール
こしも・かずや クリエイティブディレクター、コピーライター。86年、東京大学法学部卒業、同年コピーライターとして博報堂入社。98年退社。現在、ノープロブレム合同会社、株式会社小霜オフィス代表。「プレイステーション」や「一番搾り」、「ドラゴンクエストX」、「VAIO」など多くの広告に携わる。マス・Web広告統合の先駆を務める。広告賞受賞多数。著書に「急いでデジタルクリエイティブの本当の話をします。」「ここらで広告コピーの本当の話をします。」などがある。>
シリーズインタビュー「企画」
きかく【企画】…新しい事業・イベントなどを計画すること。(新明解国語辞典第七版より)
辞書の説明にふんわりと沿う形で、色々な業界の方に「アイデアを生み出し、形にするために大切にしていること」「仕事で成果を出すために大切にしていること」などをインタビューしていきます。
#1 クリエイティブディレクター・小霜和也さん
『急所』を捉えた企画が、数字を作る
#2 クリエイティブディレクター・小霜和也さん
【実物掲載】図表は使わない。企画書は、気持ち伝わる○○形式
#3 青山ブックセンター書店員・山下優さん
青山ブックセンター書店員 山下優さんに聞く、本が売れる店作り
#4 アップリンク代表・浅井隆さん
ビジネスの勝算は小ささと立地にある? ミニシアター・アップリンク吉祥寺12月完成
#5 アップリンク代表・浅井隆さん
パルコが必要としたアップリンクの「カルチャー」と「ビジネスプラン」>
新しいことを考えることは刺激的で魅惑的。
ただ、「仕事」として何かを企画する場合、内容に説得力や結果が求められる。そのためには、世の中に存在する課題を示し、解決できる根拠や手法を示さなくてはならない。上司や顧客を説得できる企画書やコミュ力も重要。企画を任されたけれど、そういうことがそもそも苦手だという方もいるかと思う。このようなことから、色々な理由で「企画」を前にして頭を抱える人が多いのではないだろうか。
そこで、色々な業界の方に、企画にまつわるあれこれを伺う「企画」という企画を立ててみた。新しいことを生み出すためのヒントを提供していきたい。
今回は2回目で、クリエイティブディレクター小霜和也さんのインタビュー後編。
前編で小霜さんは、成果を出せる企画に大事なことは「急所」を捉えることだと語った。急所を捉えるには、自分の思い込みやうわべの理解で仕事を進めないで、ターゲットや広告主と直に接し「本当」の部分を探ることが重要であるとした。本当の課題は何か? 本当の商品の強みは何か? 本当は誰にウケるのか? そういったことがわからないまま企画には進まない。また、一人で考えるだけでなく、自分にないものを持っているスタッフとの打ち合わせで生まれる「気づき」も大切にしている。(シリーズインタビュー「企画」#1「急所」を捉えた企画が、数字を作る)
さて、企画の方向性が見えてくると、それを企画書にまとめる必要がある。そこで、今回のテーマは「企画書」。小霜さんの企画書には、一般的に考えられている企画書にはない、ある際立った特徴がある。 実物の企画書も掲載している。
記事の最後には「良いアイデアはどうすれば生まれる?」というインタビューコラムを掲載した。(文・平川 透)
—企画書にはいつもどのようなことを書かれるのですか。
「ケースバイケースで決まった形がないけど、特徴と言えば、僕の企画書は表やグラフが全然ない。図って、一般的にはよく使われると思う。僕は全然使わない。そういうものを使った企画書って書けない。文章だけなんですよ。マネージャーは僕の企画書を「お手紙」って呼んでいます」
—具体的には何を書いているのですか。
「『僕はこう思いました』『なぜこう思ったかというと、こういうことがあるから』『こういう風にやれば、うまくいくはずです』ということを書く。自分の気持ちを伝えようと思って企画書を書く」
「僕自身、図表を読むのが苦手で。なぜなら、企画書を書いた人の体温が伝わらないから。『何を大事にしているんだろう?』『どういう気持ちで書いたのだろう?』というところがわからない。『本当に気にしているのはどこ?』とか『本当に心配しているのはどこ?』というように、『本当は』という部分を伝えないと、企画が上滑りになってしまう気がする。本当の部分を腹を割って話したいとなると文章の形式になる」
—図表などを用いた数字的な根拠などは問われないのですか?
「軸足がクリエイティブだから、気持ちを伝えることがまず大事。もちろん数字のようなものはつけるけれども、資料としての意味合いが強い。『こういう数字が出ているので、こうすべきです』という方程式的なことはあまり語らない。むしろ、『この数字を見るとこうすべきだけど、僕はこう考える』という提案をする」
—理論の流れに乗らないのですね。
「理屈は理屈だけど、小霜理屈。小霜理屈を作るのは、データだけではなくて、調査。グループインタビューなどで得られた感覚などが入っている。数字にならない部分も大事だと思っていて、そのあたりから小霜理屈を展開するという感じ」
—気持ちや感覚を重視されているのですね。まさにお手紙という感じです。
「企画書は『提案』というよりもオリエンシートに対しての『回答』という感じ。『課題に対する僕の回答はこうです』『こういう風にしたらどうでしょう』『なぜなら、今の現状ってこうなっていますよね、おかしいですよね』『具体的にはこのようにしてみませんか?』という流れから、キャッチコピーやCMコンテなどの具体的なクリエイティブ案を提示していく」
企画書の実物。導入部の4スライド
—提案の通過が企画の完成にあたりますか。
「広告のクリエイティブって、段階を踏んで良くなっていく。テレビCMの企画でいうと、企画コンテができるとそれをCM監督に預ける。監督から、(もちろん狙いはそのままで、)こういう風に演出を変えるともっと『強く』なるよという演出コンテの提案が出て来る。そこで企画は一段階レベルが上がる。CM撮影に入ると、また気づきがある。『こんな風に撮った方が良いのではないか?』という現場の発見がある。次に映像の編集に入る。編集でもまた気づきがある。『こういうつなぎ方をした方がいいんじゃないの?』というような」
「このように、最初に作った企画が良ければそれで良しということではなくて、できた企画を段階的にどんどん良くしていくことも大事。だから僕は撮影から編集まで全部立ち会って、その場その場でアイデアを出してくことを必ずやっている。最終的なアウトプットの出来が良くなければ、元の企画がなんぼ良くても意味がないので」
アイデアが「降りて来る」条件とは
—アイデアの生み出し方について教えてください。
「アイデアって、『2回考える』のがセオリー。最初は360度あらゆる切り口で考える。すると、『何か足らないな』とか『なんかこれが気になるけど、まだうまくいってないような気がするなあ』とモヤモヤする。モヤモヤを残したまま、例えば1週間くらい経って再び考えると、『あれ、これってこういうことじゃないの?』という風に、うまく整理できたり、新しいアイデアが出てきたりする。それを僕らは『降りて来る』と表現する。自分が考えたというよりかは、天から降ってきたという感覚がある」
—ある程度の時間がかかるのですね。
「アイデアって、1日考えれば出ると思っている人が多いけど、それは違っていて、時間があればあるほど良い。単に時間があればいいということではなく、『気にしている期間が長い』方が良いということ。降りて来るまでには時間が必要。現実的には、我々には締め切りがあるから、降りて来るまで待っているわけにはいかない。降りやすい環境を作ることが大事。環境は『360度色々考えて、モヤモヤし続ける時間を確保する』ことで整う」
—良いアイデアとはどのようなものですか。
「『自分で考えた気がしないもの』が良いアイデア。それは意識的に作るというよりかは、潜在意識から生まれて来るものだと思う」>
こしも・かずや クリエイティブディレクター、コピーライター。86年、東京大学法学部卒業、同年コピーライターとして博報堂入社。98年退社。現在、ノープロブレム合同会社、株式会社小霜オフィス代表。「プレイステーション」や「一番搾り」、「ドラゴンクエストX」、「VAIO」など多くの広告に携わる。マス・Web広告統合の先駆を務める。広告賞受賞多数。著書に「急いでデジタルクリエイティブの本当の話をします。」「ここらで広告コピーの本当の話をします。」などがある。>
きかく【企画】…新しい事業・イベントなどを計画すること。(新明解国語辞典第七版より)
辞書の説明にふんわりと沿う形で、色々な業界の方に「アイデアを生み出し、形にするために大切にしていること」「仕事で成果を出すために大切にしていること」などをインタビューしていきます。
#1 クリエイティブディレクター・小霜和也さん
『急所』を捉えた企画が、数字を作る
#2 クリエイティブディレクター・小霜和也さん
【実物掲載】図表は使わない。企画書は、気持ち伝わる○○形式
#3 青山ブックセンター書店員・山下優さん
青山ブックセンター書店員 山下優さんに聞く、本が売れる店作り
#4 アップリンク代表・浅井隆さん
ビジネスの勝算は小ささと立地にある? ミニシアター・アップリンク吉祥寺12月完成
#5 アップリンク代表・浅井隆さん
パルコが必要としたアップリンクの「カルチャー」と「ビジネスプラン」>
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