「急所」を捉えた企画が、数字を作る
シリーズインタビュー「企画」#1
きかく【企画】…新しい事業・イベントなどを計画すること。(新明解国語辞典第七版より)
新しいことを考えることは刺激的で魅惑的。
ただ、「仕事」として何かを企画する場合、内容に説得力や結果が求められる。そのためには、世の中に存在する課題を示し、解決できる根拠や手法を示さなくてはならない。上司や顧客を説得できる企画書やコミュ力も重要。企画を任されたけれど、そういうことがそもそも苦手だという方もいるかと思う。このようなことから、色々な理由で「企画」を前にして頭を抱える人が多いのではないだろうか。
そこで、色々な業界の方に、企画にまつわるあれこれを伺う「企画」という企画を立ててみた。新しいことを生み出すためのヒントを提供していきたい。
1回目は、クリエイティブディレクターでコピーライターの小霜和也さんにご登場いただく。古くは「プレイステーション」や「一番搾り」、最近では「VAIO」や「ヘルシア」など、誰もが知る商品の広告を数多く手掛けきた。そんな小霜さんに、結果を出せる企画を作るための着眼点や情報収集法などを聞いた。(文・平川 透)
—商品やサービスを宣伝する広告キャンペーンの企画はどのように始まるのですか。
「広告主の中に入って、『課題が何かを一緒に考える』という戦略のさらに手前の段階から依頼を受ける場合もあれば、『この商品のCM案を出してくれ』というクリエイティブのみの依頼を受ける場合もある。僕の場合は、戦略立案から入ることが多い」
—企画を立てる時、大事にしていることは何ですか。
「僕は数字を出すことを目標に企画を作る*。広告コミュニケーションって、ものすごく色々な要素が絡んでいる。色々な要素や事情や制約を整理するだけの企画だと、勝てない。広告で数字を出す企画にするためには、『急所』を見つけることが大事だと思う」
—「急所」。
「例えば、2015年から手がけている『VAIO』で言うと、『ターゲットを変える』ところが急所だと思った。それまでVAIOってファンやマニアが買うPCだった。VAIOの強みを考えると、『ビジネスマンのPC』とターゲットを絞ることが『勝ち筋』じゃないかと思った」
—それはなぜですか。
「実際に買って使ってみて、『あ、これ仕事に使えるな』と思った。VAIOは趣味的に使うよりも、ビジネスマンにとって使いやすいような設計になっているのではないかと思った。また、ビジネスマンに絞ってアプローチする方が、コミュニケーション投資的に効率的だと思った。こういった部分を急所だと思って広告展開をしていくと結果的に売れた。機種によっては2ヶ月待ちになったのでお詫びCMも作った」
—ビジネスPCと言えば、レッツノートやThinkPadが思い浮かぶのですが、VAIOもそのポジションを目指したのですか。
「レッツノートやThinkPadは法人の一括買いという感じ。一方で、フリーランスや個人事務所を構える僕のように、パーソナルだけど仕事で使うという人もいる。VAIOはビジネスマンといっても、『自分で買う人』に向ければ良いのでは、と思った」
「ただ、面白いのは、そのような方向で広告キャンペーンを始めると、法人からの問い合わせが増えた。実はVAIOは、それまでは法人対応をきちんとしていなかった。問い合わせが増えてからは、法人向けの対応に力を入れていくことになった。それに合わせて組織も変わった。だから、VAIOの企画というのは、ビジネスモデルまで変えていくきっかけも作れたと思っている」
—良い企画には数字以外にも何か力があるのですね。
「『急所』を捉えた広告というのは、そこからビジネスモデルや組織までを変えるきっかけにもなりうる」
—VAIOではどのようなことを念頭に置いて広告を作ったのですか。
「『なぜ、ビジネスマンに向いているのか?』を伝えなければならない。レッツノートは見るからに頑丈。だから頑丈であることを訴えやすい。一方VAIOは頑丈だけど、デザイン重視だから華奢に見える。そのため、そこを訴求しても戦えないと思った。頑丈さではなくて、『使いやすさ』で勝負をしようと思った。例えば、キーボードの打感も滑らか。色々なところで『心地良さ』にこだわっている部分があった」
「そこで、まず『パソコンを心地よく使えると、仕事の生産性も上がりますよ』というコンセプトをコピー化した」
—「急所」を的確に突くための手法はありますか。
「新しい仕事をする時には、必ず、グループインタビューをやらせてくれと頼む。グループインタビューを見ながら企画を考える。見込みターゲットがする話の中にヒントや気づきが潜んでいる。商品やサービスについてどう感じているのか、どうすればブランドスイッチ(乗り換え)しようと思うのか聞き、企画の方向性や急所を探る」
—グループインタビューでは何がわかりますか。
「間違い探しというか、当初こちらが思っていたことが全然的外れだった、ということがよくある。『ターゲットにとって本当に大事だったのはそっちだったのか』といったことがわかる。グループの誰かが発した何気ない一言から企画の急所が見つかったりする」
「実際に相手にする人たちってこうだよなあ、こういう風に感じるんだなあ、といったことを肌で感じた時に直感が働く。クリエイティブって、最後は直感の世界になる。その直感を満たすためには直にターゲットの話を聞くことが大事だと思う。調査が終わった時点で自分の中に『やっぱりこうだな』『この方向だな』という感触ができている」
「このプロセスを経ないと怖くて企画できない。ただの思い込みや机上の空輪で企画を立ててしまいかねない。その状態で大きな予算をかけてローンチさせる度胸が僕にはない」
—他に大切にしている情報源を教えてください。
「広告主。直接会ってどういう課題感を持っているのかを聞くことがすごく重要。広告主って、その商品のことを考え続けている。僕は色々な広告主と関わっている。それこそ10社以上。そうすると、広告主の10分の1もその商品について考える時間を割けていない。広告主は、商品に対して抱いている経験値みたいなものだったり、流通や営業現場など広告を取り巻く環境についてもわかっている」
「広告主が出したオリエンシートだけを見ても掴めないものがある。うわべだけの理解で進もうとしていないか?と疑う。つまり、本当の課題が何なのか、本当の急所はどこなのか、商品の本当の強みは何なのか、本当は誰にウケるのか・・・というような『本当』の部分がわからないまま企画には進めない。本当の部分を掴むためには、広告主に直接話を聞いて、話しているニュアンスや表情から、大事なポイントを探る」
—どのようなことを聞くのですか。
「オリエンシートを見て『ちょっとここがわからないな』と思ったところだったり、自分の中で立てた仮説について、『どう思います?』と聞いたり。このように、グループインタビューや広告主の話を聞きながら、企画に入る前の地固めをおこなう」
—その他に、良い企画を立てるために大事な要素はありますか。
「人が関わることで生まれる『刺激』。企画って一人でできない。打ち合わせしている中で思いつくことが多い。若い人を集めて、企画を持ち寄って、『だったら、こうすればいいんじゃない?』ということがしょっちゅうある。だから、僕にないものを持ってきてくれるスタッフを重宝する」
明日は小霜和也さんのインタビュー後編を配信。テーマは「企画書」。小霜さんの企画書には、一般的に考えられているような企画書にはない、ある際立った特徴がある。企画書を書く上で大切にしていることとは何か? 実物の企画書も掲載。
プロフィール
こしも・かずや クリエイティブディレクター、コピーライター。86年、東京大学法学部卒業、同年コピーライターとして博報堂入社。98年退社。現在、ノープロブレム合同会社、株式会社小霜オフィス代表。「プレイステーション」や「一番搾り」、「ドラゴンクエストX」、「VAIO」など多くの広告に携わる。マス・Web広告統合の先駆を務める。広告賞受賞多数。著書に「急いでデジタルクリエイティブの本当の話をします。」「ここらで広告コピーの本当の話をします。」などがある。
↓↓タイトル一覧↓↓
#1 クリエイティブディレクター・小霜和也さん
『急所』を捉えた企画が、数字を作る
#2 クリエイティブディレクター・小霜和也さん
【実物掲載】図表は使わない。企画書は、気持ち伝わる○○形式
#3 青山ブックセンター書店員・山下優さん
青山ブックセンター書店員 山下優さんに聞く、本が売れる店作り
#4 アップリンク代表・浅井隆さん
ビジネスの勝算は小ささと立地にある? ミニシアター・アップリンク吉祥寺12月完成
#5 アップリンク代表・浅井隆さん
パルコが必要としたアップリンクの「カルチャー」と「ビジネスプラン」
#6 ロボット研究者・石黒浩さん
全く新しい発想のロボットは、常に「基本的な問い」から生まれる
#7 JAXAエンジニア・野田篤司さん
JAXA野田篤司さんに聞く、不可能を可能にするアイデアの育て方と議論の作法
きかく【企画】…新しい事業・イベントなどを計画すること。(新明解国語辞典第七版より)
辞書の説明にふんわりと沿う形で、色々な業界の方に「アイデアを生み出し、形にするために大切にしていること」「仕事で成果を出すために大切にしていること」などをインタビューしていきます。>
新しいことを考えることは刺激的で魅惑的。
ただ、「仕事」として何かを企画する場合、内容に説得力や結果が求められる。そのためには、世の中に存在する課題を示し、解決できる根拠や手法を示さなくてはならない。上司や顧客を説得できる企画書やコミュ力も重要。企画を任されたけれど、そういうことがそもそも苦手だという方もいるかと思う。このようなことから、色々な理由で「企画」を前にして頭を抱える人が多いのではないだろうか。
そこで、色々な業界の方に、企画にまつわるあれこれを伺う「企画」という企画を立ててみた。新しいことを生み出すためのヒントを提供していきたい。
1回目は、クリエイティブディレクターでコピーライターの小霜和也さんにご登場いただく。古くは「プレイステーション」や「一番搾り」、最近では「VAIO」や「ヘルシア」など、誰もが知る商品の広告を数多く手掛けきた。そんな小霜さんに、結果を出せる企画を作るための着眼点や情報収集法などを聞いた。(文・平川 透)
—商品やサービスを宣伝する広告キャンペーンの企画はどのように始まるのですか。
「広告主の中に入って、『課題が何かを一緒に考える』という戦略のさらに手前の段階から依頼を受ける場合もあれば、『この商品のCM案を出してくれ』というクリエイティブのみの依頼を受ける場合もある。僕の場合は、戦略立案から入ることが多い」
—企画を立てる時、大事にしていることは何ですか。
「僕は数字を出すことを目標に企画を作る*。広告コミュニケーションって、ものすごく色々な要素が絡んでいる。色々な要素や事情や制約を整理するだけの企画だと、勝てない。広告で数字を出す企画にするためには、『急所』を見つけることが大事だと思う」
*広告賞を重視するクリエイターもいる。何を目標に置くのかは人それぞれ。
—「急所」。
「例えば、2015年から手がけている『VAIO』で言うと、『ターゲットを変える』ところが急所だと思った。それまでVAIOってファンやマニアが買うPCだった。VAIOの強みを考えると、『ビジネスマンのPC』とターゲットを絞ることが『勝ち筋』じゃないかと思った」
—それはなぜですか。
「実際に買って使ってみて、『あ、これ仕事に使えるな』と思った。VAIOは趣味的に使うよりも、ビジネスマンにとって使いやすいような設計になっているのではないかと思った。また、ビジネスマンに絞ってアプローチする方が、コミュニケーション投資的に効率的だと思った。こういった部分を急所だと思って広告展開をしていくと結果的に売れた。機種によっては2ヶ月待ちになったのでお詫びCMも作った」
企画がビジネスモデルに良い影響をもたらす
—ビジネスPCと言えば、レッツノートやThinkPadが思い浮かぶのですが、VAIOもそのポジションを目指したのですか。
「レッツノートやThinkPadは法人の一括買いという感じ。一方で、フリーランスや個人事務所を構える僕のように、パーソナルだけど仕事で使うという人もいる。VAIOはビジネスマンといっても、『自分で買う人』に向ければ良いのでは、と思った」
「ただ、面白いのは、そのような方向で広告キャンペーンを始めると、法人からの問い合わせが増えた。実はVAIOは、それまでは法人対応をきちんとしていなかった。問い合わせが増えてからは、法人向けの対応に力を入れていくことになった。それに合わせて組織も変わった。だから、VAIOの企画というのは、ビジネスモデルまで変えていくきっかけも作れたと思っている」
—良い企画には数字以外にも何か力があるのですね。
「『急所』を捉えた広告というのは、そこからビジネスモデルや組織までを変えるきっかけにもなりうる」
—VAIOではどのようなことを念頭に置いて広告を作ったのですか。
「『なぜ、ビジネスマンに向いているのか?』を伝えなければならない。レッツノートは見るからに頑丈。だから頑丈であることを訴えやすい。一方VAIOは頑丈だけど、デザイン重視だから華奢に見える。そのため、そこを訴求しても戦えないと思った。頑丈さではなくて、『使いやすさ』で勝負をしようと思った。例えば、キーボードの打感も滑らか。色々なところで『心地良さ』にこだわっている部分があった」
「そこで、まず『パソコンを心地よく使えると、仕事の生産性も上がりますよ』というコンセプトをコピー化した」
うわべだけの理解で企画を進めていないか?
—「急所」を的確に突くための手法はありますか。
「新しい仕事をする時には、必ず、グループインタビューをやらせてくれと頼む。グループインタビューを見ながら企画を考える。見込みターゲットがする話の中にヒントや気づきが潜んでいる。商品やサービスについてどう感じているのか、どうすればブランドスイッチ(乗り換え)しようと思うのか聞き、企画の方向性や急所を探る」
グループインタビューは、集まった複数人に対してモデレータがインタビューする取材形式。
—グループインタビューでは何がわかりますか。
「間違い探しというか、当初こちらが思っていたことが全然的外れだった、ということがよくある。『ターゲットにとって本当に大事だったのはそっちだったのか』といったことがわかる。グループの誰かが発した何気ない一言から企画の急所が見つかったりする」
「実際に相手にする人たちってこうだよなあ、こういう風に感じるんだなあ、といったことを肌で感じた時に直感が働く。クリエイティブって、最後は直感の世界になる。その直感を満たすためには直にターゲットの話を聞くことが大事だと思う。調査が終わった時点で自分の中に『やっぱりこうだな』『この方向だな』という感触ができている」
「このプロセスを経ないと怖くて企画できない。ただの思い込みや机上の空輪で企画を立ててしまいかねない。その状態で大きな予算をかけてローンチさせる度胸が僕にはない」
—他に大切にしている情報源を教えてください。
「広告主。直接会ってどういう課題感を持っているのかを聞くことがすごく重要。広告主って、その商品のことを考え続けている。僕は色々な広告主と関わっている。それこそ10社以上。そうすると、広告主の10分の1もその商品について考える時間を割けていない。広告主は、商品に対して抱いている経験値みたいなものだったり、流通や営業現場など広告を取り巻く環境についてもわかっている」
「広告主が出したオリエンシートだけを見ても掴めないものがある。うわべだけの理解で進もうとしていないか?と疑う。つまり、本当の課題が何なのか、本当の急所はどこなのか、商品の本当の強みは何なのか、本当は誰にウケるのか・・・というような『本当』の部分がわからないまま企画には進めない。本当の部分を掴むためには、広告主に直接話を聞いて、話しているニュアンスや表情から、大事なポイントを探る」
—どのようなことを聞くのですか。
「オリエンシートを見て『ちょっとここがわからないな』と思ったところだったり、自分の中で立てた仮説について、『どう思います?』と聞いたり。このように、グループインタビューや広告主の話を聞きながら、企画に入る前の地固めをおこなう」
—その他に、良い企画を立てるために大事な要素はありますか。
「人が関わることで生まれる『刺激』。企画って一人でできない。打ち合わせしている中で思いつくことが多い。若い人を集めて、企画を持ち寄って、『だったら、こうすればいいんじゃない?』ということがしょっちゅうある。だから、僕にないものを持ってきてくれるスタッフを重宝する」
明日は小霜和也さんのインタビュー後編を配信。テーマは「企画書」。小霜さんの企画書には、一般的に考えられているような企画書にはない、ある際立った特徴がある。企画書を書く上で大切にしていることとは何か? 実物の企画書も掲載。
こしも・かずや クリエイティブディレクター、コピーライター。86年、東京大学法学部卒業、同年コピーライターとして博報堂入社。98年退社。現在、ノープロブレム合同会社、株式会社小霜オフィス代表。「プレイステーション」や「一番搾り」、「ドラゴンクエストX」、「VAIO」など多くの広告に携わる。マス・Web広告統合の先駆を務める。広告賞受賞多数。著書に「急いでデジタルクリエイティブの本当の話をします。」「ここらで広告コピーの本当の話をします。」などがある。
↓↓タイトル一覧↓↓
#1 クリエイティブディレクター・小霜和也さん
『急所』を捉えた企画が、数字を作る
#2 クリエイティブディレクター・小霜和也さん
【実物掲載】図表は使わない。企画書は、気持ち伝わる○○形式
#3 青山ブックセンター書店員・山下優さん
青山ブックセンター書店員 山下優さんに聞く、本が売れる店作り
#4 アップリンク代表・浅井隆さん
ビジネスの勝算は小ささと立地にある? ミニシアター・アップリンク吉祥寺12月完成
#5 アップリンク代表・浅井隆さん
パルコが必要としたアップリンクの「カルチャー」と「ビジネスプラン」
#6 ロボット研究者・石黒浩さん
全く新しい発想のロボットは、常に「基本的な問い」から生まれる
#7 JAXAエンジニア・野田篤司さん
JAXA野田篤司さんに聞く、不可能を可能にするアイデアの育て方と議論の作法
きかく【企画】…新しい事業・イベントなどを計画すること。(新明解国語辞典第七版より)
辞書の説明にふんわりと沿う形で、色々な業界の方に「アイデアを生み出し、形にするために大切にしていること」「仕事で成果を出すために大切にしていること」などをインタビューしていきます。>
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