停滞する格安スマホの逃げ場はIoT市場

2年前は楽なレースだったが…

 急成長を遂げた格安スマートフォン市場の伸びが鈍ってきた。大手キャリアが割安プランを相次ぎ投入し、顧客流出を防いでいることが原因の一つだ。安さを武器に戦ってきた格安スマホ事業者にとって大きな打撃となった。加えて国内市場は人口減少が進んで全体の母数が縮小し、今後大きな成長は見込めない。そのため、拡大するIoT(モノのインターネット)需要の取り込みを図る動きが活発化してきた。

 「2年前は楽なレースだった。これからは本来あるべき姿で競争する必要がある」―。インターネットイニシアティブ(IIJ)の矢吹重雄MVNO事業部長は、格安スマホ市場をこう分析する。IT調査会社のMM総研によると、これまで前年度比50―60%増のペースが続いた格安スマホの契約数は、2018年3月末時点で同33・7%の成長と、やや伸びが鈍化してきた。

 市場の先行きをにらみ、IIJは通信の「開通」と「中断」を自在に設定できるIoT向けサービスを始めた。同社のSIMカードを製品に組み込むと、電波を発するタイミングを顧客が管理できるため、通信費用を減らせる。販管費を削減して価格の引き下げにもつながる。同社が提供するインバウンド(訪日外国人)向けのプリペイド型携帯電話も空港やホテルなどでの採用が相次いでいる。

 「ビッグローブモバイル」を手がけるビッグローブもIoTなど法人向けにシフトを急ぐ。松田康典執行役員常務は「IoT向けは息の長いビジネスが可能となる」と説明する。同社は、企業が気軽にIoTを導入できる端末「BL―02」を提案している。1台で位置情報や加速度、気圧データを収集してインターネットに送信できるのが特徴だ。工場や屋外で働く従業員が持ち歩くことで、管理者は作業指示や動線を最適化できる。車に乗せて道路を走行することで路面状況などの把握にも役立てられる。

 BL―02の導入には、どういったデータを収集・分析して課題解決につなげるのかを顧客とコミュニケーションをとりながらPoC(概念実証)を進めることが必要となる。このため「半年―1年程度のプロジェクトになる」(松田執行役員常務)という。個人向け格安スマホと異なり、通信回線だけではなくデータの収集・分析などのソリューション提供を可能とした。すでに数十社が導入に向けた動作検証を実施しているという。

 IoT事業を展開することは、通信帯域の有効利用にも貢献している。格安スマホユーザーはインターネットから情報を収集する際に「下り」の回線を使うが、IoTは機械から情報をインターネットへ送信する時は「上り」の回線を利用するからだ。「mineo(マイネオ)」を展開するケイ・オプティコムは、約100万件の契約数のうち、5%がIoTを含んだ法人向け。経営本部モバイル事業戦略グループの上田晃穂グループマネージャーは「回線を有効利用するためにも法人向けに力を入れたい」と話す。

顧客獲得競争が厳しさを増す格安スマホ市場は、M&A(合併・買収)や業務提携で淘汰(とうた)が進む。拡大するIoT需要を取り込んでいけるかどうかが、今後の成長を左右しそうだ。
(文=大城蕗子)

日刊工業新聞2018年9月2日

八子 知礼

八子 知礼
09月03日
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MVNOは料金で競争するのではなく、自社が本来行なっているビジネスとのシナジーを創出する利便性や付加価値で勝負するビジネスである。コンシューマ市場での競争が一段落したこととIoTニーズはMVNOが取り組んでも価値ある提案を出す余地がまだまだ十分あるため、法人向けIoTシフトするのは当初から想定された話。ただしこれも1社で取り組むのではなく、自社が苦手なアプリケーションレイヤーなどの事業者との協業によって実現することとなる。単独でやれるほど市場は甘くないのがIoTビジネスなのだ。

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