事業承継進まず廃業の危機、東京・多摩地区はどう脱するか
行政の支援機関が続々誕生
東京・多摩地区に、中小企業や小規模事業者の事業承継を後押しする行政の支援機関が次々と誕生している。多摩地区は全国でも有数の企業集積地で一つの県と同規模の製造品出荷額を誇る。一方、地域の活力を支える企業の事業承継は円滑に進んでいるとはいえず、経営者の高齢化とともに廃業の危機が迫っている。支援機関の取り組みを追った。
東京都が町田商工会議所に設置した多摩ビジネスサポートセンター(東京都町田市、042・732・3920)は、小規模事業者の事業承継や事業継続、経営課題などを支援する。特に相談業務に力を入れ専門家による無料相談が充実する。第三者を介さない親族内承継や役員・従業員の事業承継の支援を想定する。
支援対象エリアは多摩地区の商工会議所を設置する7市が中心だが、それ以外の地域でも相談に応じる。支援は事業者からの問い合わせを受けた後、コーディネーターが訪問。課題をヒアリングし、専門家を派遣して経営診断する流れだ。専門家派遣は最大12回まで無料で、中小企業診断士や税理士、弁護士など専門家60人が対応する。多摩ビジネスサポートセンターの関俊雄コーディネーターは「地域や企業規模など支援対象の条件に当てはまらなくても何かあればまずは相談してほしい。一緒に経営課題を解決し、事業承継を進めてゆく」と広く呼びかける。
事業譲渡やM&A(合併・買収)など、事業者単独では解決できないM&Aや事業譲渡に関する相談は、経済産業省が設置した東京都多摩地域事業引継ぎ支援センター(東京都立川市、042・595・9510)が受け皿になる。
引継ぎ支援センターは専門家などと連携し、利害関係のない第三者として事業活動の継続に課題や悩みを抱えている中小企業を、ほかに意欲のある企業に引き継ぐ橋渡し役になる。2017年11月の設置から18年6月末までに約60件の相談を受け付け、相談件数も増えている。
専門スタッフによる問題解決に向けた相談対応やアドバイス、民間のマッチングサービスや金融機関と連携する。さらに、全国の引継ぎ支援センターとのネットワークを生かし、全国のデータベースから条件にあった企業情報とのマッチングを図る。各種相談は無料で、外部専門家の派遣や業務の依頼などの場合は費用が発生する。
同様の引継ぎ支援センターは、産業競争力強化法に基づき国が全国47都道府県に設置している。多摩地区では一つの地域で他県と同規模の製造品出荷額や企業数を誇り、都内では東京商工会議所の東京都事業引継ぎ支援センター(同千代田区、03・3283・7555)に続き2カ所目。引継ぎ支援センターの小島清統括責任者は「廃業により取引企業はさまざまな影響を受ける。承継者がいなければ企業のM&A先を一緒になって探す」と寄り添う姿勢だ。
東京都商工会連合会は15年、小規模事業者の経営支援を目的に「多摩・島しょ経営支援拠点」(同立川市、042・540・0130)を設置した。18年4月には、産業サポートスクエア・TAMA(同昭島市)に事務所を新たに開設し、支援拠点の人員を増やした。地域の実情に即した事業承継や事業継続に関する支援施策を強化する。都商工連の小野孝泰企業支援課長は「創業者のほとんどが事業承継は初めての経験。長期的なスパンでの支援が必要」と話す。
東京都商工会連合会が東京・多摩地区に多摩・島しょ経営支援拠点を構え3年目を迎えた。都商工連の伝田純専務理事に、これまでの事業承継の取り組みと支援機関として今後のあり方を聞いた。
―3年目で見えてきた課題は。
「よく例えるのが事業承継は“人生相談”。経営の振り返りから始まり、さまざまな問題が出てくる。業種や規模によっても対応が全く違うし、いろいろなケースが出てくる。だから時間がかかる。3年で200件を超える事業承継の支援に取り組んできた。しかし多摩地区にある企業数から比べれば200件しかできなかったといえる」
―事業承継でどういう役割を果たしましたか。
「成功と同様に、多くの失敗もあった。後継者がおらず廃業を余儀なくされたフィルム写真カメラ店を地域の常連客が引き継いだり、親族から引き継いだ会社で新規事業として始めたサッシの修理施工事業を軌道に乗せ、事業承継を発展的に進めたり、さまざまな事例がある。意外に多いのが後継者の配偶者が事業承継に反対するケース。逆に配偶者の理解を得ることで、事業承継が円滑に進むこともある」
―他の支援機関との連携は。
「親族内承継は都商工連で対応するが、第三者にかかわるM&Aは引継ぎ支援センターと連携する。M&Aを進めてもらう際には1円でも高く売れるようにしてほしいし、引き継いだ企業に事業を大事にしてもらいたい。何十年も地域に根ざして事業を一生懸命営んできた経営者に恩返しが必要。これが支援機関としての思いだ」
―今後、支援をどのように強化しますか。
「事業承継で資金を必要とする企業を助成する制度を18年度中に始める。さらに、地域内の経営者同士の結びつきを強化するコミュニティーづくりを進める。事業承継の課題解決を促進する交流の場を創出していきたい」
(文=松崎裕)
東京都が町田商工会議所に設置した多摩ビジネスサポートセンター(東京都町田市、042・732・3920)は、小規模事業者の事業承継や事業継続、経営課題などを支援する。特に相談業務に力を入れ専門家による無料相談が充実する。第三者を介さない親族内承継や役員・従業員の事業承継の支援を想定する。
支援対象エリアは多摩地区の商工会議所を設置する7市が中心だが、それ以外の地域でも相談に応じる。支援は事業者からの問い合わせを受けた後、コーディネーターが訪問。課題をヒアリングし、専門家を派遣して経営診断する流れだ。専門家派遣は最大12回まで無料で、中小企業診断士や税理士、弁護士など専門家60人が対応する。多摩ビジネスサポートセンターの関俊雄コーディネーターは「地域や企業規模など支援対象の条件に当てはまらなくても何かあればまずは相談してほしい。一緒に経営課題を解決し、事業承継を進めてゆく」と広く呼びかける。
事業譲渡やM&A(合併・買収)など、事業者単独では解決できないM&Aや事業譲渡に関する相談は、経済産業省が設置した東京都多摩地域事業引継ぎ支援センター(東京都立川市、042・595・9510)が受け皿になる。
引継ぎ支援センターは専門家などと連携し、利害関係のない第三者として事業活動の継続に課題や悩みを抱えている中小企業を、ほかに意欲のある企業に引き継ぐ橋渡し役になる。2017年11月の設置から18年6月末までに約60件の相談を受け付け、相談件数も増えている。
専門スタッフによる問題解決に向けた相談対応やアドバイス、民間のマッチングサービスや金融機関と連携する。さらに、全国の引継ぎ支援センターとのネットワークを生かし、全国のデータベースから条件にあった企業情報とのマッチングを図る。各種相談は無料で、外部専門家の派遣や業務の依頼などの場合は費用が発生する。
同様の引継ぎ支援センターは、産業競争力強化法に基づき国が全国47都道府県に設置している。多摩地区では一つの地域で他県と同規模の製造品出荷額や企業数を誇り、都内では東京商工会議所の東京都事業引継ぎ支援センター(同千代田区、03・3283・7555)に続き2カ所目。引継ぎ支援センターの小島清統括責任者は「廃業により取引企業はさまざまな影響を受ける。承継者がいなければ企業のM&A先を一緒になって探す」と寄り添う姿勢だ。
東京都商工会連合会は15年、小規模事業者の経営支援を目的に「多摩・島しょ経営支援拠点」(同立川市、042・540・0130)を設置した。18年4月には、産業サポートスクエア・TAMA(同昭島市)に事務所を新たに開設し、支援拠点の人員を増やした。地域の実情に即した事業承継や事業継続に関する支援施策を強化する。都商工連の小野孝泰企業支援課長は「創業者のほとんどが事業承継は初めての経験。長期的なスパンでの支援が必要」と話す。
東京都商工会連合会専務理事・伝田純氏 配偶者の理解で円滑に
東京都商工会連合会が東京・多摩地区に多摩・島しょ経営支援拠点を構え3年目を迎えた。都商工連の伝田純専務理事に、これまでの事業承継の取り組みと支援機関として今後のあり方を聞いた。
―3年目で見えてきた課題は。
「よく例えるのが事業承継は“人生相談”。経営の振り返りから始まり、さまざまな問題が出てくる。業種や規模によっても対応が全く違うし、いろいろなケースが出てくる。だから時間がかかる。3年で200件を超える事業承継の支援に取り組んできた。しかし多摩地区にある企業数から比べれば200件しかできなかったといえる」
―事業承継でどういう役割を果たしましたか。
「成功と同様に、多くの失敗もあった。後継者がおらず廃業を余儀なくされたフィルム写真カメラ店を地域の常連客が引き継いだり、親族から引き継いだ会社で新規事業として始めたサッシの修理施工事業を軌道に乗せ、事業承継を発展的に進めたり、さまざまな事例がある。意外に多いのが後継者の配偶者が事業承継に反対するケース。逆に配偶者の理解を得ることで、事業承継が円滑に進むこともある」
―他の支援機関との連携は。
「親族内承継は都商工連で対応するが、第三者にかかわるM&Aは引継ぎ支援センターと連携する。M&Aを進めてもらう際には1円でも高く売れるようにしてほしいし、引き継いだ企業に事業を大事にしてもらいたい。何十年も地域に根ざして事業を一生懸命営んできた経営者に恩返しが必要。これが支援機関としての思いだ」
―今後、支援をどのように強化しますか。
「事業承継で資金を必要とする企業を助成する制度を18年度中に始める。さらに、地域内の経営者同士の結びつきを強化するコミュニティーづくりを進める。事業承継の課題解決を促進する交流の場を創出していきたい」
(文=松崎裕)
日刊工業新聞2018年8月27日