ロボット研究に冬の時代!?“AIの付属品扱い”になる懸念広がる
ハードからソフトに研究予算シフト
2019年度はロボット研究者にとって冬の時代になるかもしれない。人工知能(AI)や自動運転などの研究開発事業に予算が流れているためだ。ロボット研究者はAIシステムの付属品としてのロボット開発が研究の主流になってしまうと不安視する。国の予算は中長期の技術開発を担う。官民の役割分担が問われている。
「19年度の予算編成に向けて霞が関との折衝がまったくうまくいっていない」―。6月、ロボット系学会の壇上で東京大学の浅間一教授は危機感をあらわにした。浅間教授は産業競争力懇談会(COCN)などでロボット施策をまとめてきたキーマンだ。
浅間教授は産業界と学術界を束ね、研究開発から社会へのロボット適用まで政策を提案してきた。これは内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)や革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)などの大型事業として結実した。災害対応やインフラ保守などのロボット開発を加速させるため福島ロボットテストフィールド(RTF)が設置された。
だがSIPもImPACTもロボット系のテーマは18年度で終わりロボット研究の旗艦事業の後継が見いだせていない。ImPACTのプログラムマネージャーを務める田所諭東北大学教授は「福島RTFを箱物にしてはいけない」と指摘する。研究が途切れるとRTF利用者を確保できなくなる懸念もある。
原因は大きく二つある。AIやデータなどの情報系に予算がシフトしていることと、自動運転や飛行ロボット(ドローン)の社会実装など狭い領域に実用化予算が集中していることだ。SIPなどの大型事業は社会課題を解決し、同時に新産業を立ち上げる狙いがあった。ただロボットのようなハードウエアへの投資が必要な技術は、社会課題マーケットで育てるのは難しい。ユーザーに購買力がなければ量産効果を受けられない。一方でAIは米国が開発をけん引し、ソフトウエアは無償で流通する。データを整えれば一定の成果が見込め、投資効果が高いと期待される。
日本でロボット革命が提唱された14年当時、米シリコンバレーではスマートフォンのアプリケーション(応用ソフト)などのITベンチャー企業が出尽くし、次はハードとソフトを融合させたロボットベンチャーに投資が集まった。この波に乗り、日本もロボットにかじを切った。
その後シリコンバレーはハードの難しさに直面し、AIに夢中になった。米国の失敗は、日本の国による中長期の支援が正解だったと証明した形だが、日本はいまAIに夢中だ。日本はAIだけでもロボットだけでも勝てない。浅間教授は「10年、20年と技術と人材を育てる必要がある。しつこく継続的な投資が重要だ」と強調する。
ロボットを普及させるためには製造と運用の面で低くないハードルがある。人工知能(AI)などに投資が移りつつある理由の一つだ。また、現場の求める技術と開発する技術に差異があった点も反省材料となる。例えばインフラ点検や高齢者介護などの現場はシンプルな道具を求める。現場の作業者が簡単に使え、安く導入できる技術が好まれる。だがロボット技術者たちは多機能で複雑なものを作りたがる。
ギャップができる理由の一つは短期型のプロジェクト管理だ。研究開発の進捗(しんちょく)が半年など短い間隔で評価され、ロボット技術者たちは目の前の課題を解こうと機能を追加する。例えばあるコンクリート構造体の点検のプロジェクトでは、まず飛行ロボット(ドローン)のカメラでクラック(ひび)を検出する技術を開発し、次に報告書の自動作成、打音検査など求めに応じて機能を増やした。
ロボット技術者には「解いていた問題の前提が後になって変わる」という不満もあった。結局、作業すべてを自動化できず、最終的にシステムが大きくなりコストが膨らんだ。単機能で製品化するなら、システム自体を設計し直す必要がある。
計画的に管理を進めていくと、現場の抱える課題を整理して技術課題に分解し、シンプルな解決策をひねり出すという余裕が減る。東北大学の田所諭教授は「シンプルな解決策は計画的には生まれない。現場で知恵を絞って初めてものになるかどうか」と難しさを説明する。
企業主体のチームは、機能の足し算が散見される。受託開発のビジネスは開発工数が膨らむと売り上げが増えていく。開発は計画通りでも現場の求めるコストに収まるとは限らない。現場がシンプルな解決を求める市場では、計画管理に加えて、スケジュールに遊びを設ける必要がある。
先端建設技術センターの茂木正晴次長は「現場ですべきことは機能の引き算だ」と指摘する。一例として、災害現場で活躍する無人建機がある。建機を遠隔操作すると直接操縦よりも効率が下がる。そこで触覚や力覚などさまざまなインターフェース技術が試された後、4Kディスプレーに絞り込んだ。現場での運用性や操縦者の訓練を考慮すると機能をそぎ落としてでも、コストや習熟に必要な労力を最少化する必要がある。
ただ現場も技術の進化に合わせて変わる必要がある。その役目は各分野の研究所が担う。土木研究所の新田恭士上席研究員は「新技術を踏まえて新しい点検作業や働き方を提案し、移行ステップも示す必要がある」という。ロボットと現場をつなぐ役割を研究所に期待されている。
内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)など、国の大型研究開発事業は社会課題の解決と経済成長の両立という野心的な目標が掲げられている。目標実現のため、災害インフラなどの分野ではロボット技術者と現場課題に精通したユーザーの連携を進めてきた。この方法論が地域課題に広がろうとしている。
「大学の若手が面白いアイデアを出し、ユーザーがたたいて一緒に現場で使える技術に仕上げる。良いエコシステム(協業の生態系)ができている」と長岡技術科学大学の木村哲也准教授は目を細める。内閣府の革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の産学連携を評価する。
例えば、東北大学の多田隈建二郎准教授は万能変形ハンドを開発した。柔らかい袋に粉を詰め、対象物に押しつけて形状を変え対象物をつかむ。この方法は長く研究されてきたが実用化例は少なかった。多田隈准教授は袋を二重構造にしてその隙間に粉を詰めた。この機構により変形の幅が増え、包み込むように物を持つことが可能になった。
多田隈准教授らは実用化に向けて産業界と折衝し改良を重ねた。粉体をコーヒー粉からセラミックス粉に変更し、ハンドを耐刃生地で覆い、災害現場や工場が求める耐久性に仕上げた。土木研究所の油田信一招聘(しょうへい)研究員は「ユーザーの声を聞いて『これは使える』と思わせるところまで作る力がある」と多田隈准教授を評価する。
他にも東北大の昆陽雅司准教授らが開発した飛行型消火ホースは噴射水圧でホースを浮かせて姿勢制御し、前後左右に移動する。モリタホールディングス技術研究所の関修治課長は「消火ホースから手を放すことはあり得なかった。放せばホースが暴れ、人にぶつかり大けがさせる。常識が覆った」という。高層ビルなどの火災に投入し、人が中に入らない遠隔消火を目指す。
大学が機構や材料などの基礎レベルから新しいアイデアを提案し、産業界と現場でモノにする。この産学連携手法が地域の産業振興に広がりつつある。
新潟県長岡市は介護や製造業の活性化に「イノベーション・ハブ」を立ち上げた。長岡介護イノベーション・ハブは介護6事業者やIT5社、大学など、24機関が連携する。
介護ハブの代表を務める長岡技科大の木村准教授は「ユーザー満足度を最優先する」と説明する。大学の研究者であっても技術やシステムの先進性を追わず、現場の困りごとをシンプルに解く。木村准教授は「初めはエクセルなど簡単な手段で始め、成功体験を積んで連携が密になり、エコシステムが育ったらロボットなど高度な技術に挑戦する」という。先に開発資金を用意するのではなく、技術シーズと地域の課題ニーズが共有される環境を先につくる試みだ。国プロで培った連携手法が地域に根付こうとしている。
2019年度の研究開発予算はロボットから人工知能(AI)に流れ、ロボットはAIシステムの付属品扱いになるのではと懸念されている。AI技術の競争は米中が先行し、日本はAIだけでも、ロボットだけでも勝てない状況にある。ロボットとAIの高度な融合が求められる。
「いまAIに乗らない選択肢はない。あらゆる分野でAIは活用できる。連携は必須だ」(文部科学省)―。材料開発や生命科学、防災など、科学技術施策の多くがAIやデータ活用を念頭に設計されている。AI技術の応用で他省庁との連携も広がり、重要度が増して施策の優先順位が上がる。
ロボット技術とAI技術を組み合わせた成功例は多い。例えば、東京大学の石川正俊教授と中日本高速道路は、時速100キロメートルで走る車両から高速ビジョン技術でトンネル壁面をすべて撮影し、その画像をAI技術で処理して幅0・2ミリメートルのクラック(ひび)の網羅的な検出に成功した。
レーザー打音と高速ビジョンを組み合わせると、画像からコンクリートの表面状態、打音から内部状態を表すデータを得られる。そのデータはAI技術で特徴ごとに分類できる。インフラの専門家がデータを評価すればコンクリート構造物の新しい劣化メカニズムが明らかになると期待される。
石川教授は、「劣化原理のすべてが解明されない以上、データを押さえてから絞り込むアプローチが(インフラの維持に)有効」と説明する。
接客などコミュニケーションロボットの分野も有望だ。ビッグデータ(大量データ)やAIの研究者は、購買履歴や生活行動などの膨大なデータから次の消費行動を予測する。ロボットは、いま何が必要か、何に困っているか直接消費者に聞けるため、ピンポイントで付加価値の高いデータを集められる。
また、対話ロボット「ERICA(エリカ)」を開発した大阪大学の石黒浩教授は「ロボットとの対話データは、そのまま優良なデータベースになる」と説明する。人間の心理や行動は極めて複雑で、データを集めると際限がない。ロボットなら会話を通じ人間の行動や状況を把握し、AIで解析しやすいデータを集められる。
人は何かを決める際、信頼関係のある人に助言で背中を押してもらいたいことがある。信頼を得るにはキャラクターや実体がある方が良い。推薦や対話で人の意識や行動を変えるにはロボットが不可欠と考えられる。
石黒教授は、データとAIだけでは「プライバシー軽視の海外に日本が対抗することは難しい」と指摘する。トンネル点検のようなロボット技術での網羅的なデータ収集や、コミュニケーションロボットで付加価値の高い人のデータを集めるなど、AIとロボットを組み合わせる日本の得意な土俵に引き込む必要がある。
(文=小寺貴之)
「19年度の予算編成に向けて霞が関との折衝がまったくうまくいっていない」―。6月、ロボット系学会の壇上で東京大学の浅間一教授は危機感をあらわにした。浅間教授は産業競争力懇談会(COCN)などでロボット施策をまとめてきたキーマンだ。
浅間教授は産業界と学術界を束ね、研究開発から社会へのロボット適用まで政策を提案してきた。これは内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)や革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)などの大型事業として結実した。災害対応やインフラ保守などのロボット開発を加速させるため福島ロボットテストフィールド(RTF)が設置された。
だがSIPもImPACTもロボット系のテーマは18年度で終わりロボット研究の旗艦事業の後継が見いだせていない。ImPACTのプログラムマネージャーを務める田所諭東北大学教授は「福島RTFを箱物にしてはいけない」と指摘する。研究が途切れるとRTF利用者を確保できなくなる懸念もある。
原因は大きく二つある。AIやデータなどの情報系に予算がシフトしていることと、自動運転や飛行ロボット(ドローン)の社会実装など狭い領域に実用化予算が集中していることだ。SIPなどの大型事業は社会課題を解決し、同時に新産業を立ち上げる狙いがあった。ただロボットのようなハードウエアへの投資が必要な技術は、社会課題マーケットで育てるのは難しい。ユーザーに購買力がなければ量産効果を受けられない。一方でAIは米国が開発をけん引し、ソフトウエアは無償で流通する。データを整えれば一定の成果が見込め、投資効果が高いと期待される。
日本でロボット革命が提唱された14年当時、米シリコンバレーではスマートフォンのアプリケーション(応用ソフト)などのITベンチャー企業が出尽くし、次はハードとソフトを融合させたロボットベンチャーに投資が集まった。この波に乗り、日本もロボットにかじを切った。
その後シリコンバレーはハードの難しさに直面し、AIに夢中になった。米国の失敗は、日本の国による中長期の支援が正解だったと証明した形だが、日本はいまAIに夢中だ。日本はAIだけでもロボットだけでも勝てない。浅間教授は「10年、20年と技術と人材を育てる必要がある。しつこく継続的な投資が重要だ」と強調する。
現場課題解決と技術開発
ロボットを普及させるためには製造と運用の面で低くないハードルがある。人工知能(AI)などに投資が移りつつある理由の一つだ。また、現場の求める技術と開発する技術に差異があった点も反省材料となる。例えばインフラ点検や高齢者介護などの現場はシンプルな道具を求める。現場の作業者が簡単に使え、安く導入できる技術が好まれる。だがロボット技術者たちは多機能で複雑なものを作りたがる。
ギャップができる理由の一つは短期型のプロジェクト管理だ。研究開発の進捗(しんちょく)が半年など短い間隔で評価され、ロボット技術者たちは目の前の課題を解こうと機能を追加する。例えばあるコンクリート構造体の点検のプロジェクトでは、まず飛行ロボット(ドローン)のカメラでクラック(ひび)を検出する技術を開発し、次に報告書の自動作成、打音検査など求めに応じて機能を増やした。
ロボット技術者には「解いていた問題の前提が後になって変わる」という不満もあった。結局、作業すべてを自動化できず、最終的にシステムが大きくなりコストが膨らんだ。単機能で製品化するなら、システム自体を設計し直す必要がある。
計画的に管理を進めていくと、現場の抱える課題を整理して技術課題に分解し、シンプルな解決策をひねり出すという余裕が減る。東北大学の田所諭教授は「シンプルな解決策は計画的には生まれない。現場で知恵を絞って初めてものになるかどうか」と難しさを説明する。
企業主体のチームは、機能の足し算が散見される。受託開発のビジネスは開発工数が膨らむと売り上げが増えていく。開発は計画通りでも現場の求めるコストに収まるとは限らない。現場がシンプルな解決を求める市場では、計画管理に加えて、スケジュールに遊びを設ける必要がある。
先端建設技術センターの茂木正晴次長は「現場ですべきことは機能の引き算だ」と指摘する。一例として、災害現場で活躍する無人建機がある。建機を遠隔操作すると直接操縦よりも効率が下がる。そこで触覚や力覚などさまざまなインターフェース技術が試された後、4Kディスプレーに絞り込んだ。現場での運用性や操縦者の訓練を考慮すると機能をそぎ落としてでも、コストや習熟に必要な労力を最少化する必要がある。
ただ現場も技術の進化に合わせて変わる必要がある。その役目は各分野の研究所が担う。土木研究所の新田恭士上席研究員は「新技術を踏まえて新しい点検作業や働き方を提案し、移行ステップも示す必要がある」という。ロボットと現場をつなぐ役割を研究所に期待されている。
地域課題解決へエコシステム形成
内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)など、国の大型研究開発事業は社会課題の解決と経済成長の両立という野心的な目標が掲げられている。目標実現のため、災害インフラなどの分野ではロボット技術者と現場課題に精通したユーザーの連携を進めてきた。この方法論が地域課題に広がろうとしている。
「大学の若手が面白いアイデアを出し、ユーザーがたたいて一緒に現場で使える技術に仕上げる。良いエコシステム(協業の生態系)ができている」と長岡技術科学大学の木村哲也准教授は目を細める。内閣府の革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の産学連携を評価する。
例えば、東北大学の多田隈建二郎准教授は万能変形ハンドを開発した。柔らかい袋に粉を詰め、対象物に押しつけて形状を変え対象物をつかむ。この方法は長く研究されてきたが実用化例は少なかった。多田隈准教授は袋を二重構造にしてその隙間に粉を詰めた。この機構により変形の幅が増え、包み込むように物を持つことが可能になった。
多田隈准教授らは実用化に向けて産業界と折衝し改良を重ねた。粉体をコーヒー粉からセラミックス粉に変更し、ハンドを耐刃生地で覆い、災害現場や工場が求める耐久性に仕上げた。土木研究所の油田信一招聘(しょうへい)研究員は「ユーザーの声を聞いて『これは使える』と思わせるところまで作る力がある」と多田隈准教授を評価する。
他にも東北大の昆陽雅司准教授らが開発した飛行型消火ホースは噴射水圧でホースを浮かせて姿勢制御し、前後左右に移動する。モリタホールディングス技術研究所の関修治課長は「消火ホースから手を放すことはあり得なかった。放せばホースが暴れ、人にぶつかり大けがさせる。常識が覆った」という。高層ビルなどの火災に投入し、人が中に入らない遠隔消火を目指す。
大学が機構や材料などの基礎レベルから新しいアイデアを提案し、産業界と現場でモノにする。この産学連携手法が地域の産業振興に広がりつつある。
新潟県長岡市は介護や製造業の活性化に「イノベーション・ハブ」を立ち上げた。長岡介護イノベーション・ハブは介護6事業者やIT5社、大学など、24機関が連携する。
介護ハブの代表を務める長岡技科大の木村准教授は「ユーザー満足度を最優先する」と説明する。大学の研究者であっても技術やシステムの先進性を追わず、現場の困りごとをシンプルに解く。木村准教授は「初めはエクセルなど簡単な手段で始め、成功体験を積んで連携が密になり、エコシステムが育ったらロボットなど高度な技術に挑戦する」という。先に開発資金を用意するのではなく、技術シーズと地域の課題ニーズが共有される環境を先につくる試みだ。国プロで培った連携手法が地域に根付こうとしている。
求められるロボとAI融合
2019年度の研究開発予算はロボットから人工知能(AI)に流れ、ロボットはAIシステムの付属品扱いになるのではと懸念されている。AI技術の競争は米中が先行し、日本はAIだけでも、ロボットだけでも勝てない状況にある。ロボットとAIの高度な融合が求められる。
「いまAIに乗らない選択肢はない。あらゆる分野でAIは活用できる。連携は必須だ」(文部科学省)―。材料開発や生命科学、防災など、科学技術施策の多くがAIやデータ活用を念頭に設計されている。AI技術の応用で他省庁との連携も広がり、重要度が増して施策の優先順位が上がる。
ロボット技術とAI技術を組み合わせた成功例は多い。例えば、東京大学の石川正俊教授と中日本高速道路は、時速100キロメートルで走る車両から高速ビジョン技術でトンネル壁面をすべて撮影し、その画像をAI技術で処理して幅0・2ミリメートルのクラック(ひび)の網羅的な検出に成功した。
レーザー打音と高速ビジョンを組み合わせると、画像からコンクリートの表面状態、打音から内部状態を表すデータを得られる。そのデータはAI技術で特徴ごとに分類できる。インフラの専門家がデータを評価すればコンクリート構造物の新しい劣化メカニズムが明らかになると期待される。
石川教授は、「劣化原理のすべてが解明されない以上、データを押さえてから絞り込むアプローチが(インフラの維持に)有効」と説明する。
接客などコミュニケーションロボットの分野も有望だ。ビッグデータ(大量データ)やAIの研究者は、購買履歴や生活行動などの膨大なデータから次の消費行動を予測する。ロボットは、いま何が必要か、何に困っているか直接消費者に聞けるため、ピンポイントで付加価値の高いデータを集められる。
また、対話ロボット「ERICA(エリカ)」を開発した大阪大学の石黒浩教授は「ロボットとの対話データは、そのまま優良なデータベースになる」と説明する。人間の心理や行動は極めて複雑で、データを集めると際限がない。ロボットなら会話を通じ人間の行動や状況を把握し、AIで解析しやすいデータを集められる。
人は何かを決める際、信頼関係のある人に助言で背中を押してもらいたいことがある。信頼を得るにはキャラクターや実体がある方が良い。推薦や対話で人の意識や行動を変えるにはロボットが不可欠と考えられる。
石黒教授は、データとAIだけでは「プライバシー軽視の海外に日本が対抗することは難しい」と指摘する。トンネル点検のようなロボット技術での網羅的なデータ収集や、コミュニケーションロボットで付加価値の高い人のデータを集めるなど、AIとロボットを組み合わせる日本の得意な土俵に引き込む必要がある。
(文=小寺貴之)
日刊工業新聞2018年8月8、10、22、24日