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ロボに脳は必要か?無意識歩行の謎に迫る

工学と生物学の両面で研究進む
ロボに脳は必要か?無意識歩行の謎に迫る

東北大のチーター走行ロボ

 人間や犬、猫、昆虫といった生き物はなぜ自在に歩き、走れるのか―。こんな疑問に応えるため、ロボット工学と生物学の両面から研究が進んでいる。生物の多くは歩く際に一歩一歩を意識しない。無意識で滑らかに脚を動かす。一方、ロボットは一歩一歩プログラムを書く必要があった。プログラムを単純化してロボットの身体に分散的に配置すれば、無意識歩行の正体に迫れるかもしれない。

 「脳のように集中制御すべきか、シンプルな制御則で自律分散処理すべきか答えはまだない」と東北大学の石黒章夫教授は説明する。石黒教授らは4脚ロボットと分散処理で歩みの謎に迫ろうとしている。ロボットの脚にシンプルなプログラムを埋め込み連動させ、ウォーク、トロット、キャンター、ギャロップと移動速度に応じた足運びを自然に生むことに成功した。歩行から走行まで対応し、石黒教授は「4脚動物のほとんどの足運びを再現した世界初のモデル」と胸を張る。

 加えてチーターのように脚と胴体を連動させる制御則を開発した。脚に連動して胴体を曲げ伸ばしし3割ほど速度を高めた。「将来は障害物や不整地の走破に脚と胴体との連動が必要」という。

 4脚ロボは各脚の自律分散処理で足運びを実現する。動物の脳のように集中制御をしなくても十分かもしれない。対して昆虫は頭と胸、腹部の神経節が制御する。歩行や飛行は胸部神経節が担当し運動パターンを作る。

 そこで北海道大学の浪花啓右学術研究員はコオロギの頭を切除して足運びを解析した。コオロギは頭がなくても歩き回って跳びはね、糞をする。ただ頭がないと足運びのパターンは不安定になった。浪花研究員は「足運びのパターンに脳が関係している可能性がある」と指摘する。生き物は集中制御と分散処理の両方の組み合わせで動いていそうだ。

 ただ、排せつ直前に少し後ろに下がって踏ん張り、排せつ後に前に進むという一連の動きは、頭部の有無にかかわらず一定だった。歩行よりも複雑そうな排せつには頭部からの制御は要らなかった。謎は深まる。

 浪花研究員は「生き物のどこに知能があるか、生物学とロボット工学の双方から探る必要がある」という。今後、断頭コオロギの動きは数式化され、プログラムとして多脚ロボに搭載される。ロボットで走行性能を検証し、必要最小限の制御則を求めたい考えだ。生き物の無意識歩行から自在に不整地を走破するロボットが誕生するかもしれない。
(文=小寺貴之)
日刊工業新聞2018年7月18日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
ロボットがどうこうよりも、コオロギは頭がなくても排泄することが驚きでした。いまは頭部を切除しているので、損傷電位の影響があります。今後、精密に神経を遮断すると各神経節からの司令を精密に測れるようになります。また神経遮断に加えて、神経信号を入力できれば、神経信号と動きの制御則を深層学習で求められるかもしれません。個人的には飛翔で同じ研究が進めばなと思います。昆虫のサイボーグ化はSFの定番なので、社会へのインパクトは大きいと思います。

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