青年技能者たちの五輪、日本の印刷会社が“お家芸”で王座奪還を狙う

 日本の印刷各社が、王座奪還に向けて動きだした。舞台は2019年にロシア・カザンで開かれる技能五輪国際大会だ。過去6大会のうち、日本は印刷職種で金メダルを2度獲得しているが、11年以降はメダルから遠ざかっている。日本の印刷物は世界的に見ても高品質と評されており、印刷はお家芸と言っても過言ではない。印刷各社は選手の育成に力を注ぐ。一方、企業の負担や競技人材の確保など課題もある。

 印刷職種は、版を使って印刷する「オフセット印刷」や版を使わない「デジタル印刷」をはじめ、指定された色を作る「調色」や印刷物の断裁、印刷機のメンテナンスなど幅広い課題が与えられる。07年の静岡大会で正式競技種目になって以降、日本は毎回参加している。

 一般的に技能五輪国際大会に出場する日本代表選手は、同大会の前年に開催される技能五輪全国大会の優勝者が選出される。

 だが印刷職種は同全国大会で競技が実施されないため、日本印刷産業連合会(日印産連、東京都中央区)が開く選考会で選手を選抜している。選手は国内の複数の印刷メーカーが持つ印刷機を借り、初めて触れる印刷機でも扱えるように練習を重ねる。

 18年からは、印刷機械や印刷関連機器の製造販売を手がける、小森コーポレーションの協力を得て選手を育成する。同社が運営する印刷の教育機関から講師を招き、印刷の原理などを選手にレクチャーする。

 国内の印刷機メーカーが、印刷職種の選手育成に協力するのは初めてだという。

 選手の活躍は、人材獲得や企業のPRにもつながっている。17年のアラブ首長国連邦(UAE)・アブダビ大会で4位となり、敢闘賞を受賞した亜細亜印刷(長野市)の早瀬真夏さんは、高校の先輩が11年の英・ロンドン大会で金メダルを獲得したと知り、同社を志望した。同社の大塚成二取締役工場長は「(全国的に)採用が簡単ではない中で、技能五輪をきっかけに学生が応募してくれるのはうれしい」と笑顔で語る。凸版印刷には「金メダルを取った選手に印刷をお願いしたい」といった発注が過去にあったという。

選手確保・情報収集課題


 ただし課題もある。技能五輪全国大会では90人以上が参加する職種もある中、日印産連が18年に開いた国内予選の参加者数はわずか8人だった。ピーク時には17人の応募があったというが、近年は減少傾向にある。日印産連の技術推進部の篠原英雄部長は「参加社が増えなければ、一部の(企業の)活動になってしまう」と危機感を募らせる。背景には、選手に選ばれると職場を離れることになるため、中小企業にとっての負担が小さくないとの懸念があると考えられる。一方で、印刷職種に出場する海外の選手は、職業訓練校などの学生が多いという。

 国際大会で日本が戦う上での課題はまだある。出場国は選手のほかに、印刷の専門知識を持つ「エキスパート」と呼ばれる審査委員を1人輩出する。国際大会ではエキスパートのうち“常連”のメンバーが中心となり、競技内容や配点などの決定権を持つ。海外には特定の学校の先生が毎年、エキスパートになる国もあるという。日本は出場する選手の所属企業からエキスパートを輩出しているため、固定できていない。そのため、競技に関する情報を獲得しづらいと指摘する声もある。仮に日本でエキスパートを特定の企業に任せた場合、大会期間中の補填をする必要が出てくる。日印産連がエキスパートを雇うことも予算の関係で難しいことから、今後の課題となっている。

 課題はあるものの、カザン大会に向けた戦いは始まっている。18年の選考会には凸版印刷や亜細亜印刷のほか、日経印刷(東京都千代田区)、瀬味証券印刷(同)、西川コミュニケーションズ(名古屋市東区)、丸信(福岡県久留米市)といった全国の企業が参加している。

 凸版印刷は、埼玉県川口市にある工場内に設けた面積578・8平方メートルのトレーニングセンターで選手の育成に励む。同社技術企画部の小沢英二部長は、技能五輪に出場した社員について「仕事に取り組む意気込みが違う。部下にも慕われている」と評価する。亜細亜印刷の早瀬さんも、技能五輪を通して「精神的に強くなった。印刷の原理を知ることで、より良い印刷物を短時間で作れるようにもなった」と手応えを語る。

日刊工業新聞2018年8月20日

日刊工業新聞 記者

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08月20日
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日本の印刷市場は縮小しているが、受け継がれた技能や経験を生かした選手の活躍に期待したい。
(日刊工業新聞社・福沢尚季)

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