F1の名門マクラーレンを支える日本企業のネットワーク技術

「ビジネスを分かりやすく説明できる実証の場でもある」

 自動車レースの最高峰、フォーミュラ・ワン(F1)の名門チームである英国のマクラーレン。2017年をもってホンダとの提携を解消したが、日本企業との関係は続いている。その一つがリアウイング側面に社名ロゴがあるNTTコミュニケーションズ(NTTコム)だ。テクノロジーパートナーとして、サーキットからマクラーレンの英国本社へ瞬時に届く膨大なレースデータの通信網を担っている。

 2月にスペイン・バルセロナのカタルーニャ・サーキットで行われたシーズン前テスト。現地のインターネット回線が切断され、他チームのネット通信が不通となる中、マクラーレンの通信網は稼働を続けていた。膨大なレースデータに優先度を付けて選別し、異なる通信網で送受信することで安定した高速通信を実現できるNTTコムのSDX技術を導入したからだ。

 現在のF1マシンはエンジンの回転数、ブレーキ圧、燃料の残量、タイヤの空気圧、車載カメラの映像などを送信する約300個のセンサーを搭載しており、1レース当たりのデータ量は数百ギガバイト(ギガは10億)に達する。

 各チームは、この膨大なデータを瞬時にピットや本社の技術者と共有して今後のレース展開をシミュレーションし、最適な戦略を導き出している。だが、各チームのデータ送受信量が年々増え続け、サーキット周辺のネットワーク帯域が圧迫されて遅延などの障害が出るようになった。

 マクラーレンでも17年シーズン前のバルセロナテスト走行でガレージのスクリーン映像に乱れが生じていた。この現象をNTTコムの技術者が発見し、17年10月の日本GPでSDX技術のテスト導入を提案。高精度なデータ送受信に成功したことにより、マクラーレンは18年シーズンの全21戦でSDX技術の導入を決めた。

 SDX技術ではF1レースが行われている世界中のサーキットとマクラーレンの英国本社をSD―WANを活用したネットワークで接続している。SD―WANは、既存のVPN(仮想私設網)とインターネット回線などの補完回線を柔軟に組み合わせて、優先順位に応じた効率的なデータ伝送を行う。

 これまでVPN回線経由で接続していたピットガレージのネット回線やパドックのゲスト用Wi―Fi(ワイファイ)回線を補完回線経由に変更することで、重要なデータをVPN回線で優先的に送信できるようになる。4K、8Kなどの高精細な大容量データも補完回線に振り分けることでVPN回線の逼迫(ひっぱく)を防ぎ、重要データを安定的に伝送可能にした。

 独自のコントローラーで各種設定を一元管理し、ネットワーク環境の構築・撤去も簡略化できる。18年シーズン当初の3戦はNTTコムの担当者が現場に同行していたが、4戦目のアゼルバイジャンGPからはマクラーレンの担当者に構築・撤去を一任できるようになった。

 マクラーレンとのプロジェクトを推進したNTTコムの宮川晋IoT推進室長は「F1はショーとして見るだけではない。当社のビジネスを分かりやすく説明できる実証の場でもある」と話す。

 例えば金融機関に対し、F1レースの重要なデータをリアルタイムで動く各国の金融データに置き換えて説明すればSD―WANの性能の高さを分かりやすく説明できる。マクラーレンという国際的に知名度の高いF1チームのパートナーになったことで「欧米企業からの認知度も高まった」(宮川室長)という。

日刊工業新聞2018年8月15日

日刊工業新聞 記者

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08月15日
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今年の目標は「全21戦でシステム障害を起こすことなく、迅速かつ安定的にレースデータの伝送を実現すること」と宮川室長。10月7日に鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)で開かれる日本GPでもマクラーレンの通信網を支えるNTTコムの勇姿が見られそうだ。
(日刊工業新聞社・水嶋真人)

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