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東京五輪の「顔認証」、ゲート数は数百カ所に

NEC製のシステムが採用される
東京五輪の「顔認証」、ゲート数は数百カ所に

顔認証による本人確認のデモ(NEC所属の女子バレーボール島村春世選手)

 東京五輪・パラリンピック競技大会組織委員会とNECは7日、都内で会見し、「東京2020大会」に参加する各国の選手やスタッフ、ボランティアら約30万人の会場入場時の本人確認に、NECの顔認証システムの採用が決まったと発表した。同日の会見で東京五輪・パラリンピック競技大会組織委員会の岩下剛警備局長は「大会関係者は重要エリアに立ち入ったり、何度もゲートを行き来したりする。このため高いセキュリティーと負担のないスムーズな運用が必要であり、顔認証の採用を決めた」と語った。

 五輪・パラリンピックで大会関係者の入場に顔認証技術を活用するのは史上初。具体的にはICチップを搭載したIDカードと、事前に撮影・登録した顔画像をシステム上でひも付けし、大会会場の関係者エリアの入場ゲートに設置した顔認証装置を用いて、顔とIDカードで本人確認を行う。

 設置する場所は43の競技場や三つの選手村、報道センター、宿泊施設など。「ゲート数は数百カ所となる」(岩下氏)。顔認証を用いることで、IDカードの貸し借りや盗難によるなりすまし入場、IDカード偽装による不正入場を防止する。さらに入場ゲートでの人手による本人確認作業の負荷を軽減し、混雑発生を防ぐ。

 NECの顔認証システムは米国立標準技術研究所(NIST)の顔認証技術ベンチマークテストで、4回連続で第1位の評価を獲得するなど世界ナンバーワンの精度を持つ。照合速度も速く、0・3秒で160万件のデータベース(DB)の検索が可能という。

おもてなし最先端技術


 東京五輪・パラリンピックの開幕まで2年を切った。競技会場の建設が急ピッチで進む中、世界的なイベントに向けて日本の最先端技術を披露しようと、水素インフラやロボットなど官民挙げた取り組みが進む。技術のアピールだけでなく、2020年以降を見据えた普及のための経験値を蓄積していく狙いもある。

水素インフラ 世界を魅了する機会


 東京五輪が開催される20年をめどに、福島県浪江町で世界最大規模の水素製造を始めるプロジェクトが進む。東芝や東北電力、岩谷産業、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が太陽光パネルで作った電気で水素製造装置を稼働させ、燃料電池車(FCV)1万台分の燃料に相当する年900トンの水素を製造する。

 “福島産水素”は都内に運び、五輪会期中にFCVで使う。世耕弘成経済産業相は6月、福島県の内堀雅雄知事と会談し、「五輪は復興をアピールする象徴的な出来事であり、しっかり取り組む」と伝えた。

 東京都は水素社会を五輪後のレガシー(遺産)にする。東京・晴海の選手村には家庭用燃料電池を配備する。水素を製造、貯蔵する水素ステーションも整備し、地下のパイプラインを通して住宅や商業施設に設置した燃料電池にも水素を届ける。実現を目指す都は2月、東京ガスや東芝、パナソニック、JXTGエネルギーなどと基本協定を締結した。

 トヨタ自動車も五輪を契機とした水素社会の到来を予測し、東京都を中心に燃料電池バス100台以上の供給を見込む。ドイツで再生可能エネルギーから水素を作る実証が30カ所で始まるなど、海外でも水素エネルギー普及の実証事業が活発になった。20年は日本が水素社会の先頭を走る姿を世界に見せる絶好の機会だ。
トヨタは燃料電池バス100台以上の供給を見込む

5G 超高速通信で臨場感


 五輪の観戦では携帯電話各社の新サービスに期待が集まる。

 各社は20年秋の商用化を予定する第5世代通信(5G)を用いた新たなスポーツ視聴イベントを相次いで開いている。5Gは現状の約100倍の超高速通信が可能で、通信の遅れも1ミリ秒以下。5Gを介し、ほぼ遅延のない音声や高精細映像を伝送することで、まるで試合会場にいるかのような視聴ができる。

 NTTドコモは14日、都内の特設会場で行ったフットサルの試合を5Gで渋谷ヒカリエ(東京都渋谷区)のパブリックビューイング会場に即時に伝送するイベントを開いた。超高精細映像の4Kカメラ4台で撮影した大容量映像を5Gでヒカリエに伝送。この映像を合成し、幅20メートルのワイドスクリーンに映し出した。

 KDDIはプロ野球の公式戦で自由視点映像の即時配信に成功した。20年までに試合の重要な場面などの映像を観客がモバイル端末により、視点を自由に変えながら楽しめるようにするサービスの提供を目指す。ソフトバンクもVR(仮想現実)を活用したプロ野球のライブストリーミング配信の実証実験を行っている。
別会場のフットサルの試合を5Gでワイドスクリーンに投影(NTTドコモ提供)

ロボット 警備など人手不足補う


 日本が得意とするロボットでは、清掃や警備、受け付け業務などの導入実証が進む。外国人観光客の人気を呼びそうだ。

 清掃ロボでは、三菱地所は東京の丸の内エリア、三井不動産は東京ミッドタウン日比谷やダイバーシティ東京プラザで導入。メーカーはソフトバンクロボティクスやサイバーダイン、パナソニックなど多数参加する。清掃場所の特性や立地などに応じて複数のロボを使って検証し、先端イメージを発信すると同時に、人手不足が懸念されるビル清掃業務での先行事例としてノウハウを蓄積する。

 警備ロボは綜合警備保障(ALSOK)が開発した「リボーグX」が、東京駅前の新丸ビル地下1階で稼働中。警備業務も人手不足が深刻で、ロボに寄せる期待は大きい。警備業務は他に飛行ロボット(ドローン)の撮影映像を活用する方法もあり、センシンロボティクス(東京都渋谷区)やミツイワ(同)などが、商品開発を急ぐ。

 一方、受け付けロボは“変なホテル”の店名を持つHISホテルホールディングス(東京都新宿区)が、東京・浅草橋や赤坂に開業したホテルで人型の受け付けロボを採用している。多言語対応も可能で、外国人観光客をおもてなしする。
ビル内を巡回する警備ロボット。人手不足解消の切り札になるか?(ALSOK提供)

顔認証 サービスと安全両立


 顔認証技術はおもてなしの向上と、安心・安全を両立させる先進技術として期待が高い。空港や競技場などの公共施設や大規模な店舗、イベントなど幅広い利用を見込む。顔認証は日の当たり方や顔の向きなどの影響を受けやすく、生体認証の中でも「実用化が難しい」とされてきた。だが人工知能(AI)活用により、技術革新が進み、今や動いている被写体の顔を「99・2%の照合精度で即時に認証できる」(NEC)という。

 例えば競技会場に入場の際にカメラの前で立ち止まることなく、歩きながらの認証も可能。街角にカメラが設置されていれば迷子をすぐに見つけ出すこともできる。目尻や瞳などの特徴点から視線を特定して、不審な行動の人物を把握したり、複数人の視線を同時検知して特定の人物を即時に検知したりできる。
顔認証で人物をリアルタイムに測定できる(NEC提供)

同時通訳 空港や駅での活躍期待


 五輪期間中の外国人観光客へのおもてなしには翻訳機が活躍しそうだ。例えばパナソニックのメガホン型翻訳機「メガホンヤク」は、成田空港や東京メトロのほか、展示場や警備会社に導入されている。英語や中国語、韓国語への翻訳が可能。「電車が遅れています」といった、公共場所でよく使う標準の定型文が事前登録されている。

 クラウドコンピューティング上で翻訳するシステムとは違い、独自の翻訳技術を用い、端末内で高精度に音声翻訳処理できる。登録外の文は翻訳はできないものの、災害時などインターネットに接続できない時にも使えるのはメリット。

 メガホンヤクでは、無線LAN経由で、翻訳ソフトウエアが更新される。16年末の発売時点での標準定型文約300文が、更新で今は約400文に増えた。
パナソニックのメガホン型翻訳機。英語や中国語、韓国語への翻訳が可能
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
菅沼正明NEC執行役員は「顔とIDカードをかざせば即座に本人認証できるなど、選手や大会運営側の負担を軽減できる。アスリートの生み出す感動を損なわないように、大会をしっかりと守りたい」と話す。 (日刊工業新聞・斎藤実)

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