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宇宙飛行士・土井隆雄さんが語る「月に人間の社会を作りたい」の意味

宇宙人材を大学で生み出す活動の推進も
宇宙飛行士・土井隆雄さんが語る「月に人間の社会を作りたい」の意味

京都大学宇宙総合学研究ユニット特定教授・土井隆雄さん

 ―宇宙飛行士になったきっかけは。

 「中学生の時にアポロ11号の月面着陸を見て感動したことを覚えている。高校生の時には地球への火星の大接近があり自分で観測した。こうした経験から宇宙に関する仕事をしたいと考えていた。大学院で博士号を取得した時に宇宙飛行士の募集を見て応募した」

 ―宇宙での思い出は何でしょう。

 「スペースシャトルで宇宙に行き地球を見たとき、青い地球とそれを取り巻く黒い宇宙の背景を見て感動した。また太陽観測衛星『スパルタン』を船外活動において手づかみで回収したことは今でも忘れない」

 ―今は京都大学で宇宙に関する教育プログラムを進めています。

 「宇宙に関する講義や演習、実習などを実施している。その中で国際宇宙ステーション(ISS)での生活を模擬した5泊6日の実習がある。3人一組となり、天体観測など多くの作業を分刻みでこなし、食事は学生が自分で作る。私は宇宙にいた時、宇宙での出来事をノートに記していた。学生にも実習を通じた気付きをノートに書いてもらう。こうした授業は国内外で京大だけしかないだろう」

 ―宇宙教育に携わるきっかけは何ですか。

 「まだまだ宇宙に行きたいという気持ちはあったが、宇宙での短期ミッションの予定がだいぶ先まで別の搭乗員で埋まり、自分の出番はなさそうだった。2011年にスペースシャトルが引退。これを機に国際連合宇宙部で、宇宙の科学技術を発展途上国に広める教育・啓発活動に携わるようになった」

 ―日本では宇宙活動を支える人材が不足しています。

 「米国ではロッキード・マーチンやブルー・オリジン、スペースXなど宇宙産業に携わる企業が多く、そこに関わる人材も豊富だ。それに比べ日本は人材が不足している。宇宙人材を大学で生み出す活動を推し進めたい」

 ―今後の宇宙開発の目標は。

 「宇宙飛行士として月に行きたいが、できなかったとしても月に人間の社会を作りたい。約500万年前の地球でチンパンジーとヒトは共通の祖先だった。チンパンジーの祖先は森に残ったが、ヒトの祖先は木から降りて地上で生活を始め、大きく進化した。これは環境の変化が進化を促すことを意味する。月に行くことで人類が新たな進化を遂げるかも知れない」

【略歴】どい・たかお 83年(昭58)東大院博士課程修了。85年米航空宇宙局(NASA)「スペースラブ―J」の搭乗科学技術者に選定。97年スペースシャトル・コロンビア号に搭乗、04年米ライス大院博士課程修了、08年スペースシャトル・エンデバー号搭乗、09年国連宇宙部宇宙応用課長、16年から現職。理学・工学博士。東京都出身、63歳。


日刊工業新聞2018年8月3日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
土井さんは日本人で初めて船外活動を行い、日本の有人宇宙活動の礎を築いた一人だ。その後、教育活動に携わり、今は宇宙人材の育成に力を入れる。国内外で宇宙ビジネスに向けた動きが活発になる中、国内での宇宙人材の不足は深刻だ。宇宙飛行の経験を次世代に伝えることで、日本の宇宙活動の活性化が期待される。 (日刊工業新聞社・冨井哲雄)

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