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【金井宣茂】宇宙と地上の生活に大きな壁はない

ISS疑似体験は娯楽ビジネスにも?
 宇宙航空研究開発機構(JAXA)の金井宣茂さんが国際宇宙ステーション(ISS)での5カ月半の長期滞在を終え、地球に帰還してから2カ月が経過した。ISSでは医師の経験を生かし、生命科学系の実験をはじめ船外活動など多くのミッションをこなした。また2月と5月には、日刊工業新聞に宇宙からリポートを送ってもらった。金井さんに宇宙での体験と今後のビジョンを聞いた。

 ―45日間のリハビリテーションを終えました。体の調子は。
 「宇宙では体を曲げる動作が少なく、地上に戻ってから背骨や腰などが硬くなり、日常生活に苦労した。漫画『ドラゴンボール』で主人公が自分を鍛えるために、地上より大きな重力空間で修行する場面があるが、地上での生活でその場面を体感した」

 「近視でメガネをかけているので『宇宙に行けばよく見えるようになるかも』と期待したが、変化はなくちょっと残念。こうした経験を通じて、宇宙と地上との生活に大きな壁はなく、健康であれば一般の人でも宇宙の旅を楽しめると実感した」

 ―医師として生命科学の実験に思い入れがありますね。
 「アルツハイマー病や糖尿病の原因とされるアミロイド線維の形成実験では、実験がスムーズに進み、すでに第2弾の実験が進行している。多くの実験機会が提供され、実験が素早く進むのが現代の宇宙実験のあり方だと感じた」

 ―今後は宇宙飛行士の宇宙活動を支援する側に回ります。
 「ISS滞在前に宇宙実験の研究責任者を訪問して、研究の内容や意義を聞き取ることで、宇宙での実作業の効率や自分自身のモチベーションが上がった。こうした経験を生かし、今後は宇宙実験の専門家として研究者とのヒアリングを重ね、ISSの宇宙飛行士や管制官をつなぐ役割を担いたい」

 ―宇宙を体験して思いついたアイデアはありますか。
 「今より遠い宇宙に行くには、地上から宇宙機や関連する装置すべてを制御することは難しい。宇宙飛行士の自律的な制御のため、人工知能(AI)が必要になると思う。さらにISSに置いたロボットを地上の人間が自分の分身として遠隔操作し、宇宙飛行士と協業する使い方もできると思った。さらに地上の人々が、ISSを疑似体験するための娯楽としてビジネスにできるのではとも思う」

 ―次の目標は。
 「やはり月。米国が宇宙飛行士を月面に送り込もうとしている。その宇宙飛行士の中に日本人がいるべきだ。そのためには新しいアイデアや技術、ISS運用の経験などの今まで積み上げた強みを生かし、日本の存在感を示すべきだ」
日刊工業新聞2018年7月31日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
金井さんはISSに行く前から、実験責任者へのヒアリングを行うなど綿密な準備でミッションに臨んだ。その姿勢は米航空宇宙局(NASA)にも評価され、船外活動や米補給船の捕獲などを行った。海外から信頼を得ることは国際宇宙探査に向けた日本の立ち位置を押し上げる。日本の宇宙探査の担い手となることに期待したい。(冨井哲雄)

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