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西日本豪雨の水害をスマホで“遠隔査定” 三井住友海上の試験は機能したか

保険金支払い迅速に
西日本豪雨の水害をスマホで“遠隔査定” 三井住友海上の試験は機能したか

モニターを見ながら現地の社員に指示を送る損害査定部門担当者

 西日本を襲った記録的な豪雨は岡山や広島を中心に大きな災害の爪痕を残し、今なお多くの住民が避難生活を強いられている。この大規模災害の中でいち早く対応を急いだのが、生活再建に必要な保険金の支払いを主要業務とする損害保険会社だ。損保各社は災害発生後すぐに、被災地に対応拠点を設置。迅速な保険金の支払いに向けた損害調査や査定を急いでいる。中でも三井住友海上火災保険は大手損保では初めて、広域災害でスマートフォンを使った「遠隔査定」を試験的に実施した。取り組みの評価はこれからだが、効率的な査定方法として機能したのか注目される。

 「浸水時の水位が分かる汚れなどはありますか。何か漂流物がぶつかった跡は見受けられますか」。東京・お茶の水の三井住友海上本社に設けたモニターには岡山県倉敷市で浸水被害を受けた家屋内部の映像が映し出され、同社の損害査定部門担当者が現地の社員にこのように何度も指示を送った。指示を受けた現地の社員はカメラを起動したスマホを床や壁などに向け、砂利や泥汚れが残る家屋内部の映像を送り続けた。

 三井住友海上が実施した遠隔査定は、被災地に入った社員のスマホと被災地から離れた拠点のパソコンを専用システムでつなぎ、査定資料となる被害を受けた家屋や自動車の詳細な映像をリアルタイムで送る取り組みだ。大規模災害時には事故の受け付けが集中するため、専門知識を持つ調査員は不足し、保険金の支払いに必要な損害査定は遅延しがちになる。これまで損害現場を直接訪問していた調査員は拠点に固定し、送られた映像をもとに査定する。時間を要しがちな被災地での移動や現場の段取りを別分野の社員に任すことで、効率的に査定を進める狙いだ。

 今回の水害を受けた家屋の遠隔査定時間は1件当たり1時間程度と、実際に調査員が現場に出向く場合と大差がないことを確認した。従来の移動を伴う家屋の損害査定は調査員1人当たり1日3件程度が限界とされる。取り組みを企画した同社損害サポート業務部の山元大雄部長は「査定時間は大きく変わらなかった。効率的に運用すれば、1日当たり従来の2倍の査定をこなせるのでは」と手応えを話した。

 ただ、移動が制限される大規模災害時に現地の社員をどのように動かし、拠点で待つ調査員が各調査の間隔をなるべく開けず、効率的に映像を視聴できるかなど検討課題は残る。実際にスマホを構えて歩くと足元は不注意になりがちだ。浸水し破損した家屋などに入る社員の安全教育も必要だ。
日刊工業新聞2018年7月31日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
大規模に浸水した岡山県倉敷市真備町地区で遠隔査定を実施したのは23日。この日の倉敷市の最高気温は37度Cを超え、スマホに熱がこもり映像の送信が1分程度途絶えた。この日の暑さは異例だが、激しい降雨や低温などさまざまな気象条件を想定し、機材を強化することも必要な改善策と言えそうだ。 (日刊工業新聞社・小野里裕一)

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