印刷有機EL量産へ、JOLED「勝負の3年、勝負の3事業」
JOLED(東京都千代田区、石橋義社長)が、世界初の印刷式有機ELディスプレーの事業化に向けアクセルを踏み込む。6月に就任した石橋社長は2020年の量産開始を見据え、今を「第2の創業期」と位置付ける。有機EL市場は、韓国のサムスンディスプレイとLGディスプレイの寡占状態。日本発の有機ELビジネスを実現するには、顧客開拓やパートナー戦略など複数の課題を短期間で乗り越える必要がある。
JOLEDはインクジェットの方法で青、赤、緑の有機EL材料を塗り分ける印刷方式の有機ELパネルを手がける。17年には少量生産を開始。今回、20年の量産に向けて親会社の産業革新機構から200億円の出資を受け、旧ジャパンディスプレイ(JDI)能美工場(石川県能美市)を取得した。
さらに1000億円の増資を計画しており、すでにデンソーや豊田通商などから約500億円の出資を受けた。ほかの出資先も最終調整中で、8月中旬をめどに増資を完了するとみられる。石橋社長は「設立から3年半。ここまで順調に立ち上がる経験はない」と、事業化計画の進捗(しんちょく)を自負する。
いよいよ研究開発からビジネスのフェーズに入る印刷有機EL。事業体として独り立ちするには三つの事業の柱を早期に確立しなければならない。
一つ目は主力となるパネル供給だ。20年には生産能力が5・5世代ガラス基板(1300ミリ×1500ミリメートル)換算で月産約2万枚となり、現状の10倍になる。生産するのは10―32型の中型パネルだ。
生産体制の構築と並行して進めるのが、顧客開拓。18―19年のうちに生産体制に見合うパネルの供給先を確保する必要がある。
現在はJDIとも連携しながら進めており、徐々に成果が出始めた。17年にソニーの医療モニター向けに初出荷したのを皮切りに、18年に入り台湾エイスースのモニター、アトモフ(京都市中京区)と共同開発したデジタル窓といった採用例を増やしている。加えて「有機ELの映像特性が生かせるゲーム用モニターにも展開したい」と石橋社長は意気込む。
自動車向けも重要な供給先だ。能美事業所では車載品質に対応可能な生産ラインの構築を準備中。納入先はまだ決定はしていないが関係者からは「すでに(自動車メーカーに設計協力する)デザイン・インが始まっている」との声も聞かれる。
ただし印刷式有機ELパネルは、青色材料の寿命の短さや、液晶に比べて劣化が早いという問題がある。石橋社長は「材料や生産プロセスなど、これまでに積み上げたノウハウを結集し、性能アップを実現する」と強調するが、懸念を払拭(ふっしょく)するだけの完成度にまで短期間で高められるかが重要だ。
コスト面の課題も残る。蒸着式で使われる真空環境や有機EL材料を塗布するための型が不要で、コストを下げられるのが印刷式のメリット。ただ現在ではこれらのメリットがあっても、全体でみると蒸着式よりもコストが高くなってしまう。3―5割とも言われる歩留まりの改善生産効率の向上が急がれる。
二つ目が技術ライセンス供与ビジネスだ。中型パネルの市場規模は小さい。調査会社のディスプレイ・サプライチェーン・コンサルタンツ(DSCC)の田村喜男アジア代表は「テレビなど8・5世代基板(2200ミリ×2500ミリメートル)以上の大型基板へ展開できなければ技術は広がらない」と指摘する。そこでカギとなるのが技術ライセンス供与だ。
すでに8・5世代基板に対応する試作ラインを構築済みで、中国や韓国勢を中心に国内外のパネルメーカーと交渉している。「複数の企業が興味を示している。できるだけ早く進めたい」(石橋社長)。早ければ年内の契約締結を目指す。
三つ目は完成品事業への参入。完成品メーカーやコンテンツメーカーなどと組み、自社のパネルを組み込んだ完成品とサービスを組み合わせて提供することを想定している。単なるサプライヤーではなく、利益創出へとつながる「新たなパネルビジネスのモデルを作りたい」(同)。19年にも具体化を目指す。
(文=政年佐貴恵)
JOLEDはインクジェットの方法で青、赤、緑の有機EL材料を塗り分ける印刷方式の有機ELパネルを手がける。17年には少量生産を開始。今回、20年の量産に向けて親会社の産業革新機構から200億円の出資を受け、旧ジャパンディスプレイ(JDI)能美工場(石川県能美市)を取得した。
さらに1000億円の増資を計画しており、すでにデンソーや豊田通商などから約500億円の出資を受けた。ほかの出資先も最終調整中で、8月中旬をめどに増資を完了するとみられる。石橋社長は「設立から3年半。ここまで順調に立ち上がる経験はない」と、事業化計画の進捗(しんちょく)を自負する。
いよいよ研究開発からビジネスのフェーズに入る印刷有機EL。事業体として独り立ちするには三つの事業の柱を早期に確立しなければならない。
パネル供給先
一つ目は主力となるパネル供給だ。20年には生産能力が5・5世代ガラス基板(1300ミリ×1500ミリメートル)換算で月産約2万枚となり、現状の10倍になる。生産するのは10―32型の中型パネルだ。
生産体制の構築と並行して進めるのが、顧客開拓。18―19年のうちに生産体制に見合うパネルの供給先を確保する必要がある。
現在はJDIとも連携しながら進めており、徐々に成果が出始めた。17年にソニーの医療モニター向けに初出荷したのを皮切りに、18年に入り台湾エイスースのモニター、アトモフ(京都市中京区)と共同開発したデジタル窓といった採用例を増やしている。加えて「有機ELの映像特性が生かせるゲーム用モニターにも展開したい」と石橋社長は意気込む。
自動車向けも重要な供給先だ。能美事業所では車載品質に対応可能な生産ラインの構築を準備中。納入先はまだ決定はしていないが関係者からは「すでに(自動車メーカーに設計協力する)デザイン・インが始まっている」との声も聞かれる。
ただし印刷式有機ELパネルは、青色材料の寿命の短さや、液晶に比べて劣化が早いという問題がある。石橋社長は「材料や生産プロセスなど、これまでに積み上げたノウハウを結集し、性能アップを実現する」と強調するが、懸念を払拭(ふっしょく)するだけの完成度にまで短期間で高められるかが重要だ。
コスト面の課題も残る。蒸着式で使われる真空環境や有機EL材料を塗布するための型が不要で、コストを下げられるのが印刷式のメリット。ただ現在ではこれらのメリットがあっても、全体でみると蒸着式よりもコストが高くなってしまう。3―5割とも言われる歩留まりの改善生産効率の向上が急がれる。
技術ライセンスと完成品
二つ目が技術ライセンス供与ビジネスだ。中型パネルの市場規模は小さい。調査会社のディスプレイ・サプライチェーン・コンサルタンツ(DSCC)の田村喜男アジア代表は「テレビなど8・5世代基板(2200ミリ×2500ミリメートル)以上の大型基板へ展開できなければ技術は広がらない」と指摘する。そこでカギとなるのが技術ライセンス供与だ。
すでに8・5世代基板に対応する試作ラインを構築済みで、中国や韓国勢を中心に国内外のパネルメーカーと交渉している。「複数の企業が興味を示している。できるだけ早く進めたい」(石橋社長)。早ければ年内の契約締結を目指す。
三つ目は完成品事業への参入。完成品メーカーやコンテンツメーカーなどと組み、自社のパネルを組み込んだ完成品とサービスを組み合わせて提供することを想定している。単なるサプライヤーではなく、利益創出へとつながる「新たなパネルビジネスのモデルを作りたい」(同)。19年にも具体化を目指す。
(文=政年佐貴恵)
日刊工業新聞2018年7月25日