今後5-10年はなんとかなる…。スバル社長が抱える「実力不足」の危機感

頼みの米国市場は成長鈍化、完成車検査不正問題で信用も失墜

 SUBARU(スバル)は10日、質的成長をメーンテーマに掲げた2025年度までの中期経営計画を発表した。17年に発覚した完成車検査問題で毀損(きそん)したブランド力向上に向け、品質向上策に5年間で1500億円の投資枠を設けた。世界販売は米国での成長維持を目指すが、25年度に130万台(18年度計画比18・1%増)と控えめ。国内外で生産増強の計画はない。電気自動車(EV)やコネクテッド分野ではトヨタ自動車との協業を積極化する。

 6月に社長に就いた中村知美氏は新中計について「品質向上が最優先。量的成長を超えて質的成長を実現し、ブランド力を磨きたい」と語った。

 18―20年度の合計で売上高は10兆円、営業利益は9500億円を目指す。18年度の見込みは売上高3兆2500億円、営業利益3000億円となっており、収益面では20年度まで低成長を甘んじて受け入れる格好。

 販売は25年に米国で85万台規模(18年度計画は70万7000台)を目指す。米トランプ政権は自動車の関税引き上げを検討しており、「状況を注視する」(中村社長)とした。日本は現在の販売台数レベルを維持する。商品面ではSUV(スポーツ多目的車)とスポーツモデルのラインアップを拡充する。

 インターネットにつながる「コネクテッドカー」については日本、米国、カナダで22年までに8割以上の新車を対応させる。自動運転に関しては24年にハンドル操作や加速・減速をシステムが担う「レベル2」以上の実現を高速道路で目指す。

「急成長に伴う歪みが出た」(中村スバル社長)


 SUBARU(スバル)が10日発表した新中期経営計画は、ブランド力の維持・向上に力点を置く。世界販売100万台規模のスバルが巨大な自動車市場で戦うには、基本性能に加え、ブランド力を強く打ち出すしかない。とはいえ、頼みの綱である米国市場の成長が鈍化しており、事業環境も厳しさを増している。一連の完成検査不正問題で信頼も失墜する中、生き残りをかけた中計が始まった。

 「急成長に伴う歪みが出た。真の実力はまだまだ不足」―。吉永泰之氏から社長のバトンを6月に受け取った中村知美氏。10日の中計発表会では、笑顔を絶やさない朗らかな様子が印象的だったが、発言からは危機感が見え隠れした。

 スバルは急成長を遂げてきた。米国販売の好調を受け、世界販売は17年3月期に初めて100万台を突破した。ところが新中計の発表を目前に控えた6月上旬。完成車の最終検査の過程の中で、新たな不正が発覚した。4度目となる失態に、吉永会長(当時は社長)は苦悶(くもん)の表情を浮かべた。

 スバルがベンチマークにするのは独BMWなど小規模だが、ブランド力で勝負している自動車メーカー。「ブランド力を高め、消費者に付加価値を認めてもらうことでコストを吸収するしか生き残る道はない」(吉永会長)との覚悟があるからだ。

 この日発表した中期経営ビジョンでは「ディファレントな存在」を柱の一つに掲げた。単に車を売ったり買ったりする企業ではなく「価値観が合う、共感する存在になりたい」と中村社長は説明する。米国ではすでに「ディファレントなブランド」(中村社長)として認識されている。この成功体験をもっと広げていく考えだ。また主力車種は原則、毎年フルモデルチェンジして商品の競争力を上げることで、顧客をつかむ。

 ただ今のスバルは、ブランドの土台となる部分が“歪んでいる”状態だ。

 どう歪みを直し「正しい会社」(吉永会長)に生まれ変わるか。新中計で示したのは、その処方箋だ。

 企業風土改革では「社員一人ひとりの考える力の強化」を掲げ、それを支える制度、仕組みづくり、組織の変革に取り組む。企業風土改革を「最重要課題」(中村社長)に掲げ、品質向上では5年間で1500億円の投資枠を用意。工場のレベルアップ、品質管理強化、顧客サービス基盤の整備などを進めていく。

 ブランド力向上をめぐっては販売店、顧客、地域社会が一体となった活動を展開するほか、インターネットを使って外部企業と協業し新たな顧客価値創造を目指す。また運転支援技術に磨きをかけて30年に死亡事故ゼロを目指す。安心・安全を通じてブランド力向上にもつなげる。

 ただ足元の事業環境は厳しさを増している。スバルが得意な米国の新車市場は17年からゆるやかに減少する見通しで、当面は大きな市場成長はみこめない。スバルが強みを持つスポーツ多目的車(SUV)は原油安を背景に人気が集中しており、自動車各社との競争が激化の一途をたどる。トランプ政権の関税引き上げが実現すれば、日本からの輸入の比率が高いスバルにとって大きな打撃となる。

 対策として米国の中でもスバル車のシェアが低い南部の「サンベルト」地域で販売店網を拡充する。「まだまだフロンティアの市場」(同)で販売店も増やし、米国での販売を積み上げていく。「年間の米国市場全体が1700万台としてシェア5%=85万台に挑戦する」(同)と意気込む。
 

 

日刊工業新聞2018年7月11日

中西 孝樹

中西 孝樹
07月12日
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米国一本足がそれほど悪いことだとは感じられないほど、米国の持続的で安定的な新車市場の収益性には魅力が高い。電気自動車やシェアリングの事業基盤の変化も、最も先進国では遅い変化が予想される。ホンダ、トヨタ、マツダとも、米国収益性の挽回を経営目標に掲げていることがその証左でもある。米国でダントツに強いSUBARUは、今後5-10年はなんとかなる。問題はその先だ。それを見極めることこそ、中村新体制の重要な責務である。

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