EVの話題にかすむFCV、20年代普及へトヨタ大増産の勝算

部品メーカーも含めた戦略が動き出した

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FCV普及への取り組みは続く(現代自の新型FCV「NEXO」)
 トヨタ自動車が2020年代の燃料電池車(FCV)増産へ動きだした。中国の新エネルギー車(NEV)規制などで市場本格化が見込まれる電気自動車(EV)の話題にかすみがちだが、FCV普及への取り組みは今も世界各地で進む。EVをはじめとする世界的な電動車シフトの中、FCVは選択肢の一つとして生き残れるか。部品メーカーも含めたFCV普及への戦略が静かに始まった。

 三重県いなべ市の山あいに今春、豊田合成がFCV向け高圧水素タンクの新工場を完成した。現時点で納入先は非公表だが、FCVの車種拡大に対応する投資だ。20年代初めに稼働し、樹脂、炭素繊維、ガラス繊維の3層構造からなる高圧水素タンクを量産する。

 「“究極のエコカー”のイメージに合った先進的な工場としたい」と武藤成洋いなべ工場長は意気込む。同社はいなべ工場を環境対応のモデル工場と位置付け、稼働時には使用電力の約2割を再生可能エネルギーでまかなう計画。建屋の屋根一面に出力1600キロワットの太陽光発電パネルを敷き詰め、発電用風車や燃料電池、地中熱を利用した空調システムなども設置する。

 FCVは20年代に本格的な普及期に入ることが“必要”だ―。トヨタが5月に出したプレスリリースには啓蒙(けいもう)的な一文が挿入された。燃料電池スタックなどFCVの基幹部品の設備増強を決めた際のものだ。

 同社は15年に掲げた「20年頃以降に世界で年3万台のFCV販売」との目標を堅持。FCVの生産能力を現状の10倍に高める。17年末に「水素基本戦略」をまとめた政府と歩調を合わせ、FCVの販売地域の拡大や普及への環境整備も進める考えだ。

 海外にもFCV普及への動きはある。例えば中国上海市は17年9月に「燃料電池車発展計画」を発表し、20年までにFCVの台数を3000台にするとした。中国全体では30年までにFCV100万台などの目標があり、上海市はその先導役を目指す。

 6月中旬に上海市で開かれた中国の家電・IT見本市「CESアジア」では早速、韓国の現代自動車が最新鋭のFCV「NEXO」を展示。粒子状物質(PM)の浄化などの環境性能をPRした。現代自はその後、独アウディとFCV関連技術での提携を決めた。

 ホンダなど他の自動車メーカーもFCVの取り組みを続ける。トヨタのFCV「MIRAI」向けに部品を供給する日系の部品メーカー首脳は「海外のメーカーもFCV普及に熱が入ってきた。供給拡大につなげたい」と商機をうかがう。
豊田合成はFCV向け工場を環境モデル工場に位置付ける

(文=杉本要)

日刊工業新聞2018年6月29日

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もっとも、FCV普及のカギを握る水素ステーションは整備費用が高額で水素の扱いも難しい。各種の市場調査でも、まずは充電インフラ整備の進むEV普及が先行するという結果が大勢を占める。トヨタ自身“全方位”の電動車戦略を掲げつつ、足元ではEVの開発を急ぐ。FCVの普及には10年、20年先を見据えた長期的な戦略が必要になりそうだ。

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