今後のシナリオは4つ!富士フイルムvs物言う株主
白紙撤回が最有力か・・・
富士フイルムホールディングス(HD)による米ゼロックスの買収計画を巡る騒動が、続いている。富士フイルムHDは米ゼロックスに対する損害賠償を起こし、強硬姿勢で事態打開を狙う。今後、考えられるシナリオは四つある。(文・堀田創平、杉浦武士)
別記事「米ゼロックスのアジア進出は『非常に難しい』と富士フイルムHD」へ
一つめのシナリオは、買収計画の白紙撤回だ。富士フイルムHDの古森重隆会長兼最高経営責任者(CEO)は、6月初めに「条件によっては買収をやめることもある」と発言。事務機器事業については、米ゼロックスと共同出資会社の富士ゼロックスの統合で「勝ち抜く道しかない」(古森会長)のは事実。だが、富士フイルムHDとしては、いま絶対に手に入れたい“ピース”ではない。
そもそも事務機器ビジネスは、アジアを担う富士ゼロックスと欧米を担う米ゼロックスで分業体制を取る。拡大の見込める新興国市場の販路は、富士ゼロックスが確保している。また、富士ゼロックスが米ゼロックスの販売する事務機器を生産している。米ゼロックスの持つ成長市場はインドだけのため、逃しても影響は限定的だ。元々、統合計画は米ゼロックスの救済策と見る向きもあったため、富士フイルムHDでは「富士ゼロックス単体でも十分やっていける」との声が日に日に強まる。
二つめは買収額の上積みだが、富士フイルムHDが歩み寄る可能性は低い。かねて成長事業であるヘルスケア領域に資金を集中する戦略を示しているためだ。自社の株主に、安定して資金を稼ぐ「キャッシュカウ」事業と位置付ける事務機器事業に追加資金を投じる必要性を説明できない。
三つめとしてアイカーン氏らの譲歩がある。ただ、古森会長は「ゼロックス経営陣から代替案の提示があれば検討する」と呼びかけるが、現時点で反応はない。むしろ、アイカーン氏らは富士フイルムHDの損害賠償請求に徹底抗戦する構えをみせる。
四つめにはアイカーン氏らが示唆する投資ファンドなどへの売却があるが、富士ゼロックスとの分業体制を考慮すると実現には疑問符が付く。
買収の白紙撤回のシナリオが最も可能性が高そうだが、電撃的な和解もあり得るのが企業のM&A(合併・買収)。今後の舞台が法廷闘争に移る中、双方の駆け引きが活発化しそうだ。
1月末に発表した買収計画を巡って、事態が大きく動いたのは4月末のことだった。米ニューヨーク州の裁判所が買収の一時差し止め命令を下した。富士フイルムHDは命令の取り消しを求めて上訴したが、上訴審の再開は9月以降の見通し。当初は7―9月に買収を完了する計画は崩れた。
米ゼロックスはアイカーン氏らと共同歩調を取り、CEOには同氏らが推薦するジョン・ビセンティン氏が就任。その後すぐに買収を破棄する強硬措置に踏み切った。これに対し、富士フイルム側は10億ドル(約1100億円)の損害賠償を求める訴訟をニューヨーク州の連邦裁判所に起こした。富士フイルムHDは一方的な破棄は契約違反だと主張している。
一方、両社が出資する富士ゼロックスも経営体制を刷新し、新社長には富士フイルムHD出身の玉井光一氏が副社長から昇格した。今回の人事は2017年にガバナンス強化を目的に富士フイルムHDから古森会長ら取締役・監査役7人が新たに来た時点である程度想定済み。富士ゼロックス側は人事の狙いを構造改革を機動的に進めるためと説明する。
あわせて、米ゼロックスのビセンティンCEOも富士ゼロックスの取締役に選任された。接触の機会が増える古森富士フイルムHD会長とビセンティン氏が、どのような対話の機会を設けるかも焦点になる。
別記事「米ゼロックスのアジア進出は『非常に難しい』と富士フイルムHD」へ
逃しても影響は限定的
一つめのシナリオは、買収計画の白紙撤回だ。富士フイルムHDの古森重隆会長兼最高経営責任者(CEO)は、6月初めに「条件によっては買収をやめることもある」と発言。事務機器事業については、米ゼロックスと共同出資会社の富士ゼロックスの統合で「勝ち抜く道しかない」(古森会長)のは事実。だが、富士フイルムHDとしては、いま絶対に手に入れたい“ピース”ではない。
そもそも事務機器ビジネスは、アジアを担う富士ゼロックスと欧米を担う米ゼロックスで分業体制を取る。拡大の見込める新興国市場の販路は、富士ゼロックスが確保している。また、富士ゼロックスが米ゼロックスの販売する事務機器を生産している。米ゼロックスの持つ成長市場はインドだけのため、逃しても影響は限定的だ。元々、統合計画は米ゼロックスの救済策と見る向きもあったため、富士フイルムHDでは「富士ゼロックス単体でも十分やっていける」との声が日に日に強まる。
投資ファンドに売却は疑問符
二つめは買収額の上積みだが、富士フイルムHDが歩み寄る可能性は低い。かねて成長事業であるヘルスケア領域に資金を集中する戦略を示しているためだ。自社の株主に、安定して資金を稼ぐ「キャッシュカウ」事業と位置付ける事務機器事業に追加資金を投じる必要性を説明できない。
三つめとしてアイカーン氏らの譲歩がある。ただ、古森会長は「ゼロックス経営陣から代替案の提示があれば検討する」と呼びかけるが、現時点で反応はない。むしろ、アイカーン氏らは富士フイルムHDの損害賠償請求に徹底抗戦する構えをみせる。
四つめにはアイカーン氏らが示唆する投資ファンドなどへの売却があるが、富士ゼロックスとの分業体制を考慮すると実現には疑問符が付く。
買収の白紙撤回のシナリオが最も可能性が高そうだが、電撃的な和解もあり得るのが企業のM&A(合併・買収)。今後の舞台が法廷闘争に移る中、双方の駆け引きが活発化しそうだ。
これまでの経緯は・・・
1月末に発表した買収計画を巡って、事態が大きく動いたのは4月末のことだった。米ニューヨーク州の裁判所が買収の一時差し止め命令を下した。富士フイルムHDは命令の取り消しを求めて上訴したが、上訴審の再開は9月以降の見通し。当初は7―9月に買収を完了する計画は崩れた。
米ゼロックスはアイカーン氏らと共同歩調を取り、CEOには同氏らが推薦するジョン・ビセンティン氏が就任。その後すぐに買収を破棄する強硬措置に踏み切った。これに対し、富士フイルム側は10億ドル(約1100億円)の損害賠償を求める訴訟をニューヨーク州の連邦裁判所に起こした。富士フイルムHDは一方的な破棄は契約違反だと主張している。
一方、両社が出資する富士ゼロックスも経営体制を刷新し、新社長には富士フイルムHD出身の玉井光一氏が副社長から昇格した。今回の人事は2017年にガバナンス強化を目的に富士フイルムHDから古森会長ら取締役・監査役7人が新たに来た時点である程度想定済み。富士ゼロックス側は人事の狙いを構造改革を機動的に進めるためと説明する。
あわせて、米ゼロックスのビセンティンCEOも富士ゼロックスの取締役に選任された。接触の機会が増える古森富士フイルムHD会長とビセンティン氏が、どのような対話の機会を設けるかも焦点になる。
(2018年6月26日 最終面)