東芝メディカルの買収ならず。「人間万事塞翁が馬」(富士フイルム会長)

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古森会長
 激しい買収合戦の末、惜しくも東芝メディカルシステムズ(栃木県大田原市)の買収がかなわなかった富士フイルムホールディングス。古森重隆会長兼最高経営責任者(CEO)は「残念だった」とこぼす。

 だが、「買収できなければ当社のメディカル事業の将来は成り立たない、というものではない。プラスアルファだが、当社の医療機器も再生医療も将来性がある」と力説。

 「使わなかった資金は十分使い道がある。その意味で良かった、悪かったどちらにも考えられる。人間万事塞翁が馬。それはそれで良し」と”未練“を断ち切っていた。

東芝逃した次の一手


日刊工業新聞2016年4月21日


 「医療機器の中心にあるのはIT。機器だけを売る時代ではない」―。富士フイルムの後藤禎一執行役員メディカルシステム事業部長は医療機器の成長戦略をこう力説する。

ITをハブに医用画像管理システムで世界トップ狙う


 医療機器などのメディカルシステムに医薬品、再生医療などのライフサイエンスを含めたヘルスケア部門は、2016年度に売上高を13年度比580億円増の4400億円に引き上げる計画。中でもメディカルシステムの「医療IT」「内視鏡」「超音波診断装置」の三つを成長領域に掲げ、部門全体の成長をけん引する。

 近年の富士フイルム全体のM&A(合併・買収)を見ても、ヘルスケア部門の案件が際立つ。メディカルシステムでは12年3月に携帯型超音波診断装置の米ソノサイトを、15年5月に医療ITシステムの米テラメディカをそれぞれ買収した。

 成長戦略の核となるのは「医療IT」だ。例えばX線などの医用画像診断装置で撮影した画像を保管し、データを表示して医師が読影診断するシステム。富士フイルムは医用画像管理システム(PACS)市場で国内首位の「シナプス」を持つのが強みだ。

 シナプスはシステムの安定性や画像処理技術が高く、他社製品にも対応している。世界で約4800施設が使用し、世界シェアは2位。そこで関連システムを拡充しながら新しい事業モデルを訴求し、PACSで世界首位の米ゼネラル・エレクトリック(GE)を追い上げる。

 5月に発売する最新版「同5」はシステム全体の設計を全面的に刷新した。画像処理、表示速度を従来比2倍に高速化し、診断効率の向上に寄与する。

 さらに期待を示すのがVNAだ。これは各診療科で異なるメーカーのPACSに保管された診断画像、各種動画などの多様な診療情報を一元的に管理・保管する仕組み。15年に買収したテラメディカの技術を生かし、国内市場に本格参入した。

VAN基盤に付加価値の創出


 これまで病院内にあるビッグデータ(大量データ)を活用する上で、診療科ごとの”縦割り“の情報管理は課題だった。VNAが共通基盤となり、蓄積したデータの管理から情報連携、分析・解析などに役立て、医師の診断支援や医療の効率化など付加価値の創出に結びつける。さらに高齢化が進む日本の医療業界で、医療費抑制のための地域医療連携の活用も期待される。

 「PACS市場で2020年に世界シェア首位を狙う」と後藤執行役員は豪語する。シナプスが”ハブ“となり、関連する医療機器・サービスを強化する。東芝メディカルシステムズ(栃木県大田原市)を手中に収められなかったが、虎視眈々(たんたん)と成長のシナリオを描いている。

日刊工業新聞2016年5月2日

COMMENT

明豊
執行役員 DX担当
デジタルメディア局長

「残念だった」が本音だろう。普通なら出てこない買収案件だけに、戦略に大きな変化はないと考える。個人的に機器以上に興味があるのは、昨年に買収したiPS細胞関連の米セルラー・ダイナミクス・インターナショナル(CDI)。再生医療という領域自体も医薬品やドラッグ・デリバリー・システムなどの創薬技術を含め、総合力を持つ富士フイルムに向いた産業だろう。CDIの強みは、創薬支援に使われるiPS細胞を高い品質で安定して製造できる技術。新薬開発は、最終的に医薬品として発売される確率が2万分の1とも3万分の1とも言われるハイリスクな事業になった。iPS細胞を元に疑似的にヒトの心筋細胞などを作って候補物質を投与すれば、開発を継続してよい候補物質をかなりの確率で絞り込める。

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