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「明治150年」を機にルーツを見直す佐賀

肥前さが幕末維新博覧会はモノづくりも見所
「明治150年」を機にルーツを見直す佐賀

肥前さが幕末維新博覧会のメーンパビリオン「幕末維新記念館」

 明治150年を迎えた2018年は、全国各地で記念イベントが開かれる。NHK大河ドラマ「西郷どん」の放映もあり、江戸から明治という激動期への関心は高まりそうだ。当時の日本で起きた大きな変革を、どう捉えるかは地域によって異なる。鹿児島では〝明治維新150周年〟として西郷隆盛や大久保利通ら偉業の立役者を顕彰。一方、福島では〝戊辰150周年〟として義に殉じた先人たちに思いをはせる。時代の明暗を代表した両地域だけでなく、150年の節目は、今まで意識されてこなかった地域にも、光を当てる好機になっている。

 その一つが佐賀(肥前)だ。県内では3月から「肥前さが幕末維新博覧会」が始まり、2019年1月の閉幕までに延べ入場者数50万人という大目標を掲げる。維新の雄藩として〝薩長土肥〟の一角を占めるも、どのような役割を果たしたかについて地元の人すら認識が薄かった。

 「地域の歴史を見直し、未来につなげたい」(博覧会事務局の田中裕之次長)と期待も高い。メイン会場の佐賀市では三つのテーマ館をはじめ、半径約500メートル圏に位置する16の施設を見て歩く〝まちなか博物館〟を展開。維新成否のカギを握った佐賀の歴史を学ぶとともに、食・文化・アートの面からも佐賀を発見、体験できる仕掛けが満載だ。
各パビリオンは体感を重視。映像や音声などで佐賀を学べる


 幕末の藩主・鍋島直正が熱心に展開した教育や欧州の先進技術獲得によって、肥前が維新のキャスチングボートを握るに至った背景。好戦的でなかったものの、強力な兵器を提供して戊辰戦争の行方を決し、一方で日本赤十字社の設立に尽力したことなど。県外の訪問者にとっても歴史理解を深める一助となるに違いない。

 時代が幕末ではないが、テーマ館の一つに「葉隠みらい館」がある。江戸中期の藩士、山本常朝が武士の心得を口述した「葉隠」はビジネスマナーを学べると人気で、愛唱する経営者も多い。デジタルコンテンツを駆使して楽しみながら学べる施設だ。田中次長は「訪れる人の心の中にフックを作れれば」と話す。
70年ぶりに姿を戻した幕末の藩主・鍋島直正


 佐賀城の本丸北側には17年春に完成した鍋島直正の銅像が建っている。戦争中の金属供出で撤去されて以来、最近まで佐賀にとって〝忘れられた歴史〟だった。約70年ぶりの再建に尽力したのが、トヨタ自動車の張富士夫名誉会長だという。佐賀とはゆかりが深く、県立美術館の入り口には祖父の張二男松氏の銅像もある。

 県の企業誘致課職員が定期的に磨いているとか。また市内には全25体のアルミ像「佐賀ゆかりの偉人モニュメント」が展示されている。森永製菓、江崎グリコの両創業者をはじめ、日本の産業発展に多大な功績を挙げた偉人たちと写真を撮ることができる。

 佐賀城本丸歴史館では東芝のアンドロイド「地平アイこ」が出迎えてくれる。当初は5月中旬までの予定だったが、好評につき、幕末維新博の会期終了までの延長が決まった。東芝の創業者、田中久重は幕末、佐賀藩の精煉方(理化学研究所)で活躍。日本初の蒸気機関車や蒸気船模型を製造し、国産初の蒸気船「凌風丸」建造の中心メンバーだったとされる。

 最先端のアンドロイドには、からくり人形の仕掛けを考えるのが得意で幼少時には「からくり儀右衛門」と呼ばれたとされる創業者のDNAを垣間見ることができそうだ。
地平アイこは会期中に衣替え。展示内容の変更に伴い、トークも変わる

佐賀駅には博多駅(福岡市)から特急で約40分

(日刊工業新聞記者・小林広幸)
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高屋優理
高屋優理 Takaya Yuri 編集局第二産業部 記者
佐賀は福岡と長崎に挟まれ、熊本とも接していて、観光地としては埋没しがち。しかし、丁寧に歴史を辿ると、見所がたくさんあり、モノづくりのルーツを辿るには意外な穴場かもしれません。

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