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開発遅れる「MRJ」が迎える正念場の夏

三菱重工主導で財務・開発・生産基盤強化へ
開発遅れる「MRJ」が迎える正念場の夏

型式証明・ボーイングとの関係も課題

 三菱航空機(愛知県豊山町、水谷久和社長、0568・39・2100)の資本増強をめぐり、親会社の三菱重工業が債務の株式化と増資を組み合わせた資本増強を検討する。今後、三菱重工本体が手がける米ボーイング向けの機体製造事業と購買などの業務を一部共通化し、効率を高める。2020年半ばのMRJの初号機納入に向け、三菱重工主導で財務・開発・生産基盤を強化する。

 三菱航空機は国産初ジェット旅客機「MRJ」の開発の遅れで納期を5度延期し、開発費用は当初想定の約3倍の累計6000億円に膨らんだ。18年3月末の債務超過額は1000億円規模。資本増強に向けて三菱重工はステークホルダーとの協議を本格化する。

 第三者割当増資に踏み切る場合、ステークホルダーからは「メリットがあれば応じる」との声があり、各社とも是々非々で対応する見通し。一方、三菱重工からの借入金を株式に振り替える「債務の株式化」では、三菱重工の出資比率が現状の64%から高まり、トヨタ自動車や三菱商事などの出資比率が相対的に低下する見込み。

 三菱重工の宮永俊一社長は「18年度内の資本増強と債務超過解消はコミットメント。(事業化までの)レールを敷くところまでは、どんな形であれ責任を持つ」と断言しており、協議は夏以降に本格化する模様だ。

 だが課題は多い。一つは航空当局からの型式証明(TC)取得だ。設計変更を反映した試験機2機を米国で19年に試験飛行する計画。追加試験機での作業を順調にこなし、実際の取得作業であるTCフライトに入ることを目指す。量産初号機納入に向けた最大のハードルとなる。

 営業面では受注の半分以上を占める北米で、航空会社とパイロット組合の労使協定条項「スコープクローズ」の緩和が実現するかが焦点。緩和されれば座席数88のMRJ90を販売できる。だが交渉は難航し、座席数76のMRJ70を北米の主力製品に位置付けた。

 MRJ70の市場投入は20年半ばを目指すMRJ90の1年遅れを見込むが、前倒しを視野に入れる。競合のブラジル・エンブラエルには70席級の新型機の開発計画がない。

 ただ、エンブラエルはボーイングと提携交渉中。三菱重工はボーイングの機体部品を長年開発し、MRJの保守サポートを受ける予定。長年の盟友が競合を全面支援すれば、MRJの受注への影響も懸念される。ただ、三菱重工首脳のもとにはボーイング関係者から「我々の友好関係は変わらない」との連絡があったという。

 開発スケジュールには変数が多く、正確な納期を伝えられぬ中、受注交渉を重ねながらも新規契約は見送っている状況。三菱航空機は7月に英国で開かれる航空宇宙産業展「ファンボロー国際航空ショー」でMRJの初の飛行展示を実施する計画で、アピールできなければ航空会社からの信頼を失いかねない。
日刊工業新聞2018年6月5日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
財務面、営業面とも今夏が正念場だ。 (日刊工業新聞社・鈴木真央、同名古屋支社・戸村智幸)

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