廃棄物を原料に生成、日本は次世代バイオエタノールを事業化できるか
政府主導で生産、利用拡大へ
国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択され、石油や石炭など化石燃料に依存するエネルギーのあり方が見直されている。そうした中、化石燃料の代わりに植物などのバイオマスから燃料を製造し、温室効果ガスの排出量を削減する動きが世界で活発化している。米国では、世界一の生産量を誇るトウモロコシが原料のバイオエタノール生産の事業化が盛んだ。日本も政府主導でバイオエタノールの生産、利用拡大を目指している。
米国では、生産されるトウモロコシのおよそ40%がバイオエタノールの製造に利用されているという。害虫や雑草に抵抗性があるGMO(遺伝子組み換え種子)の利用や、衛星を使った効率的な施肥などの技術を導入している。
イリノイ州のシカゴ近郊でトウモロコシ農場を経営するジム・ロビンズ氏は、「人工衛星からの情報を活用して正確に耕作できるようトラクターにソフトを導入した。さらに専門家と契約し、肥料のまき方や効率的な作付け方法のアドバイスを受けるなど、戦略的な生産をしている」と説明する。
これらの取り組みにより、1980年代は、1エーカー当たり125ブッシェル(1ブッシェル=約35リットル)だった収量が現在は209ブッシェルにまで上がったという。
ロビンズ氏のような1000―3000エーカーといった大規模農場を運営する農家では、先端技術を積極的に導入することで、生産効率を上げることに成功している。
また、トウモロコシをエタノールに加工する工場では、新しい酵素技術の導入も盛んだ。酵素の導入なら新たな設備投資が不要なため、経済性は高い。
導入により、現在1ブッシェル当たりのエタノール生産量が、2・87ガロンから3ガロンへ上がる見込みだという。エタノールのほかにも、トウモロコシの搾りかすを利用した家畜用飼料「DDGS」やコーン油を同時に生産しており、これらも利益につながる。
さらに加工時に発生する高温・高圧の蒸気を利用することで、電力の約20%を自家発電でまかなうことができるなど、低コスト化のため、さまざまな工夫を凝らしている。
米国では、温室効果ガスの排出量削減のため、ガソリンに一定量のバイオエタノールを混ぜるように「再生可能燃料基準(RFS)」を定めている。
自動車はバイオエタノールを10%混合したガソリン「E10」対応車だ。製油業者は、バイオエタノール1ガロン当たりに発行される「再生可能識別番号(RIN)」を米環境保護庁に提出し、混合を証明するが、実際は不足分のRINを別途購入し、基準を満たすケースも多い。
一方で、トウモロコシは米国では家畜飼料として使用されることから、バイオエタノールへの利用拡大は食料との競合を懸念する声が根強い。また事業者はRINの価格変動により生じる負担もあり、RFS基準の引き下げを求める際にも、食料競合の議論がよく引き合いに出される。
これに対し、オークリッジ国立研究所のオラドス・バデボ特任助教授は、「製油所によっては化石燃料と同時にバイオ燃料も作っているところもあるが、そうでない製油所が現在のバイオ燃料の政策に反対している」と明かす。さらに、「トウモロコシの価格が高騰すれば、『エタノールとの競合によって起きた』という声があがるが、実際は干ばつなどが原因。価格高騰の根拠をデータで示すしかない」と話している。
日本でもバイオ燃料の導入が進んでいる。17年度には、原油換算で年間50万リットルのバイオエタノールを導入するという目標が達成された。しかし、国産のバイオエタノールの事業化は成功しておらず、主にブラジルからの輸入に頼っている状況だ。
国産バイオエタノールの事業が軌道に乗るまで、日本は米国のトウモロコシ由来バイオエタノールの輸入を22年までに進め、ブラジル産の燃料との価格競争を生じさせることで、コストダウンを図るつもりだ。
ただ、「バイオエタノール導入目標達成のために、外国産燃料の輸入を続けるわけにはいかない」(経済産業省・資源エネルギー庁新エネルギー課)。
日本でも飼料用のコメを利用したバイオエタノールの生産と事業化が計画されたが、採算性が合わず、実現しなかった。日本の国土面積では、米国のようなバイオエタノールの大規模な生産手法を採るのは難しいため、独自戦略をとる必要がある。
日本が現在力を入れているのは、非可食の植物繊維質「セルロース」を原料とした「次世代バイオエタノール」の事業化だ。
パルプやコーヒーかす、きのこを育てた後の「廃菌床」といった廃棄物を原料とすることで、実現すれば食料競合とコストという二つの課題解決が期待される。
これまで廃棄物由来のセルロースを原料に、政府主導でバイオエタノールを製造する研究が行われてきた。すでに試算上は生産コスト1リットル当たり70円未満という目標は達成している。生産規模拡大を目指し、20年ごろから国産エタノールが本格的に導入される見込みだ。
ただ、次世代バイオエタノールの原料となる廃棄物は、肥料や発電などの別の用途で使われている。このため、入手には補助金などの支援制度が必要になりそうだ。
米国でも次世代バイオエタノール導入が計画されている。22年までに再生可能燃料として360億ガロンを使用するとしており、うち210億ガロンを次世代バイオ燃料に変換していく目標を掲げる。
このうち60億ガロンは、セルロース由来のバイオエタノールを導入する計画だ。ただ、酵素性能やコスト問題から米国でも事業化には至っていない。
米国の現状―先端技術で生産効率化
米国では、生産されるトウモロコシのおよそ40%がバイオエタノールの製造に利用されているという。害虫や雑草に抵抗性があるGMO(遺伝子組み換え種子)の利用や、衛星を使った効率的な施肥などの技術を導入している。
イリノイ州のシカゴ近郊でトウモロコシ農場を経営するジム・ロビンズ氏は、「人工衛星からの情報を活用して正確に耕作できるようトラクターにソフトを導入した。さらに専門家と契約し、肥料のまき方や効率的な作付け方法のアドバイスを受けるなど、戦略的な生産をしている」と説明する。
これらの取り組みにより、1980年代は、1エーカー当たり125ブッシェル(1ブッシェル=約35リットル)だった収量が現在は209ブッシェルにまで上がったという。
ロビンズ氏のような1000―3000エーカーといった大規模農場を運営する農家では、先端技術を積極的に導入することで、生産効率を上げることに成功している。
また、トウモロコシをエタノールに加工する工場では、新しい酵素技術の導入も盛んだ。酵素の導入なら新たな設備投資が不要なため、経済性は高い。
導入により、現在1ブッシェル当たりのエタノール生産量が、2・87ガロンから3ガロンへ上がる見込みだという。エタノールのほかにも、トウモロコシの搾りかすを利用した家畜用飼料「DDGS」やコーン油を同時に生産しており、これらも利益につながる。
さらに加工時に発生する高温・高圧の蒸気を利用することで、電力の約20%を自家発電でまかなうことができるなど、低コスト化のため、さまざまな工夫を凝らしている。
米国では、温室効果ガスの排出量削減のため、ガソリンに一定量のバイオエタノールを混ぜるように「再生可能燃料基準(RFS)」を定めている。
自動車はバイオエタノールを10%混合したガソリン「E10」対応車だ。製油業者は、バイオエタノール1ガロン当たりに発行される「再生可能識別番号(RIN)」を米環境保護庁に提出し、混合を証明するが、実際は不足分のRINを別途購入し、基準を満たすケースも多い。
一方で、トウモロコシは米国では家畜飼料として使用されることから、バイオエタノールへの利用拡大は食料との競合を懸念する声が根強い。また事業者はRINの価格変動により生じる負担もあり、RFS基準の引き下げを求める際にも、食料競合の議論がよく引き合いに出される。
これに対し、オークリッジ国立研究所のオラドス・バデボ特任助教授は、「製油所によっては化石燃料と同時にバイオ燃料も作っているところもあるが、そうでない製油所が現在のバイオ燃料の政策に反対している」と明かす。さらに、「トウモロコシの価格が高騰すれば、『エタノールとの競合によって起きた』という声があがるが、実際は干ばつなどが原因。価格高騰の根拠をデータで示すしかない」と話している。
日本の戦略―原料に「セルロース」
日本でもバイオ燃料の導入が進んでいる。17年度には、原油換算で年間50万リットルのバイオエタノールを導入するという目標が達成された。しかし、国産のバイオエタノールの事業化は成功しておらず、主にブラジルからの輸入に頼っている状況だ。
国産バイオエタノールの事業が軌道に乗るまで、日本は米国のトウモロコシ由来バイオエタノールの輸入を22年までに進め、ブラジル産の燃料との価格競争を生じさせることで、コストダウンを図るつもりだ。
ただ、「バイオエタノール導入目標達成のために、外国産燃料の輸入を続けるわけにはいかない」(経済産業省・資源エネルギー庁新エネルギー課)。
日本でも飼料用のコメを利用したバイオエタノールの生産と事業化が計画されたが、採算性が合わず、実現しなかった。日本の国土面積では、米国のようなバイオエタノールの大規模な生産手法を採るのは難しいため、独自戦略をとる必要がある。
日本が現在力を入れているのは、非可食の植物繊維質「セルロース」を原料とした「次世代バイオエタノール」の事業化だ。
パルプやコーヒーかす、きのこを育てた後の「廃菌床」といった廃棄物を原料とすることで、実現すれば食料競合とコストという二つの課題解決が期待される。
これまで廃棄物由来のセルロースを原料に、政府主導でバイオエタノールを製造する研究が行われてきた。すでに試算上は生産コスト1リットル当たり70円未満という目標は達成している。生産規模拡大を目指し、20年ごろから国産エタノールが本格的に導入される見込みだ。
ただ、次世代バイオエタノールの原料となる廃棄物は、肥料や発電などの別の用途で使われている。このため、入手には補助金などの支援制度が必要になりそうだ。
米国でも次世代バイオエタノール導入が計画されている。22年までに再生可能燃料として360億ガロンを使用するとしており、うち210億ガロンを次世代バイオ燃料に変換していく目標を掲げる。
このうち60億ガロンは、セルロース由来のバイオエタノールを導入する計画だ。ただ、酵素性能やコスト問題から米国でも事業化には至っていない。
日刊工業新聞2018年5月29日