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「ピンホール」をなくしたメッキ加工業者、40種類の材料を操る

中嶋金属、次世代を先取り
「ピンホール」をなくしたメッキ加工業者、40種類の材料を操る

独自開発のメッキラインによってピンホールレスを実現する

 自動車や半導体、医療といった産業用途から、神社仏閣向けの装飾まで、幅広い業界向けにメッキ加工を展開する中嶋金属。扱う金属材料は主力の金、白金、銀以外にレアメタル(希少金属)も含め約40種類。金属はもちろん、樹脂、セラミックス、ガラスなどの素材へのメッキ加工にも対応する。金属以外の素材に対応できるメッキ加工業者は、国内でも数パーセントにとどまるという。顧客の要望に応じて製品ごとにメッキ液の種類も変えるという「一品一様の対応」(中嶋哲也社長)により、顧客からの厚い信頼を得ている。

水素ガスの気泡をなくせ


 同社を象徴するのは、「ピンホール(微小な孔)」を無くしたメッキ技術。メッキ層の内部にピンホールが存在すると、導電性や熱伝導性などの低下につながる。さらに外部の溶液が中に浸透し、メッキの内側から素材の劣化が進んでしまう。

 そのピンホールの原因とは、電解メッキによって電流を流す際に、メッキ対象の素材の表面で発生する水素ガスの気泡だ。中嶋社長は「これをいかに発生させないようにするかがポイントだ」と極意を話す。

 そこで同社は、直径2ナノメートルという極小サイズの金属粒子を作る技術を開発。通常の金属粒子の隙間に極小粒子が入り込むことで、ピンホールの形成をなくすというわけだ。

 ではその極小粒子をいかに作るか。ポイントは大きく二つ。一つは、メッキ槽の温度を段階的に変化させること。メッキといえば一般的に、その金属の種類に応じた適切な温度を、加工の間は一定に保つ必要がある。だが同社では、メッキの状態を見ながら、10段階にも細かく分類して温度を変化させ、粒子の形成を調整している。

 もう一つは、メッキ液の成分を常に一定に保つことだ。メッキ液は複数回使用すると、液中の金属成分が減少し、仕上がりにムラが生じてしまう。そこで不足した成分を槽内に自動補充する装置を独自に開発。何度使用しても同じ品質でメッキ加工できるようにした。

 こうした工夫によって「ピンホールレス技術」を確立し、メッキの耐食性、導電性、熱伝導性などの向上を実現した。この技術は主に、耐食性が要求される燃料電池用電極向けを中心に展開。最近では精密機器の電子回路や、医療用のレーザー機器などにも応用範囲を広げている。

開発は「理論で解明しきれない」


 中嶋社長の父、照男氏(現会長)が、1965年に創業。実家は元々、神社仏閣向けのメッキ装飾を手がけていたが、照男氏が現本社の土地を購入し、産業用メッキに参入した。創業当初は、業界でも難しい樹脂素材へのメッキ加工がヒットしたことで、事業を軌道に乗せることができた。

 その後、通常では不可能とされるゲルマニウムへのメッキ技術を確立させるなど、顧客の要求に応えることで成長を続けた。そんな中、2006年に経済産業省から依頼を受ける。それが燃料電池用電極向けの開発だった。

 それまで燃料電池用電極といえば、電極の素材自体に白金を使用するのが一般的だった。ただ白金は高コストな金属材料。そこで、電極自体は別の金属材料で作り、その表面に白金メッキを施すことができれば、燃料電池の低コスト化を実現できると期待されていた。

 だが燃料電池用電極は、腐食性の高いリン酸溶液などに漬け込んで使用される。そのため、従来よりも耐食性を高めたメッキ加工が不可欠となる。その課題を解決するために生まれた技術が、あのピンホールレス技術だった。

 試行錯誤の末、2008年に同技術の開発に成功。以来、燃料電池電極以外にも活用され、同社の事業拡大につながっていった。

 当時は主任であった中嶋社長は「新しい技術が生まれる時、『なぜこうなるのか』は理論で解明しきれない。理論を基礎としながらいかに実践するか」と振り返る。この時の経験が、その後の社員教育に存分に生かされている。

 さらにその後は、内径0.2ミリメートルという微細管の内部にメッキ加工する技術も開発している。微細管内部には水素ガスの気泡がたまりやすく、それを原因として被膜形成が不十分となるという課題があった。

 ここでもやはりカギは水素だった。同社はメッキ槽に微細な振動を与えて中の気泡を外に出すことで対応。これにより微細管の内部であっても抗菌性、反射性、導電性などの機能を付加できるようになった。現在は主に分析機器やレーザー機器など医療機器用途を中心に採用が広がっている。

 今後、拡大が期待される市場は航空・宇宙業界や、電気自動車(EV)化が進む自動車業界だ。これらにはいずれもリチウムイオン二次電池が使われるため、その電極向けの用途でメッキの需要が高まっている。

 中嶋社長は「ピンホールレスを使うと、(その部材や機構を)メンテナンスレスにできる」と優位性を語る。安全性・信頼性が要求される同業界にはうってつけだ。

 現在、EV向けでは全固体電池など新技術の開発が加速しているが、電極へのメッキが不可欠なことは変わらない。顧客からの性能要求は今まで以上に高まっている。
【企業情報】
▽所在地=京都市右京区西院清水町4▽社長=中嶋哲也氏▽創業=1965年1月▽売上高=2億5000万円(2017年12月期)
中嶋哲也社長
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
本社工場のメッキのラインはここ数年増設を続け、2018年中には7ラインとする予定。生産能力は毎年30パーセント増を目指している。ただ、電池技術をはじめとしたエネルギーや環境関連の分野は、一時的なブームで終わることも多いため、投資の見極めも肝心となる。そんな中で、不況時あえて続けてきた設備投資が、現在ようやく実り始めている。これからも、「次世代を先取りできるメッキに徹していく」(中嶋社長)考えだ。

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