東大が100年後の“地球医”を育成

企業や行政、他大学と連携、狙いは他者を巻き込む力を持つ科学者

 東京大学農学部は、100年後の地球環境を考え、自分から行動できる“地球医”を育成する教育プログラムを立ち上げた。第1期生として約10人の学部3年生が参加する。企業や行政機関と連携し、一緒に社会課題の解決を考える。今後、学生数を増やすことや、他学部・他大学の参加も促す。垣根を越えて、協力し合える科学者集団を目指す。

専門の殻を破り、協力し合う


 教育プログラム「One Earth Guardians育成プログラム」の狙いは、新しい学び方への挑戦だ。大学での教育や研究は専門領域に特化し、企業や現場のニーズと離れやすい。

 そこで同プログラムでは、企業や社会の意見を聞き、双方向で学ぶ内容を構築する。専門知識を持ちつつ、俯瞰(ふかん)的な視点からの課題発見や解決方法のデザイン、実践する力と、他者を巻き込む力を持つ人材を育てる。

 地球環境という大きなテーマを設定することで、学生だけでなく教育者や企業、多様な専門家が一緒に課題を考え、互いを知り、学び合う体制を作る。座学と専門研究に二分された従来の教育に一石を投じる。

 発起人の一人の高橋伸一郎東大大学院農学生命科学研究科准教授は「教員のマインドセットも変える必要がある」と指摘する。

 具体的には、学生は講義で環境や食、生物資源、動植物、微生物などの多面的な知識を得て、企業の実学研修で現場の課題などを学ぶ。

 少人数のアクティブラーニングの手法を取り入れる。初年度の実学研修には数社が協力する。「就職向けのインターンシップ(就業体験)と違い、赤裸々な現場を知りたい」(高橋准教授)という。企業側は、学生の考えを共有できるほか、どんな学生を育てたいかという声を大学に届けられる。

企業、海外大学などにも広がる輪


 企業間のネットワークも構築する。異業種が参加できるテーマで研究会を開く。そこへ大学の教育者や研究者も参加する。同プログラムを知ってもらうための事前のワークショップには約50社が参加し、賛同の輪は広がってきている。

 また、東大農学部の取り組みで終わらせず、「賛成してくれる学部や大学は、どんどん入ってほしい」(同)と話す。国内に加え、北欧や豪州などの海外大学も興味を示しているという。

 高橋准教授は、「農学は、世の中の役に立つ実学が始まり。原点に立ち返る」と話す。経済価値以外の尺度で物事を考えられる人材を、会社や社会に根付かせることを目指す。「持続可能な開発目標(SDGs)」とも足並みをそろえる。

インタビュー・高橋伸一郎准教授


高橋伸一郎准教授

 -なぜ地球医の育成を決めたのですか。
 「『専門の異なる研究者が協力すれば、大きな課題に対処できるのではないか』という思いが以前からあった。『地球』を題材にすれば、多くの人が集まれる。自分で行動する人材を育成するにも、多くの人が興味を持つ環境は適している。また、人間は多くの生き物に依存しなければ生きられない弱い存在だ。このままでは最初に地球から蹴り出される危機感もある」

 -今の大学生の特徴は。
 「かわいい。指示されたら、さっとやる。素直で器用だ。教員の立場から見ると、『それでいいのか』とも思う。新しいことに取り組む科学者は、人の言うことを聞くだけではいけない。ただ、今の学生も言わないだけで、心の奥には意見を持つ。それを外に出せるようにしたい」

 -自分で考え、行動する学生を育てるには、教える側の意識改革も必要です。
 「今回の教育プログラムにはアクティブラーニングの手法を取り入れるが、通常の講義も学生への問いを多くするなど、変わる必要がある。大講義と研究室だけではいけない。また、先生も企業の現場を見ることで、意識改革できるだろう」

 -教育プログラムにはどんな学生が集まりましたか。
 「先日、2分間の自己プレゼンテーションをしてもらい、自分の語りたいことを持つ学生が集まったという印象を受けた。深海魚や虫など、それぞれ興味を持っている。どう取り組むのか楽しみだ」

梶原 洵子

梶原 洵子
05月24日
この記事のファシリテーター

100年後の地球環境に対して思うことは、人それぞれです。きれい事だと思う人もいるでしょう。それもひっくるめて、意見をぶつけあって自分の考えと行動力を磨く〈大学プラスα〉の場があってもいいのではないでしょうか。

この記事にコメントする

  

ファシリテーター紹介

記者・ファシリテーターへのメッセージ

この記事に関するご意見、ご感想
情報などをお寄せください。