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鉄道総研とJRの研究開発、違いは何?

熊谷則道理事長インタビュー
 鉄道総合技術研究所(鉄道総研)はJR発足以来、グループ各社に共通する基礎的な技術開発に取り組んできた。超電導リニアや列車制御システム、防災設備などの研究成果は鉄道技術の進化に大きく貢献した。人口減少社会の到来で、鉄道を取り巻く環境は変わりつつあるが、技術で安全運行を支える役割は今後も変わらない。熊谷則道理事長に、日本の鉄道技術の現状や今後、力を入れる研究課題などを聞いた。

 ―31年前の発足時と比べて鉄道総研の役割に変化はありますか。
 「30年を一つの区切りとすると第二世代に入った。JR各社とは密接に連携して研究を進めており、役割は揺らがない。これまで以上に、コストを意識した新しい技術を提供していく必要がある」
 


 ―民営化後に入社した研究者が大半を占めるようになりました。
 「非常に大きな変化だ。国鉄時代は全国一律の人的ネットワークがあった。総研は現場を持たないことから、現場を知るにはJR各社との人的交流が重要だ。技術はできる限り会社間で共有し、効率的に研究開発を進めるべきだ。最近はJR各社が研究拠点を持つようになった。総研は基礎研究や少し先の技術に取り組んでいく」

 ―鉄道への情報通信技術(ICT)取り込みは課題です。
 「鉄道以外では自動運転をはじめ、めざましい技術の進展が見られる。採用に積極的な考えもあるが、会社によって経営規模や形態が異なり、一律にはいかない。就労人口が減った先に、保守や運転士の人材をどう確保して、不足を技術でどう補うのか。コストと見合った技術にしなければならない。鉄道はたくさんの技術フィールドが含まれたトータルのシステムだ。4月に“ICT革新プロジェクト”を立ち上げた。既設の研究室に共通テーマを設定して横串を指すことで、ICTを有効に生かせる」

 ―海外展開や海外技術の採用など国際化への対応は。
 「日本と海外では安全に対する文化が異なる。海外に出ると、その違いが壁となる。世界の流れとは違った信号システムを採用してきたように、日本は先進的だったため、海外の技術を意識してこなかった。日本の鉄道は高品質で高信頼性を誇るが、コストは高いと評価されている。海外展開で低コスト化は重要な課題だ。2019年秋には鉄道技術の国際会議“WCRR”をホストとして約20年ぶりに東京で開く。厳しい環境基準下で高速走行を実現している日本の鉄道は、常に世界から注目を集めている」
日刊工業新聞2018年5月23日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
17年末、JR西日本保有の新幹線台車に亀裂が生じた重大インシデントでは、事故原因の究明に総力を挙げて取り組んだ。原因を明らかにし、情報を共有することが責務。大事故に至らなかったのは不幸中の幸い。「技術を、もう一度見直すきっかけにしたい」と熊谷理事長の言葉は、すべての鉄道技術者の思いを代弁している。(小林広幸)

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