“医療の年齢制限”は命の選別ではない

里見清一氏が語る公平な医療。「小さな子どもの手術、社会が負うべきコスト」

 ―膨らみ続ける医療費の問題に焦点を当てたきっかけは。
 「医者は患者のためにベストなことをするのが使命であり、命を救うためならコストは度外視して治療するのが常識だった。金の話をするのは卑しいと教えられた。しかしこれは二つの意味で間違っている。一つには、無駄なコストでも構わない、誰かがなんとかしてくれるという無責任さがあり、もう一つは、何がベストなのか、を考えていない」

 「医者は患者の生存期間を延ばすことを第一とするが、生存期間を延ばすことと患者の望む医療とは本来別問題だ。そして医療費だけが膨らんでいく。医者が言う“ベストな治療”とは自己満足に過ぎないのではないか。そのために無制限に金をかける権利が、我々にあるのだろうか」

 ―先端医療の拡大に日本の健康保険制度は耐えられますか。
 「保険制度を支える人が減り、医療費は高騰する。収支が合わず制度が続くはずがない。どこかで高度な延命医療を受ける制限を設けるべきだが、その基準は年齢が公平だと言うと、年寄り切り捨てと反発される。しかし今は、皆に最大限を提供する代わりに次の世代を無視し、切り捨てているのだ」

 ―医療の効率化で解決する動きがあります。
 「新しい薬が患者にどれくらい効くかを調べ、仮に有効率9割と1割の集団に分けられたとする。しかし他に有望な薬が無ければ、1割の希望がある(1割“しか”ない)患者に、薬を使わずに諦めてくれとはいえない。9割が無駄だと分かっていても使う。コストダウンのためには、“効く人”の選定では不十分で、“絶対に効かない人”を同定しないといけない」

 ―この問題の原因は。
 「患者が入院すると、医者は死なせないことを前提に治療する。患者本人の強い意志などよほどの条件がなければ、無駄と分かっていても患者に苦痛を強いてでも、高額の延命医療が無制限に続く。人間は必ず死ぬのに、死なないと思っているようだ」

 ―公平な医療とは何ですか。
 「年齢での制限を提唱すると、弱者を切り捨てるのかと言われるが、逆だ。弱者を切り捨てないための線引きが年齢だ。高齢者でも財産の有無や、社会貢献の度合いであなたは高い薬を使うことができますと言うのであれば、それは命の選別だ。年齢だけは、皆平等にとる。他にあるかと問えば“ない”と言うくせに、メディア含め、誰もが目を背け口を閉ざす」

 「手術をしても数年生きられるかどうかの重い障害のある子どもがいる。こうしたケースにコストをかけるのは社会的に意味があるのか。そう聞かれたことがある。私は“効率性”以前の問題として、小さな子どもなら手術をするべきだし、それは社会が負うべきコストだろうと思う」

 「医療の費用対効果は他とは違っていて、その人が生涯でもたらす経済効果は計算に入っていない。誰に対しても治療を行う。社会貢献度を基準に切り捨てるのは効率的だが、やってはいけない命の選別だ。まさにそうだからこそ、このまま無制限な医療を続けて後代をつぶしては何にもならない」
(聞き手=安川結野)

<略歴>
里見清一(さとみ・せいいち)氏 本名・国頭英夫(くにとう・ひでお)日本赤十字社医療センター化学療法科部長
86年(昭61)東大医学部卒業。90年横浜市民病院、96年国立がんセンター中央病院(現国立がん研究センター)、09年三井記念病院呼吸器内科。専門は呼吸器内科学・臨床腫瘍学。鳥取県出身、56歳。著書『医者の逆説』(新潮社)など

日刊工業新聞2018年5月21日

明 豊

明 豊
05月21日
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