政府の「環境基本計画」は市場ニーズを探る手がかかりになる
SDGsの考え方を取り込む
国は環境政策を定めた第5次環境基本計画を閣議決定した。環境保全が中心だった過去の計画と違い、経済や社会が抱える課題解決も目指す内容となっている。IoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)などの技術や金融の用語が盛り込まれており、企業には市場ニーズを探る手がかりとなりそうだ。
環境基本計画は6年ごとに見直しており、新計画は今後の政策の道しるべとなる。国連の2030年目標「持続可能な開発目標(SDGs)」の考え方を取り込んだのが特徴だ。
SDGsは別々に議論されがちな環境、経済、社会の問題を同じ土俵に乗せ、一緒に解決策を話し合える場を作った。国連は環境と社会の課題解決で経済メリットを生み出すように企業へ要請している。
新計画は「環境・経済・社会の統合的向上を具体化」と明記。「環境政策を契機に、あらゆる観点からイノベーションを創出」「地域資源を持続可能な形で最大限活用し、経済・社会活動をも向上」と方向性を示した。
これを具体化するため分野横断の六つの重点戦略を設定している。「経済」の戦略は、新しいビジネスを育てながら環境も改善する。
製品を共同所有するシェアリングエコノミー、製品の使用や保守などで対価を得るサービサイジングといった新しいビジネス形態を盛り込んだ。代表的なカーシェアリングは車の使用頻度が上がり、車に使われた資源が有効利用される。
サービサイジングによる保守で製品が長持ちするほど資源の使用が減る。成長力を備えた企業を選ぶESG(環境・社会・企業統治)投資、環境事業に資金を充てる債券「グリーンボンド」など新しい金融手法も拡大する。
「地域」の戦略では地域資源の活用と地方創生との相乗効果を引き出す。地方に豊富な森林資源のエネルギー利用や素材化で産業を興す。廃棄物も素材に再生したり、エネルギーにしたりして地域で資源を循環させる事業も創出し、環境ビジネスで地域に活力を生む。
「暮らし」ではICTを活用したテレワークの普及で通勤に伴う二酸化炭素(CO2)排出を減らすなど、働き方改革と連動した低炭素化を進める。
第五次環境基本計画は、環境相の諮問機関である中央環境審議会が議論した。委員である安井至氏(持続性推進機構理事長、東京大学名誉教授)、環境と金融に詳しい末吉竹二郎氏(国連環境計画・金融イニシアティブ特別顧問)に聞いた。
持続性推進機構理事長・安井至氏「自らの意思で未来戦略を」
―新計画は経済や社会の分野にも踏み込みました。
「SDGsには追いついたと思うが、パリ協定からは2年半遅れている。すでに海外は15年末の採択時から動いている。世界の変革に向けて会社を変えるとメッセージを出した日本企業が少ない」
―新計画は最新技術にも触れています。
「確かにIoTやAIが入ったが、足元のトレンドにすぎない。2050年以降の世界に今の技術がつながるのか疑問だ。将来の社会像を見て、もう少し先端の技術も書き込みたかった」
―企業にとって新計画は市場ニーズとして読めます。
「内容に合わせるような受け身ではダメ。書いてあることの一歩でも先を考えてほしい。自分たちの意思で、未来戦略を立案してほしい。どういう会社に変えたいのか徹底的に話し合い、夢とリスクを考えるべきだ」
―日本企業は長期戦略の策定が苦手です。
「パリ協定の神髄は“気候正義”にある。言語の問題があって日本人には想像しづらいが、欧米では将来を考えることが“正義”だ。温暖化を放置して海面が上昇し、将来の人が住めなくような非正義を犯したくない」
国連環境計画・金融イニシアティブ特別顧問の末吉竹二郎氏「取り組まなければリスク」
―新計画はESG投資など金融用語も入っています。なぜ金融が重要なのでしょうか。
「パリ協定が実践に入り、国際社会はお金が必要と気づいた。さまざまな報告で、パリ協定の実現には兆ドル単位の資金が必要と試算されている」
「ビジネスが問題を起こした。利益優先では解決しないため、経済構造の変革を迫られている。金融業界が変わろうとしており、旧態依然とした会社には資金を出さない」
―欧米の機関投資家は、CO2を大量排出する企業から資金を引き揚げ始めました。
「企業に対し、気候変動の進行で受けるリスクの開示を求める動きもある。財務データだけだった融資審査の文化が変わる」
―製造業にも変化をもたらしますか。
「“モノ”の考え方が変わった。持続可能で利益も出るモノが求められている。制度のイノベーションもある。環境や社会に配慮した商品でないと取引しない商業ルールができ始めた」
―日本の対応は。
「日本の経済界も世界の潮流に飲み込まれるが、それは10年後だ。いつも日本は10年遅れており、大きな損失となる。取り組まないとリスクをもたらすものとしてパリ協定とSDGsを見てほしい」
環境基本計画は6年ごとに見直しており、新計画は今後の政策の道しるべとなる。国連の2030年目標「持続可能な開発目標(SDGs)」の考え方を取り込んだのが特徴だ。
SDGsは別々に議論されがちな環境、経済、社会の問題を同じ土俵に乗せ、一緒に解決策を話し合える場を作った。国連は環境と社会の課題解決で経済メリットを生み出すように企業へ要請している。
新計画は「環境・経済・社会の統合的向上を具体化」と明記。「環境政策を契機に、あらゆる観点からイノベーションを創出」「地域資源を持続可能な形で最大限活用し、経済・社会活動をも向上」と方向性を示した。
シェアリングエコノミーなど重点戦略に
これを具体化するため分野横断の六つの重点戦略を設定している。「経済」の戦略は、新しいビジネスを育てながら環境も改善する。
製品を共同所有するシェアリングエコノミー、製品の使用や保守などで対価を得るサービサイジングといった新しいビジネス形態を盛り込んだ。代表的なカーシェアリングは車の使用頻度が上がり、車に使われた資源が有効利用される。
サービサイジングによる保守で製品が長持ちするほど資源の使用が減る。成長力を備えた企業を選ぶESG(環境・社会・企業統治)投資、環境事業に資金を充てる債券「グリーンボンド」など新しい金融手法も拡大する。
「地域」の戦略では地域資源の活用と地方創生との相乗効果を引き出す。地方に豊富な森林資源のエネルギー利用や素材化で産業を興す。廃棄物も素材に再生したり、エネルギーにしたりして地域で資源を循環させる事業も創出し、環境ビジネスで地域に活力を生む。
「暮らし」ではICTを活用したテレワークの普及で通勤に伴う二酸化炭素(CO2)排出を減らすなど、働き方改革と連動した低炭素化を進める。
中央環境審議会委員に聞く
第五次環境基本計画は、環境相の諮問機関である中央環境審議会が議論した。委員である安井至氏(持続性推進機構理事長、東京大学名誉教授)、環境と金融に詳しい末吉竹二郎氏(国連環境計画・金融イニシアティブ特別顧問)に聞いた。
持続性推進機構理事長・安井至氏「自らの意思で未来戦略を」
―新計画は経済や社会の分野にも踏み込みました。
「SDGsには追いついたと思うが、パリ協定からは2年半遅れている。すでに海外は15年末の採択時から動いている。世界の変革に向けて会社を変えるとメッセージを出した日本企業が少ない」
―新計画は最新技術にも触れています。
「確かにIoTやAIが入ったが、足元のトレンドにすぎない。2050年以降の世界に今の技術がつながるのか疑問だ。将来の社会像を見て、もう少し先端の技術も書き込みたかった」
―企業にとって新計画は市場ニーズとして読めます。
「内容に合わせるような受け身ではダメ。書いてあることの一歩でも先を考えてほしい。自分たちの意思で、未来戦略を立案してほしい。どういう会社に変えたいのか徹底的に話し合い、夢とリスクを考えるべきだ」
―日本企業は長期戦略の策定が苦手です。
「パリ協定の神髄は“気候正義”にある。言語の問題があって日本人には想像しづらいが、欧米では将来を考えることが“正義”だ。温暖化を放置して海面が上昇し、将来の人が住めなくような非正義を犯したくない」
国連環境計画・金融イニシアティブ特別顧問の末吉竹二郎氏「取り組まなければリスク」
―新計画はESG投資など金融用語も入っています。なぜ金融が重要なのでしょうか。
「パリ協定が実践に入り、国際社会はお金が必要と気づいた。さまざまな報告で、パリ協定の実現には兆ドル単位の資金が必要と試算されている」
「ビジネスが問題を起こした。利益優先では解決しないため、経済構造の変革を迫られている。金融業界が変わろうとしており、旧態依然とした会社には資金を出さない」
―欧米の機関投資家は、CO2を大量排出する企業から資金を引き揚げ始めました。
「企業に対し、気候変動の進行で受けるリスクの開示を求める動きもある。財務データだけだった融資審査の文化が変わる」
―製造業にも変化をもたらしますか。
「“モノ”の考え方が変わった。持続可能で利益も出るモノが求められている。制度のイノベーションもある。環境や社会に配慮した商品でないと取引しない商業ルールができ始めた」
―日本の対応は。
「日本の経済界も世界の潮流に飲み込まれるが、それは10年後だ。いつも日本は10年遅れており、大きな損失となる。取り組まないとリスクをもたらすものとしてパリ協定とSDGsを見てほしい」
日刊工業新聞2018年5月2日