好調な化学産業にシンガポールが浴びせる“冷や水”

2019年に炭素税導入

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住友化学のシンガポール合弁会社のエチレンプラント
 シンガポールが2019年から導入する炭素税は好調な化学産業に冷や水を浴びせる。住友化学や三井化学など日本企業も多く進出し、業績を支える主力工場というケースも少なくない。温室効果ガス排出量に応じて課税されるため、エネルギー多消費産業にとって新たなコスト上昇要因となる。気候変動対応の重要性は共有されているものの、製品への価格転嫁や立地競争力低下という現実問題も無視できない。

競争力の維持


 「シンガポール政府は何を考えているのか。人件費などが東南アジアの他国より高く、競争力の源泉をどうやって維持するかが課題のはずなのに」と化学大手首脳は嘆く。

 シンガポールは東南アジア最大の石油化学産業の集積地であり、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルや米エクソンモービルなど世界のエネルギー・化学大手がずらりと並ぶ。日本の主要な化学関連企業も約15社進出している。

 「東南アジア全体で炭素税導入の動きになるならイコールフッティングになるから良いが、1国だけ先行すると話が違う」(化学大手首脳)と他国製品との市場競争で不利になりかねない。シンガポールの国内市場は小さく、もともと各社にとって域内向けの輸出基地という位置づけだからだ。
  

 一方で、別の化学大手首脳は「炭素税導入は時代の流れだ。『けしからん』と言っても仕方がない」と冷静に受け止める。エネルギー多消費産業の宿命であり、省エネルギーや温室効果ガス排出削減に向けて今まで以上に取り組むしか道がないのは確かだ。

 炭素税の課税対象となる住友化学はシンガポールに合弁会社を含めて巨大な石化工場群を持つ。基礎化学品のエチレンをはじめ、汎用樹脂のポリエチレンやポリプロピレン、アクリル樹脂原料のメタクリル酸メチル(MMA)など幅広く生産している。

風向きが変わる 


 同社の石化部門は近年の市況高を追い風に絶好調で、そのけん引役がシンガポールだった。今回の炭素税は域内屈指の競争力だった製品のコストアップとなり、風向きが変わる可能性がある。

 今夏に合弁会社で予定するエチレンプラントの定期修理に合わせてコンプレッサーなどを更新する。蒸気などの使用量を従来より抑えられ、省エネにつながるという。

 三井化学グループがシンガポールで2016年に営業運転を始めた特殊ポリエチレンプラント

 同じく対象の三井化学も同国に樹脂や農薬の原料に使うフェノールなどの工場を構える。16年夏に営業運転を始めたばかりの特殊ポリエチレンプラントもある。加えて、19年以降に既存の樹脂改質材製造設備をデボトル(改良)増強する方向で検討しており、炭素税は積極的な事業拡大の逆風となりそうだ。

増税分を転嫁


 他にも三菱ケミカルは利益の稼ぎ頭であるMMAを、旭化成が低燃費タイヤ用合成ゴムの溶液重合法スチレンブタジエンゴム(S―SBR)を生産している。炭素税の課税対象ではないが、石油会社などから調達する原料に増税分が価格転嫁されるため、「マーケットに影響が出るので今後の動向を注視していく」(三菱ケミカル)という。発電事業者への課税により用役コストが増大するとの見方も出ている。

「石化立国」曲がり角


 ただ、シンガポール政府も工業総生産高の25%を占める基幹産業の新たな負担を理解している。税導入後最初の5年間は温室効果ガス削減のプロジェクトを支援する方針。今のところ具体化していないが、省エネ設備投資への補助金などが創設される可能性はある。

 シンガポールは安定した政治・社会情勢や公用語の英語、インフラなどの点でまだ優位性を保つ。ただ、中国や中東に加えてインドなども台頭し、アジア市場の競争はより激しくなりそう。
三井化学グループがシンガポールで営業運転を始めた特殊ポリエチレンプラント

日刊工業新聞2018年5月1日

COMMENT

鈴木岳志
編集局第一産業部
編集委員

19年は小国による石化立国の曲がり角となり、各社にとってもグローバル生産体制を見直す契機となるかもしれない。

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