「悪」から民主主義を考える

【著者登場】山内昌之氏『悪の指導者(リーダー)論』

 ―この時期に「悪の指導者」について書いた理由は。
 「民主主義の下で選挙という合法的な手段をとっているが、結果は平等でなく独裁に導かれることがある。あるいは実質上民主主義的とは言えないような操作された選挙により生まれたリーダーも存在する。そのような独裁者らが2016年から17年にかけ国際政治に影響を与えた。18年もロシアの大統領選などその動きは続く。この機会に政治と独裁、民主主義と独裁について議論してみたいと思った」

 ―過去ヒトラーやムソリーニら独裁者が同時期に現れました。
 「独裁者といってもいろいろ類型がある。ヒトラーなどはある政党の特殊なイデオロギーの下で熱狂的に人々の意識を変えていった。今の北朝鮮はそれに近いが、米国のトランプ大統領やロシアのプーチン大統領は異なる。米国の歴史学者ハルガルテンは著書でカエサルやスッラ、クロムウェル、レーニン、スターリン、毛沢東などを扱い、疑似革命独裁、革命独裁、反革命独裁など類型化している」

 ―独裁者を生み出す要因は。
 「ヒトラーらの場合は大戦の敗北による賠償金支払い、国民生活の窮乏とマルクの暴落、大恐慌などが影響し、一種のポピュリズム現象が生じた。人道的、道徳的、政治的に可能かどうかにかかわらず『救済』に説得力をもった考え方がヒトラーやムソリーニの権力の基盤を押し上げた。時代や背景は違うが、トランプ大統領やトルコのエルドアン大統領なども現代の社会で自国ファースト、雇用問題を重視しており、市民の期待を担って登場した。そういったタイプの政治が独裁者を生み出す」

 ―独裁者は戦争を引き起こすきっかけになりうるのでしょうか。
 「独裁者が出たから戦争が起こるといった単純な問題ではない。独裁者の有無にかかわらず、国と国との関係はいろいろな摩擦や衝突がありうるし、絶えず他国に対して自分の利益を主張するものだ。日本人は中国を平和国家だと思っているなど認識が甘く、事実を突きつけられないと動かないのが現状だ。また、政治家が本来持つべき洞察力や予見力を欠いている。我々の意思とは無関係に動く歴史と向かい合っていくこと、日本は独裁者とどう立ち向かっていくかということを考えてほしいというのも本書の目的だ」

 「『戦争と平和』は永遠の問題で、プラトンや孔子も平和論を考えている。ただ、平和を守るには何らかの守るための機能としての力が必要。日本では平和憲法を名乗っていれば戦争は起きないと主張する人もいるがそれは幻想。平和の実現には、国防や安全保障についてもしっかり考える必要がある」

 ―「悪の指導者」の「悪」とは。
 「日本史では『悪左府(藤原頼長)』や『悪源太(源義平)』など人に害をあたえるほど強いことを『悪』と呼んだが、彼らは共通して強い決心の持ち主だ。中国故事には大きな目標のためには親をも犠牲にする『大義親を滅す』とある。政治家は大悪で人々に悲劇をもたらすか、小悪で問題を解決することで人々を救うか判断しなければならず、民主主義においては後者にならざるを得ないと本書では主張したかった」
(聞き手=横浜・増田晴香)

山内昌之(やまうち・まさゆき)氏 武蔵野大学 国際総合研究所特任教授・東大名誉教授
93年(平5)東大学術博士。現在、東大名誉教授、武蔵野大学特任教授、三菱商事顧問、フジテレビジョン特任顧問。北海道出身、70歳。
『悪の指導者(リーダー)論』2017年、小学館

日刊工業新聞2018年4月16日

平川 透

平川 透
04月16日
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先のことを考えていくにあたって、歴史はすごく参考になります。

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