クルマの新開発手法「MBD」、国も普及に本気!?
継続的に管理・拡充する仕組みを20年までに構築
経済産業省は、自動車などの新たな開発手法「モデルベース開発(MBD)」を普及させるため、導入用の指針と準拠モデルを継続的に管理・拡充する仕組みを2020年までに構築する。自動車や自動車部品メーカーが参画する運営主体の設置を目指す。18―20年度に予定する補助金事業が終了した後も、民間主導で指針などが運用され、サプライチェーン全体へMBDが浸透するよう促す。開発を効率化できるMBDの普及により、産業競争力を底上げする。
MBDは仮想空間での設計、検証を大幅に増やす新たな開発手法。組み込みシステムなどの構造を数理モデルに落とし込み、部品など構成要素の関係性を仮想的に検証できる。実機検証の回数を減らせるため、開発効率化を目的にマツダなど自動車メーカーが採用し始めている。
経産省は自動車業界関係者が参加する研究会の検討結果として、17年3月に導入用の指針と企業間の協調領域で利用できる準拠モデルを公開。MBDをこれから導入する中小部品メーカーなどが参照できるようにした。
ただ指針と準拠モデルは、まだ燃費検証用途に対応したものしかなく「もっと拡充が必要」(研究会関係者)。このため経産省は、指針や準拠モデル、競争領域の詳細モデルなどの開発を支援する事業を18年度から3年間の計画で実施予定。
特に、指針と準拠モデルを業界で共有するには管理運営主体が必要なため、新組織の創設を検討する。これにより、国の支援事業が終わっても民間の力でMBDの普及が進むようにする。
量産型モノづくりの典型である自動車開発のあり方が、大きく変わり始めた。実機を試作して実験を繰り返すのではなく、数理モデルを用いてコンピューター上でシミュレーションし、さまざまな性能を高める「モデルベース開発(MBD)」という手法が主流になりつつある。
自動運転や“つながる車”などで車載ソフトの大規模化が進めば、MBDへのシフトはさらに進む。その流れは、サプライチェーン全体の変革を引き起こすかもしれない。
「2019年に出すEV(電気自動車)。そこで車全体に適用しようとしているMBDこそ、マツダの強みだ」―。17年8月、トヨタ自動車との資本業務提携の具体策を発表する会見で、丸本明マツダ副社長は強調した。
マツダが自ら“強み”と位置付けるMBDは、苦しい中で磨いてきた開発方法だ。04年にMBDによる開発に着手。超円高のもと、12年3月期まで4期連続の当期赤字を計上していた時でも、コンピューターへの投資だけは続けた。
12年2月に発売したスポーツ多目的車(SUV)「CX―5」から全面的に採用した「スカイアクティブ」技術で、エンジン、変速機、車体骨格、足回りと、主要部品を一気に刷新できたのはMBDで開発を効率化したからこそ。特にエンジン開発では「燃焼のメカニズムをモデル化できたことが一番のポイントになった」(足立智彦統合制御システム開発本部首席研究員)。
当時、数理モデル化した項目は、エンジン燃焼などパワートレイン機器全体で約700項目にのぼった。現在進めている車1台丸ごとのMBDでは、さらにこれが数万項目に膨らむ。
ここまで大規模化すれば、社外の力が必要になる。「取引系列を超えて部品のモデルをやりとりできるようになることと、人材育成。マツダのMBD戦略を実行する上で、この二つが不可欠」(同)。部品メーカーにとっても、取引先ごとに異なった仕様のモデルが必要になれば、膨大な工数の無駄を生むことになる。
経済産業省が主要自動車メーカーや部品メーカーを巻き込んで策定し、17年3月に公表したガイドラインは、こうした課題を解決するためのものだ。仕様を標準化することで、一度作った部品のモデルが、さまざまな自動車メーカーをまたがって“流通する”ようになる。
「モデルを使うことで、開発のできるだけ早い段階から部品メーカーと(車種ごとの)すりあわせ開発ができるようにしたい」(同)。モデルという“仮想的な部品”をやりとりしながら車の開発が進む世界が、現実のものとなりつつある。
MBDは仮想空間での設計、検証を大幅に増やす新たな開発手法。組み込みシステムなどの構造を数理モデルに落とし込み、部品など構成要素の関係性を仮想的に検証できる。実機検証の回数を減らせるため、開発効率化を目的にマツダなど自動車メーカーが採用し始めている。
経産省は自動車業界関係者が参加する研究会の検討結果として、17年3月に導入用の指針と企業間の協調領域で利用できる準拠モデルを公開。MBDをこれから導入する中小部品メーカーなどが参照できるようにした。
ただ指針と準拠モデルは、まだ燃費検証用途に対応したものしかなく「もっと拡充が必要」(研究会関係者)。このため経産省は、指針や準拠モデル、競争領域の詳細モデルなどの開発を支援する事業を18年度から3年間の計画で実施予定。
特に、指針と準拠モデルを業界で共有するには管理運営主体が必要なため、新組織の創設を検討する。これにより、国の支援事業が終わっても民間の力でMBDの普及が進むようにする。
マツダの「MBD」、丸っと早わかり
量産型モノづくりの典型である自動車開発のあり方が、大きく変わり始めた。実機を試作して実験を繰り返すのではなく、数理モデルを用いてコンピューター上でシミュレーションし、さまざまな性能を高める「モデルベース開発(MBD)」という手法が主流になりつつある。
自動運転や“つながる車”などで車載ソフトの大規模化が進めば、MBDへのシフトはさらに進む。その流れは、サプライチェーン全体の変革を引き起こすかもしれない。
「2019年に出すEV(電気自動車)。そこで車全体に適用しようとしているMBDこそ、マツダの強みだ」―。17年8月、トヨタ自動車との資本業務提携の具体策を発表する会見で、丸本明マツダ副社長は強調した。
マツダが自ら“強み”と位置付けるMBDは、苦しい中で磨いてきた開発方法だ。04年にMBDによる開発に着手。超円高のもと、12年3月期まで4期連続の当期赤字を計上していた時でも、コンピューターへの投資だけは続けた。
12年2月に発売したスポーツ多目的車(SUV)「CX―5」から全面的に採用した「スカイアクティブ」技術で、エンジン、変速機、車体骨格、足回りと、主要部品を一気に刷新できたのはMBDで開発を効率化したからこそ。特にエンジン開発では「燃焼のメカニズムをモデル化できたことが一番のポイントになった」(足立智彦統合制御システム開発本部首席研究員)。
当時、数理モデル化した項目は、エンジン燃焼などパワートレイン機器全体で約700項目にのぼった。現在進めている車1台丸ごとのMBDでは、さらにこれが数万項目に膨らむ。
ここまで大規模化すれば、社外の力が必要になる。「取引系列を超えて部品のモデルをやりとりできるようになることと、人材育成。マツダのMBD戦略を実行する上で、この二つが不可欠」(同)。部品メーカーにとっても、取引先ごとに異なった仕様のモデルが必要になれば、膨大な工数の無駄を生むことになる。
経済産業省が主要自動車メーカーや部品メーカーを巻き込んで策定し、17年3月に公表したガイドラインは、こうした課題を解決するためのものだ。仕様を標準化することで、一度作った部品のモデルが、さまざまな自動車メーカーをまたがって“流通する”ようになる。
「モデルを使うことで、開発のできるだけ早い段階から部品メーカーと(車種ごとの)すりあわせ開発ができるようにしたい」(同)。モデルという“仮想的な部品”をやりとりしながら車の開発が進む世界が、現実のものとなりつつある。
日刊工業新聞2018年4月4日