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授業に創造性をー。アドビ×SFC×奈良が目指す未来の教育とは?

授業レシピをもとに実践型ワークショップ「つくりかたの未来講座」
 今月17日の土曜日、奈良県立磯城野高校で最新の情報技術を用いたものづくりワークショップ「つくりかたの未来講座」が開催され、奈良県内の高校生34名が学校の枠を越えて参加した。イベントの主催は慶應義塾大学SFC研究所ファブ地球社会コンソーシアムの高大連携教育ワーキンググループチーム(高大連携WG)。同グループが開発した“授業レシピ”をもとにワークショップが進められ、創造的な授業を教育現場でどう展開していくべきかを考察する場として、約20名の教職員が視察に訪れた。

 ワークショップではソニーの「MESH」、トロテックのレーザーカッター、アドビシステムズの「illustrator」などが使用され、高校生たちは自分のアイデアが直感的にカタチになる、未来のものづくり授業を体験した。

授業レシピ開発の背景:創造性に欠ける日本の教育


 高大連携WGは、ものづくりの未来を担う人材を育成するために慶應SFCを中心に発足し、アドビやヤマハなどの民間企業、奈良県教育委員会が参画している。

 授業レシピの開発に至った背景には、これからの社会で必要とされる創造性という能力と、それを伸ばすための情報教育に対して、生徒や教師が不安を抱えているという現状があった。

 アドビが実施した、日・米・英・豪・独の5カ国における12ー18歳の生徒とその教師たちを対象にした調査によると、日本の生徒は、自らのことを「創造的」だと捉えている割合がわずか8%で、他国の同世代の平均44%と比べて圧倒的に低いことが分かった。

 また日本の教員の約7割が、創造的課題解決能力を育成するためのツールや学習機会が学校教育の現場で不足していると回答。教育現場からは「情報教育の重要性は分かるがどのように授業を進めてよいかわからない」という声が上がっていた。

 この調査結果を受けて、創造的な情報教育の実践を支援するために、授業レシピの開発が始まった。授業レシピは「Fabble」というレシピサイトにて無料で入手可能だ。

 ファブリケーション機材を活用した授業の作り方だけではなく、授業で使えるアイデアシートやスケッチシートも提供する。レシピをもとに実施された授業・ワークショップはサイト上に掲載され、誰でも自由に閲覧・コメントすることができる。

 オンラインで共有できるということが、教職員の不安を改善する大きな仕掛けの一つ。千葉県のデザイン専門学校から視察に訪れた教員は「情報技術の発展スピードは恐ろしいほど早く、去年学んだことが一年経つと古くなっている。教員も常に学び続けないといけないので、情報をシェアできるFabbleには期待している。外部に情報を出したがらない学校の風習のようなものが改善すればいい」と話す。

ワークショップ:「掃除」をテーマにものづくり


 ワークショップでは「掃除」をテーマに、課題発見からアイデア出し、商品のプロトタイプ作成までを行った。生徒約5人に、ヤマハやオリンパスの社員がメンターとして一名、奈良県の教員が一名参加して一つのグループを作った。

 まずは、なぜ掃除をすることに対して億劫になるのか議論を交わし、「片付ける時に不要なものが分からない」「そもそも楽しくない」などのテーマに隠れた課題を見つけることから始めた。課題が見つかったら、それを解決するためのアイデアを各々の生徒がスケッチしていく。
設定した課題を解決するためのアイデアをスケッチ 

 実現させたいアイデアが決まったら、アイデアを形にするためにグループ内で役割を分担した。illustratorを用いてデザインデータを作成し、レーザーカッターで形を作るデザイン担当。MESHを用いて形に機能を持たせるプログラミング担当。Fabbleに製作プロセスを記録・編集してプレゼン資料を作成するプレゼン担当。この三つに分かれて作業を進めた。
MESHタグと専用アプリによるプログラミングの様子

 ワークショップにて用いられたソニーのMESHは、小さなブロックの形をした電子タグで、それぞれ動きセンサー、ライト、ボタン、明るさセンサー、温度センサーなどのさまざまな機能を持つ。

 MESH専用アプリでプログラミング言語を知らなくても、簡単に機能を組み合わせることができる。例えば動きセンサーが特定の動きを感知したら、スマートフォンへ通知がいくなど、タグの組み合わせによって無限の可能性が生まれる。
レーザーカッターをのぞき込む生徒と作成したチームロゴ 

 ワークショップは約6時間という短い時間ながら、生徒たちはプロトタイプを作成するまで力を振り絞った。あるグループは「掃除の作業自体を楽しくする」という課題を設定、ほうきを動かすたびに拍手の音や、ギターの音、歌声などが鳴り、掃除することでバンド演奏ができるというアイデアを発案。

 ほうきの柄の部分に動きセンサーのタグを取り付け、床を掃くたびに音が鳴る仕組みを構築した。実演の際、きれいな演奏にはならなかったが会場を大いに盛り上げた。
 

奈良で進む教員のICT活用


 なぜ高大連携WGに奈良県教育委員会が所属しているのか。なぜ奈良県の高校で今回のワークショップが開催されたのか。14年、ICT活用が遅れている奈良県の県立高校にアドビのツールが全面導入されたことに遡る。

 文科省の「平成25年度 都道府県別教員のICT活用指導力の状況(全校種)」の調査結果で、奈良県は最下位に。この結果に危機感を抱いた奈良県教育委員会は、アドビとクリエイター向けプロツールであるCreative Cloudの包括ライセンス契約を締結。県立校の教員がアドビのソフトウェアを自由に活用できる環境を整備した。
奈良県教育研究所副所長の石井氏(右)と松下氏(左)
 
 そして現在、アドビとのつながりをもとに、教育行政の立場として高大連携WGに参画し、授業レシピを実践する場を提供している。

 アドビ教育市場営業部担当部長の楠藤倫太郎氏は、「子どもたちに新しい技術に触れてもらい、アイデアを直感的にカタチにできる、新たなものづくりの楽しさを知ってもらいたい。子どもたちが感じている、ものづくりやICTに対するハードルを取り払う。そのためにはとにかく体験の場を増やしたいので、教育行政が参画している意義は大きい」と話す。

 また、奈良県教育委員会は「教育エヴァンジェリスト」というICT活用の知見を教育現場に伝えていくポジションを設置。今回のワークショップにもエヴァンジェリストの方々が参加している。

 エヴァンジェリストの松下征悟氏は、磯城野高校で農業を専門科目で教えている。「情報教育の授業だけではなく、科学や社会、畜農などすべての授業でICTを活用した授業を展開できるようにすることが目標」と松下氏。

 SFC研究所 准教授・高大連携教育WGリーダーの中澤仁氏も「奈良県と私たちが目指しているのは、ICT教育ではなくICT“活用”教育」と語る。情報という授業でICTについて教えるのは当たり前。全ての授業でICTを活用して教育効果を高めるのが狙いだ。

 ワークショップのプログラムが終了後、視察に来ていた教職員とエヴァンジェリストによる研修会が開かれた。プログラムの進め方の改善点や、学校の授業にどう取り入れていくかなど、ワークショップから見えてきたことを話し合った。

 奈良県では今回のワークショップのような実践を定期的に開き、子どもたちの体験を増やすと同時に、教員の研修と授業のブラッシュアップを進めていく。
教員の気づきをホワイトボードに蓄積

(文=大森翔平)
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日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
下の世代がこのような教育環境で成長する、ということを考えると、少し上の世代の自分としては羨ましいような怖いような気持ちになります。一度挫折しましたが、HTMLからもう一度勉強してみようと思います…。 (日刊工業新聞・大森翔平)

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