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東芝メモリ・WD、打倒サムスンへ再び手を握り動き出す

雨降って地固まる?すんなり元通りという訳にはいかない?
東芝メモリ・WD、打倒サムスンへ再び手を握り動き出す

今後の協力を誓い合う東芝メモリの成毛社長(左から3人目)、WDのシバラムEVP(右から3人目)

 東芝の半導体メモリー子会社、東芝メモリ(TMC、東京都港区)と米ウエスタンデジタルが、NAND型フラッシュメモリー市場の覇権を奪うべく、再び手を取り合い動きだした。15日にはTMC四日市工場(三重県四日市市)に、共同開発拠点 「メモリ開発センター」を開設する。TMCの売却を巡り泥沼のケンカを繰り広げた両社。和解を経て再び打倒・韓国サムスン電子の目標に向かい、相乗効果を生み出せるか。

 「技術が複雑になる中、両社の連携で開発効率を高めて競合の先を行きたい」「リーダーシップを取るには協力関係が大切だ」―。同センターの始動を前に、TMCの成毛康雄社長とWDのエグゼクティブバイスプレジデント、シバ・シバラム氏は、良好な関係を強調した。

 同センターは、四日市工場内のTMCとWDの技術者、計2000人を集約。最先端メモリーを開発する。東芝本体に残る次世代メモリーの開発部隊の一部も集約する予定。TMCは2―3年内に技術者を500人増員し、強化する方針だ。生産設備についても、両社で共同投資する方針を確認。両社は次の協業ステージに踏み出した。

 ただ、両社を知る業界関係者からは、不安の声が漏れる。「あれだけの泥沼劇を繰り広げて、すんなり元通りという訳にはいかないだろう」。和解したが工場建屋や量産プロセスなど、生産をTMCが主導する構図は変わらない。3年後をめどとする新規株式公開(IPO)の際に、再びWDが権利を主張するのではとの懸念がつきまとう。

 和解に際し結び直した両社の合弁会社3社の契約期限は、27年と29年。長期的な視野を見据えている。「現時点では17年のいろいろな問題による開発の遅れはない。センターの開設を機に、さまざまな部分を強化する」(成毛社長)。

 中国の独占禁止法審査が通れば、TMCの売却は完了する。成毛社長は「3月末に間に合わずとも4、5、6月のどこかで必ず完了できると思っている」とした。売却が完了すると利害関係者はさらに複雑になる。関係者全てが一枚岩とならなければ、サムスンの背中は遠くなる一方だ。

 シバラム氏は「雨降って地固まる」ということわざを挙げ「英語ではウィズアウト・レイン、ゼア・イズ・ノー・レインボー(雨がなければ虹も出ない)と言う。私たちにとっての虹は、この開発センターだ」と笑顔を見せた。周囲の懸念を吹き飛ばせるかは、今後のTMCとWDの協業の行方次第だ。
(文=政年佐貴恵)
日刊工業新聞2018年3月12日
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
フォトセッションや会見では成毛氏とシバ氏双方に笑顔が弾け、両社でNAND事業のさらなる発展を目指す意気込みが感じられた。心配なのはTMC売却が完了した後。産業革新機構やベインキャピタルといったファンドに加え、顧客であり出資元であるアップルなど米IT4社の関与が懸念される。TMCの経営陣がどう舵取りをしていくのかがポイントになる。

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