「産業のコメ」再び、米中欧が半導体強化に動く。日本は戦略見えず

IoT社会の競争基盤に

 日本の半導体政策が岐路に立っている。東芝の半導体メモリー子会社「東芝メモリ」売却交渉での紆余(うよ)曲折は、日本が半導体産業をどう位置付けるか、という課題を浮き彫りにした。IoT(モノのインターネット)社会では、工場、自動車、データセンター、モバイル端末など、半導体を使用する数と領域は確実に広がる。各国・地域が将来を見据え、半導体産業振興に動き出した。半導体戦略を再考するタイミングが到来している。

東芝メモリ、日本企業の出資はHOYAのみ


 「きっと外資に売られるんだろう」。東芝メモリの中堅社員は、同社の売却交渉が混迷していた時期の心境をこう振り返る。半導体業界は、M&A(合併・買収)による成長が主軸だ。外資系企業やファンドは高いリターンを求め、リスクを取ってでも素早く動く。

 東芝メモリの売却交渉の過程で政府は「世界トップレベルのメモリー会社を日本に残さねばならない」という正論を掲げた。当初は日本企業からの出資を中心に、産業革新機構や日本政策投資銀行と併せた「日本連合」が引き受ける方向で調整していたが、企業からの出資は集まらなかった。

 半導体事業は巨額の設備投資が必要だ。技術革新スピードが速く、約4年周期で好不況を繰り返す「シリコンサイクル」の変動も大きい。

 90年代以降、国内では半導体部門を切り離す大リストラが相次いだ。血を流してリスクを絶った各社が、再び半導体に手を出すのは難しい。

 生き残った半導体各社も、業界としての競争力強化という面では課題を抱える。リストラ主導で再編が進んだ上に専業化したため、「自社の経営戦略が最優先で、業界としてまとまって(支援などに)動こうとする機運は高くない」(業界団体関係者)。

 結局、東芝メモリに出資した日本企業は、HOYAのみ。ある財界関係者は「半導体は第4次産業革命の要。国内から手を挙げる所が一つも出てこないことが問題だ」と断じた。

 半導体製造装置メーカーの首脳は「材料、装置、部品と日本には強い産業が集積する。その育成基盤である半導体そのものに、国としてもっと力を入れるべきだ」と訴える。

 欧米や中国は政策レベルで半導体産業の強化に動いている。“100年に一度”とも言われる産業構造の変革のカギを握る半導体分野でどのような戦略を描くのか、のんびり考えている時間はない。

新たな強敵・中国、米に危機感


 欧米、日本の強敵になりそうなのが中国だが、製造業振興のための長期プラン「中国製造2025」を15年に策定。半導体を「IC産業のコア」として、重点分野に据えた。現状10%程度の半導体チップや部品、素材の自給率を20年までに40%に、25年までに70%に引き上げることが目下の目標だ。

 14年に策定した「国家集積回路産業発展推進綱要」では、半導体自給率向上を表明し、政府と民間の合計で今後1000億―1500億ドルの資金投入を見込む。こうした資金による設備投資が進み、中国の18年の半導体生産量は、300ミリメートルウエハー換算で17年比42・2%増の月産70万枚に増えるとの予測がある。

 富士通総研の趙瑋琳上級研究員は「(中国政府は)ICTの分野ではアリババなど代表的な企業が台頭してきた一方で、半導体は依然弱いとの見方をしている」と指摘。「半導体はIoTや人工知能(AI)の進展に関わる重要技術との位置付け。有力企業への投資やM&A、高額報酬による人材獲得などで強化を図っている」と説明する。

 こうした動きに敏感に反応しているのが、世界半導体売り上げランキングトップ10のうち6社を占める半導体大国の米国だ。

 17年には「半導体市場の世界的リーダーを目指す中国の野望が、米国の半導体産業にとっての脅威となる」との報告書を公表。17年9月には、トランプ大統領が中国関連ファンドによる米半導体メーカーの買収を阻止した。中国をはじめ外資企業による自国企業の買収を阻止することで、リーダーの座を維持する姿勢だ。

 調査会社、米ガートナーのリサーチ・ディレクター、ジョン・エレンセン氏は「政府は半導体産業を戦略的に見ており、外国の会社、特に中国の会社から米企業が買収されるのを拒否することで、その権利を保護している」と説明。「米国は半導体産業でのリードを保つべく行動するだろう」との見方を示す。

 欧州でも大規模な研究開発支援プログラム「ホライズン2020」が進んでいる。欧州委員会は「半導体産業は自動車や航空機、(ヘルスケアデータなどを活用する)eヘルスなど今後大きな発展が見込まれる市場の基幹であり、欧州の半導体産業の停滞はその他主要産業の停滞にもつながりかねない」と指摘する。

 ホライズン2020の傘下にマイクロ・ナノエレクトロニクス産業の産学官連携プロジェクト「ECSEL」を策定。24年までに計50億ユーロの投資を視野に入れる。

 ECSELには、すでに1000を超える企業・団体が参画している。17年には、12の新規プロジェクトを追加。EUや参加国などによる1億7300万ユーロの拠出を決めた。富士通総研のマルティン・シュルツ上級主任研究員は「インダストリー4・0(I4・0)が欧州の最重要テーマ。エレクトロニクスはそのコアとの位置付けで、関連する技術はほぼカバーできる」と説明する。

「デバイスだけで勝負する時代ではない」


 日本も、半導体でもう一度戦おうと動き始めた。経済産業省は18年度に計108億円の予算を割り当て、AI半導体の開発事業を実施する。

 機器や端末側でのデータ収集と蓄積、解析までをトータルでできる環境を整える。AI半導体の設計ツールや検証ツールの開発、超低消費電力技術などの確立を目指し、AIやIoTの分野でリードする考えだ。田中伸彦デバイス・情報家電戦略室長は「ソフトウエアとハードウエア、一体で基盤開発が必要だ」と説明する。

 そのため半導体メーカーだけでなくソフトウエア、研究機関、ユーザーも含めた体制を構築する計画。再編によりメーカーの専業化が進んだからこそ、同じ半導体メーカーでも役割分担しながら、垂直方向での相乗効果を出しやすい。「デバイスだけで勝負する時代ではない」(田中室長)。

 元東芝副社長で、エッジコンピューティングプラットフォームの開発を手がけるデバイス&システム・プラットフォーム開発センターの斎藤昇三会長は「モノづくりの中心である半導体に対するスタンスは、以前と変わってきた。危機感は高まっている」と指摘する。

 「日本版の新しい半導体ビジネスを創造できるかの挑戦だ」(斎藤会長)。この取り組みで成果を挙げなければ、IoT時代の競争力にも影響しかねない。
                     

(文=政年佐貴恵)

日刊工業新聞2018年2月22日

政年 佐貴惠

政年 佐貴惠
02月25日
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日本の半導体は弱体化しているとみられている。一時は経産省内で「石(チップ)は外から買ってくればいい」との意見が強くなっていたこともあるという。もちろん、日本は半導体ではない別の産業で生き残るという道もあるだろう。ただ世界の動きはプラットフォームを押さえることで勝つ、という流れになっている。IoT、インダストリー4.0、自動運転、人工知能の世界で、ハードのプラットフォームの一角を担うのは半導体と言える。そこを他人任せにして将来の勝ち筋を描けるのか。産業界は困ったらお上に頼ればいいというものでもないし、国が民間の経営に口を出しすぎるのもどうかと思う。しかし各国の半導体に対するスタンスを見ると、危機感も覚える。日本にはセンサーなどに使われる旧世代の直径200mmウエハーのファブも多い。強みは何か、どの分野なら勝てるかなど、過去の経験も生かして未来につなげてほしい。

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