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中小企業が航空機産業に参入する登竜門が神戸にあった!

非破壊検査トレーニングセンター、“品質人材”を国内で育成へ
中小企業が航空機産業に参入する登竜門が神戸にあった!

磁粉探傷装置で材料の欠陥の有無を判別する(イメージ)

 兵庫県が神戸市須磨区に開設した航空産業非破壊検査トレーニングセンター。米国の航空宇宙規格「NAS410」に準拠した国内初の検査員養成機関で、航空機産業の参入など事業拡大を目指す中小企業からも注目される。2017年12月に初回の磁粉探傷講習、18年2月には浸透探傷講習が行われ、各講習で5人の受講者が課程を修了。利用者は渡米せず検査員の訓練が可能になったが、課題も浮き彫りになった。

 航空産業非破壊検査トレーニングセンターは磁粉探傷(MT)、浸透探傷(PT)、超音波探傷(UT)試験の三つの講習を行う。各試験方法でレベルは3段階(数字が大きいほど技術レベルが高い)あり、同センターでは航空機部品の合否判定ができる「レベル2」技術者育成の訓練を行う。 

 川西航空機器工業(兵庫県川西市)は、米国規格に基づき「レベル3」(技術者の訓練・試験・認証を行える)の非破壊検査員を2人抱える。うち1人が高齢のため、後進の育成を急いでいる。

 同センターに若手技術者1人を送り、将来的には自前で「レベル3」まで育てる計画だ。同社は航空機部品などの設計、製造、品質保証の一貫生産体制が強みで、売上高の約8割が防衛省など国の機関向けだ。将来的には民間企業との取引を拡大し、「その割合を3―4割まで上げたい」(金子光一品質保証部部長)考えだ。

 中小企業にとって同センターで受けられる訓練のメリットは大きい。同様のトレーニングのために、社員を渡米させなければならなかった従来に比べ、コストや語学の面などから有利な環境になったと言える。

 一方、訓練を終えた人材は非破壊検査員の資格取得のため、航空機関連の非破壊試験現場で最大800時間以上のオン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)を積む必要がある。受験にはこれが要件となる。自社や協力会社などで既存の仕事がない企業には、このOJTをいかにクリアするかという課題がのしかかる。

 自動車や航空機関連メーカー向けに金属など試験片の分析、試験を請け負う神戸工業試験場(兵庫県播磨町)は、入社1年目の若手社員を同センターに送り込んだ。課題の航空機関連事業強化のため、資格取得を目指す。

 同社は中小企業が連携し航空機関連部品の一貫受注を目指す「神戸航空機産業クラスタープロジェクト」にも参画し、ここでの非破壊検査の役割を果たしたい考えだ。鶴井孝文会長は「OJTの受け入れ先企業を見つけることが喫緊の課題」と話す。

 国内の非破壊試験技術者の育成体制を整える、日本航空宇宙非破壊試験委員会も課題を認識する。濱田雄介委員長はOJT受け入れ先の課題に関し、「経済産業省の分科会で討議されている結果を受け、検討を始めたい」としている。

 兵庫県によると、同センターが今後実施予定の講習に関する問い合わせは多く、注目度は高いという。国や航空機関連メーカーなどとも協力し、国内で航空産業における非破壊検査員の確保に寄与できることを地道に目指す方針だ。

 国が目指す航空機産業の裾野拡大と深化のためにも欠かせない取り組みだ。
(文=神戸・大原佑美子)
日刊工業新聞2018年3月5日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
 日本非破壊検査協会の会長を務め、同検査に精通する緒方隆昌会長は「非破壊検査は製品を壊さず品質を保証する重要な検査手法で、航空機のような高い信頼性が求められる製品では必須。大手航空機メーカーは自社でレベル3の有資格者を抱え、レベル1―3の資格者で構成される検査体制を構築できている。一方、新規参入を希望する中小企業には資格取得の道が閉ざされているのが現実だ。海外へ受験に行くには英語力と多額の旅費、滞在費が必要。トレーニングセンター設立で、それらを補う大きな一歩を踏み出したと思う」と話す。 (日刊工業新聞神戸総局・大原佑美子)

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