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27万人の外国人留学生、国内就職率が3割の現実と可能性

富士機械製造のアヌスヤさんは、なぜ日本に惹かれたのか
27万人の外国人留学生、国内就職率が3割の現実と可能性

富士機械製造へ2016年4月に入社したナラサンビ・アヌスヤさん

 我が国の外国人留学生は2017年5月1日現在で26万7042人。前年同期比11.6%増で過去最多を記録した。政府は2020年までに外国人留学生30万人の受け入れを目標に掲げているが、その達成も視野に入ってきた。しかし課題もある。留学生の中でも大学や大学院を卒業、修了した高度人材は、少子高齢化が進む日本では大きな戦力になり得るものの、国内での就職率は3割程度になっている。これら留学生の活躍の場を日本企業に広げていくことが欠かせない。

新卒入社に留学生


 電子部品実装ロボット大手の富士機械製造(愛知県知立市)。2013年以降、毎年のように外国人留学生が新卒で入社している。「留学生向けに特別な対応はしておらず、日本人の学生と同じように採用している。優秀な学生がたまたま留学生だっただけ」と総務部部長の鈴木隆紀さんは話す。

 インドから留学し、2016年4月に入社したナラサンビ・アヌスヤさんも、そんな中の1人。日本人学生と同様に夏休みのインターンシップに参加し、「仕事の内容や社風、先輩の人柄などから入社を希望した」。同期入社は30人おり、彼女の他には中国からの留学生が1人いる。

 ナラサンビ・アヌスヤさんが来日したのは2013年10月。半年間の語学研修を経て、名古屋工業大学の大学院へ入学した。インドのチェンナイ市出身で、高校、大学とエレクトロニクスを学んだ。IC回路設計を勉強するため大学院への進学を決意。すでに日本に留学していた旧知の先輩から「日本はモノづくりで優れている」と聞いていたため、留学先として日本を選んだ。

 Anna Universityの同じカレッジから留学を希望していた同期生の中で、日本を留学先として希望したのは1人だけだった。留学先として圧倒的に人気があるのはアメリカで、イギリス、ドイツが続いた。ちなみに留学後に富士機械製造をインターンシップ先に選んだ理由は、高校時代に授業の一環で見学した工場で、高速で電子部品を基板に組み付ける実装ロボットがもっとも印象に残ったためという。

AI開発に従事


 大学院ではハウリングを低減するためのアナログ回路設計に取り組んだ。富士機械製造ではAI技術の開発チームに所属している。電子部品実装ロボットなどの製品に寄せられた課題をAIで解決できるように研究を進めている。

 「まだ研究段階ですが、AIの開発競争に負けないように、自社商品に早くAIを組み込みたい」と意気込む。総務部部長の鈴木さんも「留学生は皆、目的意識を持ちアグレッシブ。そのような留学生が異文化を持ち込むことで、新しい発想が生まれるなど現場でも刺激になっている」とエールを送る。

 電子機器の製造装置の販売先は、“世界の工場”である中国を始めとした海外が中心となる。同社の売上高も約85%を海外が占める。そのため技術力と英語力を兼ね備えた戦力は不可欠だ。

 「将来は技術やサービスの海外拠点の責任者など、グローバルで活躍できるような道を作っていきたい」(鈴木さん)と留学生には期待をかける。ナラサンビ・アヌスヤさんも「外国人だからこそグローバル展開で貢献できることもあると思う。そのために、まずは勉強して、その経験を生かせるように成長していきたい」と力を込める。休日にはインターネットでAI関連の論文を読んだりオンラインの大学講座を受けたりと、スキルアップにも余念が無い。

日本での生活には魅力も


 ただ日本国際化推進協会が行った、日本への留学生や元留学生への調査では、約83%が日本に住むことに魅力を感じている一方、働くことには約51%が否定的という結果が出ている。「一番のポイントになるのはコミュニケーションがとれるか」と鈴木さんが語るように、留学生にとっては日本語がハードルとなるケースは少なくないだろう。富士機械製造ではある程度の日本語が話せる留学生を採用しており、ナラサンビ・アヌスヤさんも「漢字は難しい」と言うものの、会話は流ちょう。社内研修などを通じて同期社員や先輩社員とも交流を深めている。しかしIT企業の中には、英語が社内の公用語となっているところも、少ないながら現れている。

 優秀な外国人材を採用している企業や業界は、まだまだ限られるのではないだろうか。しかし企業がグローバル市場で成長を遂げようと思えば、いまや人材は世界から集めなければならない。個々の企業だけでなく、産業界や行政、日本社会全体の取り組みが、グローバルでの人材獲得競争に勝ち抜くためには必要だろう。
「まずは勉強して、その経験を生かせるように成長していきたい」
尾本憲由
尾本憲由 Omoto Noriyoshi 大阪支社編集局経済部
IT企業や一部の消費財メーカーならいざ知らず、まだまだ多くの製造業では、技術部門の大半を日本人、それも男性が占めるのではないだろうか。しかしビジネスはどんどんグローバル化し、IoTやAIなど技術領域は広がっている。そんな時代には、どれだけ多様な人材を集められるかが、競争力に直結してしまうのだと思う。

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