日本人宇宙飛行士が月を歩くのはいつになる?
1972年12月以来、人類が再び月面に降り立とうとしている。米国が主導するこの野心的な国際プロジェクトに、日本も優位な立場で参加することを目指しており、着陸や月面探査に必要な要素技術の開発に力を注いでいく。順調にいけば、2030年ごろには日本人宇宙飛行士が月を歩く姿を見ることができるかもしれない。
「天(あめ)の海に 雲の波立ち 月の船 星の林に 漕(こ)ぎ隠(かく)る見ゆ」(柿本人麻呂)―。最古の和歌集である万葉集には月を詠んだ歌が多く収められている。古くから月は最も身近な天体として親しまれてきた。
20世紀に入るとロケット技術の急速な進歩により、米ソによる宇宙開発競争が激化。その一環として米国のアポロ計画は進み、人類は69年7月に月に降り立つことができた。
それから約半世紀。各国による月面探査が再び活発化している。各国は月に何を求めるのか。月にはレアメタル(希少金属)などの鉱物資源があり、その鉱物を地球に持ち帰ることがかつては考えられていた。だが実際は経済的合理性から現実的ではない。
今、月の資源として最も有力視されているのは水の存在だ。月には約60億トンの氷が存在し、その両極には氷のある確率が高いと考えられている。
生命維持のための水としてだけでなく、分解して水素と酸素などの燃料を作り出すことを想定する。火星など地球からさらに遠い天体へ行くための補給基地として月が重要な役割を担うことになる。
また、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や東海大学などの国際研究チームは17年10月、月の地下に東西50キロメートルに及ぶ巨大な地下空洞を発見したと発表。日本の月周回衛星「かぐや」が搭載する電波レーダーによるデータを解析した成果だ。月の地下空洞の存在は隕石(いんせき)の衝突や放射線から機器や人を守れることなどから、将来の月面基地建設地としても有望だ。
国際プロジェクトの中核となる米国は、30年ごろの月面到達に向け、24年に運用が終了する国際宇宙ステーション(ISS)に続く月を周回する「月近傍有人拠点」の整備を進めている。
将来の火星有人探査に向けた中間拠点と位置付けられている。米航空宇宙局(NASA)では22年から建設を始め20年代後半の完成を目指しており、17年9月には米国はロシアと協力する共同声明を発表している。
こうした動きに対し、日本は深宇宙補給技術や有人宇宙滞在技術などの基盤技術をアピールして存在感を高め、月面着陸する日本人宇宙飛行士の権利確保を狙う。
日本は単独での有人探査計画はないが、無人での探査計画は着々と進んでいる。JAXAは、20年度に月面の目標地点に誤差100メートル以内のピンポイント着陸を目指す月面着陸機「SLIM」(スリム)の実証を行う予定だ。
さらに17年12月、JAXAとインド宇宙研究機関は、水がある可能性を秘めた月極域での探査に関する協定を締結。日本から20年前半の月探査機の打ち上げを目指す。この探査機の打ち上げには日本の新型基幹ロケット「H3」が使われるかも知れない。
一方、中国は月面で核融合燃料になると考えられている「ヘリウム3」を発掘し、地球でのエネルギー資源として活用することを目指す大胆な計画を進めている。
13年には月探査機「嫦娥(じょうが)3号」を打ち上げ、搭載する月面探査車「玉兎(ぎょくと)」を分離し、月探査を行った。さらに無人探査だけでなく、25年以降の月有人探査計画も進行中だ。
各国の資源探査の動きに対応するため、JAXAは17年12月に月極域探査に関する研究集会を開催。水があるとされる月極域への無人月面探査についてJAXAだけでなく、大学や企業を交えて月面探査に向けた多くの提案がなされた。
すでに民間は月探査に積極的に取り組んでいる。宇宙ベンチャーのispace(アイスペース、東京都港区)は17年12月、独自開発した無人の月着陸船を20年末までに打ち上げ、月を目指す計画を発表。20年末ごろに着陸させ、ローバーで月面を探査する計画だ。
さらに同社が運営する民間月面探査チーム「HAKUTO」(ハクト)は、米Xプライズ財団が運営する「グーグル・ルナ・エクスプライズ」に参加し、18年3月までにローバーを月面に上陸させることを目指している。
将来、アイスペースは100機以上のローバーを月面で展開し、探査に必要な水を探す目標を掲げる。同社の袴田武史最高経営責任者は、「月面の資源探査に必要な輸送システムを構築したい」と強調する。同社は資金面も順調で17年12月末時点で100億円以上の資金調達に成功するなど、投資家からの期待は大きい。
またこのレースに参加する米宇宙ベンチャー「ムーン・エクスプレス」は、月を「地球の8番目の大陸」と位置付け、無人探査機を月に送り込む予定だ。
(文=冨井哲雄)
宇宙探査の補給基地
「天(あめ)の海に 雲の波立ち 月の船 星の林に 漕(こ)ぎ隠(かく)る見ゆ」(柿本人麻呂)―。最古の和歌集である万葉集には月を詠んだ歌が多く収められている。古くから月は最も身近な天体として親しまれてきた。
20世紀に入るとロケット技術の急速な進歩により、米ソによる宇宙開発競争が激化。その一環として米国のアポロ計画は進み、人類は69年7月に月に降り立つことができた。
それから約半世紀。各国による月面探査が再び活発化している。各国は月に何を求めるのか。月にはレアメタル(希少金属)などの鉱物資源があり、その鉱物を地球に持ち帰ることがかつては考えられていた。だが実際は経済的合理性から現実的ではない。
今、月の資源として最も有力視されているのは水の存在だ。月には約60億トンの氷が存在し、その両極には氷のある確率が高いと考えられている。
生命維持のための水としてだけでなく、分解して水素と酸素などの燃料を作り出すことを想定する。火星など地球からさらに遠い天体へ行くための補給基地として月が重要な役割を担うことになる。
また、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や東海大学などの国際研究チームは17年10月、月の地下に東西50キロメートルに及ぶ巨大な地下空洞を発見したと発表。日本の月周回衛星「かぐや」が搭載する電波レーダーによるデータを解析した成果だ。月の地下空洞の存在は隕石(いんせき)の衝突や放射線から機器や人を守れることなどから、将来の月面基地建設地としても有望だ。
次期ISSで権利確保
国際プロジェクトの中核となる米国は、30年ごろの月面到達に向け、24年に運用が終了する国際宇宙ステーション(ISS)に続く月を周回する「月近傍有人拠点」の整備を進めている。
将来の火星有人探査に向けた中間拠点と位置付けられている。米航空宇宙局(NASA)では22年から建設を始め20年代後半の完成を目指しており、17年9月には米国はロシアと協力する共同声明を発表している。
こうした動きに対し、日本は深宇宙補給技術や有人宇宙滞在技術などの基盤技術をアピールして存在感を高め、月面着陸する日本人宇宙飛行士の権利確保を狙う。
日本は単独での有人探査計画はないが、無人での探査計画は着々と進んでいる。JAXAは、20年度に月面の目標地点に誤差100メートル以内のピンポイント着陸を目指す月面着陸機「SLIM」(スリム)の実証を行う予定だ。
さらに17年12月、JAXAとインド宇宙研究機関は、水がある可能性を秘めた月極域での探査に関する協定を締結。日本から20年前半の月探査機の打ち上げを目指す。この探査機の打ち上げには日本の新型基幹ロケット「H3」が使われるかも知れない。
一方、中国は月面で核融合燃料になると考えられている「ヘリウム3」を発掘し、地球でのエネルギー資源として活用することを目指す大胆な計画を進めている。
13年には月探査機「嫦娥(じょうが)3号」を打ち上げ、搭載する月面探査車「玉兎(ぎょくと)」を分離し、月探査を行った。さらに無人探査だけでなく、25年以降の月有人探査計画も進行中だ。
2020年、ベンチャーが着陸船打ち上げ
各国の資源探査の動きに対応するため、JAXAは17年12月に月極域探査に関する研究集会を開催。水があるとされる月極域への無人月面探査についてJAXAだけでなく、大学や企業を交えて月面探査に向けた多くの提案がなされた。
すでに民間は月探査に積極的に取り組んでいる。宇宙ベンチャーのispace(アイスペース、東京都港区)は17年12月、独自開発した無人の月着陸船を20年末までに打ち上げ、月を目指す計画を発表。20年末ごろに着陸させ、ローバーで月面を探査する計画だ。
さらに同社が運営する民間月面探査チーム「HAKUTO」(ハクト)は、米Xプライズ財団が運営する「グーグル・ルナ・エクスプライズ」に参加し、18年3月までにローバーを月面に上陸させることを目指している。
将来、アイスペースは100機以上のローバーを月面で展開し、探査に必要な水を探す目標を掲げる。同社の袴田武史最高経営責任者は、「月面の資源探査に必要な輸送システムを構築したい」と強調する。同社は資金面も順調で17年12月末時点で100億円以上の資金調達に成功するなど、投資家からの期待は大きい。
またこのレースに参加する米宇宙ベンチャー「ムーン・エクスプレス」は、月を「地球の8番目の大陸」と位置付け、無人探査機を月に送り込む予定だ。
(文=冨井哲雄)
日刊工業新聞2018年1月1日