「8K」放送にスイッチは入るか

業務用カメラ相次ぎ登場

 フルハイビジョンの4倍の解像度を持つ「4K」、16倍の解像度を持つ「8K」の実用放送が、2018年にいよいよ始まる。業務用カメラなどの撮影機器各社は4K用機器の拡販と同時に、4Kを上回る画質の「8K」向け製品の市場投入が加速している。世界的には8K放送の予定はまだ少ないが、各社は放送だけに留まらない高解像度映像の利用拡大に期待をかけている。

 8K撮影向け業務用カメラの発売が相次いでいる。シャープは約30年ぶりに業務用カメラの新製品として8K対応の「8C―B60A」を12月に発売する。

 ソニーは、8K3板式カメラ「UHC―8300」を10月に受注開始。池上通信機やキヤノンも、11月に開催された展示会「2017国際放送機器展」で8Kカメラシステムを展示し、今後に期待を寄せる。

 市場関係者は「4K用カメラは、4K放送前に売れ始めた。8Kも同じではないか」と見る。4K放送ではハイビジョンと4Kを両方撮影できる機材を選ぶ放送局が多い。

 NHKと民放がこぞって始める4K放送に対し、8Kの普及はまだ未知数だ。8Kの本放送を予定しているのは今のところNHKのみ。放送予定が少ない上、家庭での視聴には4Kでも十分に美しい。一般消費者が8Kに付加価値を見いだし、より高価なテレビなどを購入するには、映像美以外の価値提案が必要かもしれない。

カメラ・放送以外にも商機


 高解像度映像には、放送以外の利用価値がある。キヤノンのイメージコミュニケーション事業本部の枝窪弘雄副事業本部長は、「8Kは、医療やパブリックビューイング、保存用コンテンツなど高解像度と臨場感が求められる用途が期待できる。産業用が増えるのではないか」と指摘する。例えば、文化財や建造物、自然などの映像遺産は大きな注目を集めている。

 このためカメラ各社は、8Kによる“最高の映像”追求に余念がない。ソニープロフェッショナル・ソリューション&サービス本部の桐山宏志メディア事業担当VPは「8K3板式カメラで映像を超える表現を追求した」と自信たっぷりに語る。

 3板カメラは、光を電気信号に変換するイメージセンサーが3枚ある。光を赤と緑と青に分光し、3色の光を別のセンサーで受け取る。通常の1枚のイメージセンサーは、赤の光を受け取る画素では緑や青を受け取れないため、色は間引きされる。3板は3色全ての情報を受け取れるため、より忠実に色を再現できる。

 ソニービジネスソリューション(東京都港区)の宮島和雄社長は、「少しでもユーザーの期待を超えるのがソニーのDNAだ」と話す。放送用カメラの高いシェアを生かし、8Kでもリードを狙う。

 キヤノンの枝窪副事業本部長は「国内で相次ぐ国際スポーツイベントを視野に、センサーから手を入れて、8Kソリューションをブラッシュアップする」と意気込む。8K機材は実証実験段階だが、15年から展示会などでレンズからカメラ、映像編集用のディスプレーまでの一連の製品を紹介し、コンテンツを作成しながら研究を続けてきた。

 御手洗冨士夫会長兼最高経営責任者(CEO)は、一連の8K機材で撮影した映像を最初に見た時に、「全員に見せろ」と指示を出したという。8Kは現時点で最高の映像であると同時に、現時点の限界でもある。これを研究すれば進化の方向がわかる。

 例えばフォーカスの改善のために、カメラとディスプレーのどちらからアプローチするか。「8Kの研究から、8K以外の改善策も出てきた」(同事業本部の大川原裕人ICBソリューション開発センター所長)とし、8K研究で映像技術全体を底上げする。

 シャープは、アストロデザイン(東京都大田区)と共同開発した8K対応カメラ「8C―B60A」を、880万円(消費税抜き)で売り出す。1台で撮影と記録、再生、ライン出力を行う。
                    

「4K」はシェア争い本格化


 技術提案の活発な8Kに対し、4Kはシェア争いが本格化している。キヤノンの枝窪副事業本部長は「18年度あたりが需要のピークになるのではないか」と話す。20年に開催予定の東京五輪・パラリンピックの準備に加え、03年の地上デジタル放送開始時に導入した機材が更新時期に入るためだ。

 ソニービジネスソリューションの宮島和雄社長は、「15年に発売した4Kカメラ『HDC―4300』のスタジオ採用が増えてきた」と話す。キヤノンは、4Kで毎秒60コマ撮影できる小型業務用カメラ「XF405」を発売した。

 池上通信機は、4K製品に大型の箱形カメラを追加。同カメラは、大型望遠レンズと組み合わせた時に安定感がある。「番組を制作しやすいように、4Kでもこれまでと同じ使い勝手を提案する」(同社担当者)という。
池上通信機は4Kに箱形の大型カメラを追加。大型望遠レンズと好相性

 パナソニックにとって4Kでのシェア拡大の目玉製品は、現在も高いシェアを持つスイッチャーだ。スイッチャーは編集や加工、送出といった映像制作サブシステムの中核機器で、ワイプ挿入などの映像加工を操作する。スイッチャーを押さえることで、カメラを含む各種機材やソフトウエアに、パナソニック製品を採用してもらいやすくする狙いだ。

 「高精細で重たい映像が増えると、映像制作の仕事が増える。ワークフロー全体のサポートに焦点を当てて訴求する」(パナソニック担当者)という。制作現場の負担軽減や働き方改革は、4K対応に限らず大きな課題となっている。

 同社は4K映像を1本のケーブルで送れる「12G―SDI」に対応したライブスイッチャー「AV―HS8300」を競合他社に先駆けて発売した。他社は発表しているが、発売はまだ先で、「モノとして完成していることに違いがある」(同)。

 すでに日本テレビ放送網やフジテレビジョンなどで採用が決定。スイッチャーと合わせ、映像をファイルベースで効率的に管理するシステムなどを提案中だ。
パナソニックは4K対応のスイッチャーをいち早く投入

(文=梶原洵子)

日刊工業新聞2017年12月7日

日刊工業新聞 記者

日刊工業新聞 記者
12月11日
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4Kや8Kの増加は、映像制作のワークフローから映像の新たな用途まで、さまざまな変化を誘発する。仮想現実(VR)システムなども無関係ではない。3次元(3D)テレビが失敗したように、映像のリアルさだけでは普及は難しい。市場拡大のカギは、単に美しい映像に留まらない提案ができるかにかかっている。
(日刊工業新聞第一・産業部梶原洵子)

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